第53話 **『布団の香りは誰のもの? 嗅覚推理ゲーム開幕!』**
「ねぇ、白井くん」
朝食後、くるみがふと提案してきた。
「昨日、全員この部屋で寝たじゃない?
布団に、それぞれの香りが残ってるはず……」
「だから、やってみない?」
「“誰の匂いが一番残ってるか選手権”」
空気が止まった。
「えっ……ちょ、何それ……」
ことりが顔を真っ赤にする。
「バカじゃねぇの!? そんなんわかるわけ……」
レナが言いかけて、チラリと俺を見る。
「……いや、こいつ……嗅ぐな……たぶんわかるな……」
「パンツであれだけ嗅ぎ分けてたなら、布団も余裕でしょう」
しおりが腕を組み、観察ノートを構える。
「香りは情報。しかも、“寝てる間に無防備に放たれた恋の残り香”よ」
セシリアが紅茶を啜りながら、妙に艶っぽく言った。
「う、うそ……昨日、ちょっと汗かいちゃって……」
ことりがタオルで顔を覆う。
「私は寝る前にスプレー撒いたからたぶん勝てる……!」
みずきは謎の意気込みを見せる。
そして、準備は始まった。
布団は全員分、きれいに畳まれ、並べられた。
全て、見た目は同じように整っている。
ヒロインたちは順に、1人ずつ“仮眠”を取る。
「じゃ、10分間ずつ寝て、布団に香りを残す感じで」
くるみが指示を出す。
「白井くんには、誰がどの布団に寝たかは伏せておくね。
純粋に、香りで当ててもらうから」
ゲーム開始。
最初の仮眠は、ことり。
すうすうと静かに寝息を立てていたが、
額にはほんのり汗の粒。
布団が、彼女の体温と“甘い石鹸の匂い”を吸っていくのが分かる。
次はみずき。
寝相が豪快。布団の端まで蹴りながら寝るが、
そのぶん、香りも広範囲に行き渡っている。
スポーツミスト系の匂いと、ほのかな汗のリアルさ。
レナは仰向けで完全に無防備。
汗は少ないが、どこか土っぽい香りと、
タバスコのような刺激的な“自分を隠さない匂い”。
つばさは寝ながらも空調データを取っていたが、
無意識に口元を緩めて寝息を立てている。
清潔さの中に、**“あえて無臭にしなかった意志”**が香る。
くるみ自身も仮眠に加わり、
ラベンダーと少女らしいミルキーな香りを置いていく。
そして最後、セシリア。
深く、ゆっくりと眠った彼女の布団には――
官能的なバニラと、秘めた熱が宿っていた。
全員が離れたあと。
俺は、布団の前に立つ。
「……まじかよ。これ、やばいって……」
顔を近づける。
一枚目。石鹸と、すこしだけ涙の匂い。
ことり、かもしれない。
二枚目。ミントの奥に、素肌。
みずき、これもあり得る。
三枚目。強い、けど優しい。
セシリアの、気もする。
四枚目。何も感じない。……つばさ?
香りを嗅ぐたびに、
心臓がバクバクしてくる。
鼻よりも、感情のほうが先に反応する。
「ダメだ……ドキドキが先に来て集中できねぇ……!」
だが、くるみが囁く。
「これは……恋の残り香なんだよ、悠真くん」
「……心で、感じてみて」
悠真のモノローグ
布団って……
自分の中の“好き”に触れたとき、
一番、香りが濃くなるんだ。
俺が感じたのは――
匂いじゃなくて、想いの温度だった。