第7話 『みずきのパンツが消えた!? 白熱のトレーニングラブコメ』
「パンツがないんだけどぉおおおおおおおおおおおお!!!??」
校舎のプール横、更衣室から悲鳴が響いたのは、夕方5時15分。
この声を聞いて、俺は確信した。
(……あ、今日も平常運転だ)
水泳部の練習が終わり、夕暮れの中、後片付けを手伝っていた俺は、
プールサイドで叫ぶ天野みずきの姿を目撃した。
「ちょっと!! アンタら誰か、あたしのパンツ知らない!? 白と水色の星柄!! 昨日干してたやつ!!」
ヤバい。
パンツの特徴を堂々と公開してるあたり、かなり追い詰められてる。
「うわ、天野先輩またかよ」
「“パンツロスト女王”って異名がつくぞ……」
「てか水泳部、パンツなくしすぎじゃない?」
周囲の男子たちがヒソヒソとつぶやく。
そのときだった。
「し、白井ぃぃぃいいいいっ!!」
「……俺っ!?!?」
いきなり俺がロックオンされた。
「アンタさ、パンツ保管係でしょ!? 持ってってない!?」
「待って待って待って!? 持ち去り犯じゃないからね俺は!?」
このままじゃパンツ泥棒の濡れ衣不可避。
俺は、自主的に探偵モードに入った。
《パンツ捜索・作戦概要》
更衣室→なし。ベンチ裏にもなし。
ロッカー→開いていたが空っぽ。棚上も異常なし。
洗濯室→棚に古いタオルと謎の袋、そして――
「……あった。」
水泳帽と一緒に、隙間に押し込まれていた、白と水色の星柄のパンツ。
間違いない。
これは、あのとき選んだ柔軟剤“スプラッシュサボン”の香り付き。
「……助かった……」
「で、見つかったわけ?」
みずきが腕を組んで、俺を見上げてきた。
「うん。棚の隙間に落ちてた。俺、パンツ探しのスキルだけ上がっていってる気がする……」
「ふーん……でさ」
「うん?」
「返してくれたら……嗅いでもいいよ?」
「えっ!?!?」
「ちがっ、違うから!今のはなんかこうテンパってて!! ていうかそもそも嗅がないでよ!? セクハラだからね!?」
「えぇぇえええ!? どっちなの!!??」
そのあと、帰り道。
二人で並んで歩いてると、彼女がぽつりと呟いた。
「……ありがとね、探してくれて」
「いや、それは当然っていうか……みずきのパンツだから、って言うと語弊があるけど」
「……っ」
赤面してから、むすっとするみずき。
「でも、ほら……ちゃんと、“女の子扱い”って感じでさ」
「え?」
「普段さ、あたし、男っぽいとか水泳バカとか言われてんじゃん。
でも、あたしのパンツ探してくれる男子なんて、白井しかいないわけで……」
だんだん声が小さくなって、最後には「ばーか」と言って背を向けた。
その夜、
俺の部屋のパンツ保管ボックスに、新しい袋が加わっていた。
中には、新品の白×水色の星柄パンツと、
一枚のメモ。
「予備ってことで。次なくしたら、これでお願い。
……絶対、返してよね。洗って。――みずき」