第54話 **『寝言と寝汗と、“抱きしめたのは誰か”問題』**
深夜――。
窓を打つ雨音。
その奥で、遠くの雷鳴。
そして、俺の夢の中。
なぜか俺は、なにもない白い部屋で、
誰かの香りを探していた。
「……ぅ、う……ん……」
寝返りを打ったつもりが、身体が重い。
いや、違う。温かい。
何かが、俺に寄り添っている。
腕の中に、柔らかい感触。
ほのかに甘くて、しっとりした布越しの体温。
それは確かに、人肌だった。
俺は、無意識に呟いていた。
「……ぎゅー……」
そしてそのまま、深く眠りに落ちていった。
朝
空はまだ曇っている。
だが、室内の空気は晴れてはいなかった。
俺が目を覚ましたとき、
布団の上に6つの視線が突き刺さっていた。
「おはようございます……白井くん」
くるみが、意味深に微笑んでいる。
「ふむ……観察記録、昨夜3時20分。布団を移動した形跡」
しおりはノートをめくる。
「なぁ、お前」
レナが口火を切った。
「……昨日、“ぎゅー”って言ってただろ!?」
「は、はぁっ!?」
俺の目が点になる。
「ぎゅーって言いながら、誰かの布団に潜り込んだよな!?
あれ、絶対事故じゃねぇだろ!!」
レナは耳まで赤いが、拳を震わせて詰め寄る。
「私はね、匂いで目が覚めたわ。
あなたの体温と混ざって、私のラベンダーが全然違う香りになってたの」
セシリアが、手にした紅茶を一口。
「……あなた、ほんとに正直ね」
と、艶っぽく微笑む。
ことりはというと、顔を真っ赤にして、
ずっとシーツの端を握りしめたまま、うつむいていた。
みずき:「なあ、マジで、誰と寝てたかだけ教えてくれ!!」
つばさ:「体重圧分布的には私ではありません」
くるみ:「汗の“混ざり方”で、かなり有力な布団は特定できますけど……」
――だが、俺は思い出せなかった。
本当に、誰の布団だったのかが。
「ま、まって、俺そんなこと……」
だが俺の布団――
いや、“元”俺の布団を見た瞬間、全てが崩れた。
シーツに残る、複数の香りのしみ。
石鹸、ミント、ラベンダー、シトラス、少しだけスパイス。
しかも、それが布団の上下左右から入り込んでいる。
「…………俺の布団、全方向から“女子のしみ”で飽和してる……!」
ことり:「うぅ……私の、匂い……残ってるかな……」
みずき:「残ってるっつーか、混ざってバグってる!」
しおり:「これは新たな現象、“布団融合型ハーレム圧縮香”」
セシリア:「香水より妖艶な匂いがするわね」
悠真のモノローグ
俺は……パンツだけじゃなかった。
布団まで……こんなに恋で汚染されるなんて……!
でも、嫌じゃない。
香りがあるってことは、誰かが想ってくれてたってことだから。
そしてその夜。
ヒロインたちはそれぞれ、自分の布団にリボンや印をつけはじめた。
「これで、**“次からは間違えないように”**ってことだから」
と、くるみがウインクして告げる。