第58話 『布団が干された朝、香りは恋の余韻になる』
雨は、止んでいた。
それはあまりに静かな朝だった。
風が弱く、空はぼんやりと明るく、
あれほど耳に馴染んでいた雨音が、もうどこにもなかった。
窓を開けた瞬間、
外の空気は驚くほど冷たくて、乾いていた。
「……今日、干せるな」
悠真が呟くと、ヒロインたちが次々と顔を上げた。
「ほんとだ、久しぶりの太陽……」
「……やっと、布団が乾く……」
「よし、布団全出しするわよ」
「この空気、香りが逃げないうちに」
そして、ベランダ。
そこに並んだのは、パンツではなかった。
干されたのは――
昨晩まで想いと匂いを吸い込んでいた布団とシーツだった。
重く、柔らかく、あたたかかった記憶。
誰かと隣で眠った時間。
香りが滲んで、夜が染み込んだ布たち。
今、それらは太陽の下で、静かに揺れていた。
ことりが、そっと自分の布団に顔を寄せる。
「……この布団、恋の温もりが抜けきらないね……」
その言葉に、誰も返さなかった。
けれど全員が、同じことを感じていた。
セシリアは、シーツに指を滑らせて言った。
「香りって不思議。乾いていくほどに、昨日を想い出すの」
レナは、枕の裏に小さなタグを縫い込んでいた。
「これ……絶対、また使うからな。覚えとけ、悠真」
みずきは、手ぬぐいでシーツを叩きながら笑った。
「やっべ、なんか……幸せすぎて、次の雨が怖いな」
悠真は、一枚ずつ布団を手に取りながら、ぽつりと呟いた。
「……パンツより重い。でも、香りは……あったかいな」
くるみは静かに頷いた。
「香りがあるから、記憶になる。
何もなければ、ただの繊維。
でも……ここには、ちゃんと“恋の証拠”がある」
そして最後に、しおりが一歩前に出る。
風に揺れる布団の列を眺めながら、
ノートを閉じて、顔を上げる。
「……次は、ブラの話、しましょうか」
その一言で、空気がピリ、と張りつめた。
悠真のモノローグ:
夜を共にした布団には、
恋の重みが染みてる。
干された今でも、温度が抜けきらない。
そして――
次は、
**さらに近くて、もっと繊細な“布の記憶”**へ。