表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/171

第50話 **『無臭のパンツなんてパンツじゃない!ただの布だッッ!!』**

 部屋には風が吹いていた。


 ロープに吊るされたパンツたちが、

 それぞれの“揺れ”を誇るように、静かに、風に舞っていた。


 7枚目のパンツだけが――まだ、吊るされていなかった。


「やっぱり……私は間違ってるのかな……?」


 つばさは、パンツを膝に抱えたまま、ぽつりと呟いた。


 完璧に洗浄されたミント色のボクサーショーツ。

 殺菌、消臭、抗菌加工。

 理想的な機能性と清潔感。

 でも――そこには、誰の息遣いも残っていなかった。


「恋って、曖昧な感情でしょ?

 しみや匂いで伝えるなんて、非合理的だよ。

 そんなの……思い込みでしかないじゃない」


 その言葉に、誰もすぐに返せなかった。


 だけど、全員の目が、あるひとりに向いていた。


 俺、白井悠真。


 俺は、ゆっくり立ち上がった。


 つばさの目の前に歩き出す。


 そして、静かに、深く息を吸って――


「違うよ、つばさ」


「……パンツってのはな……」


「しみがあって。

 匂いがあって。

 ムレてたり、くたびれてたり。

 洗っても完全には落ちきらない――

 そういう全部を、“それでも好きだ”って言える布なんだよ!!」


 全員が、息を呑んだ。


「たしかに無臭は清潔だよ。

 機能的で、完璧で、効率的だ。

 でもな、それって――

 誰の想いも残ってない、“ただの布”じゃねぇか!!」


 言葉が、突き刺さる。


 つばさの瞳が揺れる。


「俺たちは……」


「誰かが履いてたって分かる“匂い”が、嬉しかったんだよ。」


「汗とか、柔軟剤とか、ちょっと恥ずかしいしみとか。

 そういうの全部含めて、

 “ああ、このパンツは、あの子のものなんだな”って思えるのが――」


「パンツなんだよ!!」


「無臭のパンツなんて……」


 俺は拳を握りしめて、叫んだ。


「パンツじゃねえ!!ただの布だッッ!!」


 ――沈黙。


 それを破ったのは、くるみの涙だった。


 彼女はハンカチで目元を押さえながら、小さく微笑んだ。


「……ありがとう、悠真くん。

 やっと……言ってくれた」


「ずっとね、誰かが“布”じゃなくて“恋”って言ってくれるの、待ってたの」


 みずき:「……泣かせにくんなよ、もう……」

 レナ:「くっそ、ほんとバカ正直だな、お前」

 セシリア:「でも……それでこそ、白井悠真ね」


 しおり:「観測完了。“布が、パンツになる瞬間”……記録」


 そして――つばさが、静かに立ち上がった。


 彼女の手には、ミント色のショーツ。


 そのパンツに――わずかにだけ、柔軟剤の香りが残っていた。


「……今日だけ、試してみる」


「“ちょっとだけ香る”パンツ。

 誰かに気づいてもらえるか、見てみたいの」


 そして彼女は、

 その布を、ベランダのロープにそっと吊るした。


 7枚のパンツが、風に揺れる。


 無臭、星柄、レース、紐、抗菌、コットン、そして――微香性。


 くるみが、窓辺で微笑んだ。


「……いい匂い。

 まだ照れてるけど……恋の始まりの香り。」


悠真のモノローグ

しみも、匂いも、恥ずかしさも。

それでも干したいって思えることが、

パンツを“恋の布”に変えるんだ。


無臭の布も、今日からは――

誰かの想いを、ちゃんと伝えることができる。


それを干すのが、俺の役目だ。


エンディング描写

 夕暮れのベランダ。


 7枚のパンツが、黄金色の光に揺れている。


 誰かの想い。

 しみの記憶。

 香りの余韻。


 その全部が、

 **“恋してる布”**として、静かに、やさしく、風に舞っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ