第4話『まさかのパンツ爆弾──“鬼咲レナ”参戦!』
パンツ。
それは人類の叡智にして、思春期男子の宿命。
だが今、この学園では“ある種の伝説”として囁かれていた。
「なあ知ってるか? 放課後の男子トイレに、毎日落ちてんだってさ……」
「パンツが?」
「しかも、毎回種類が違うらしいぞ……。昨日は黒のTバック。今日は、ベビーピンクの総レース……」
「犯人は……“パンツの妖怪”だって噂だぜ」
パンツの妖怪。
謎のパンツを学内に落としては去っていく、影の存在。
だが今日、真相が明らかになった。
「なァァアにが“妖怪”だってぇええ!? あれは事故だって言ってんだろがァ!!」
校内に爆音が響く。
鬼咲レナ(おにさき・れな)――
特攻服を彷彿とさせるカスタム制服。
改造原付で通学し、学内では「爆音のレナ」「轟音女帝」とも呼ばれる、地元最強ヤンキー娘。
そんな彼女が、いま……
パンツを振りかざして、俺にブチギレていた。
「この……“しまったパンツ”見たろ、お前ァ!!!」
「えええええ!? いや見たけど!? いやでも拾っただけだし!!」
「拾うなやァァアアア!! 見られたら女の子死ぬんじゃァァア!!」
「落ちてたの男子トイレだからね!? そもそもなんで女子のパンツが男子トイレにあんの!?」
俺の叫びも虚しく、教室の窓ガラスがビリビリ震える怒声が響く。
数時間前。
事件は、放課後の男子トイレで起きた。
個室を使おうとドアを開けたら、そこに……
畳まれた(?)黒のスポーティパンツが、静かに鎮座していた。
「またかよ……なんで俺の人生、パンツとばっかり遭遇してんの……」
誰もいないことを確認して拾ったその瞬間――
「おう、てめぇ……それ持って出るんじゃねぇぞ」
背後に立っていたのが、鬼咲レナだった。
教室に戻ってきた今、パンツはなぜか俺の手に握られており、
レナは腕を組んで仁王立ち。
「……ちゃんと謝れよ。見たこと」
「えぇ……」
「わ、私が! わざと落としたとかじゃねえし! ……あ、あれはその……我慢してたら……その……うっかりで……ッ!!」
「うっかり……?」
「おしっこ我慢トレーニングだよッ!! 体鍛えるためにだよッ!!」
「その方向でトレーニングする人、人生で初めて見た……!」
その場が爆笑とどよめきに包まれた、直後。
「……パンツの落とし主を、笑うなよ」
俺が言った。
我ながら謎の使命感で。
「たまたま落としただけだろ。誰だって、そういう日がある。
パンツが落ちるのは、不幸じゃなくて……青春だ」
静まり返る教室。
「白井くん……かっこいい……」
「なにあいつ……“パンツ拾いのナイト”とか呼ばれてんの、伊達じゃねぇな……」
名誉なのか、不名誉なのか分からん称号を得てしまった。
放課後、原付のヘルメットを抱えたレナが、こっそり俺に話しかけてきた。
「……さっきの、ありがとな」
「いやいや、気にしないで。俺、なんか最近パンツ拾ってばっかりだし」
「お、お前さ……」
「ん?」
「……次、また落としたら……拾ってくれ」
顔を赤くして、早口で言って、
バリバリに改造された原付で爆音を残して去っていった。
(この世界、マジでパンツが飛び交ってる……)