第42話 『誰の布が、いちばん濡れているか選手権(非公式)』
午後三時。
窓の外は相変わらずの雨模様。
けれど俺の部屋の中は、それ以上に――湿気と羞恥と香りで混迷していた。
吊るされた十数枚のパンツ。
微かに揺れるレースとメッシュの布。
そこに立つのは、香坂くるみ。
転校初日とは思えない集中力で、次々とパンツに顔を近づけていた。
くるみ:「この紐パン、やっぱり強い。香りがクリアで……“恋に自覚がある”匂い。濡れ方も、自己表現的」
セシリア(腕組み):「当然ですわ。布面積が“本心”に直結しますから」
くるみ:「これは……ふわっとしてる。遠くで揺れてる。**“恋の途中”**って感じ……」
ことり(即赤面):「っ!? ……そ、それ、わたしの……」
みずき:「あたしのは!?あたしのはどう!?」
くるみ:「うん。すごく主張がある。でもちょっと……混乱してる匂い。ドキドキと迷いが混ざってる」
みずき:「くぅ〜〜!乙女心の生乾きバレたァ!」
レナ:「……ちょっと、待て。パンツの湿り=恋心の評価とか、誰が決めたよ!?」
しおり(真顔):「くるみさんの鼻……**“感情読解嗅覚”**です。科学より信頼できます」
つばさ:「悔しい……でも認めざるを得ない……!」
焦り始めたヒロイン陣は、謎の行動に走り出す。
事案①:香水ぶっかけ系
「ねぇこれどう!?ちょっとバニラ系つけたんだけど!恋してる感あるでしょ!?」
→ くるみ「……香りが人工的で、感情の“しみ”が隠れてます。“見せかけの恋”です」
事案②:アロマ系カバー作戦
「柑橘系のアロマで……清楚っぽくならないかなって……」
→ くるみ「逆に“抑圧された欲望”が浮き彫りに……すごくエモいです」
ことり(顔真っ赤):「やだやだやだ~~~!!」
事案③:布地研究家の反逆
「じゃあこれはどうですか!?発汗試験で制汗加工したパンツ!」
→ くるみ「……無臭です。でも、だからこそ“感情の欠落”が匂います」
つばさ(敗北の構え):「……負けた……嗅覚に……」
その異常事態に、俺もようやくツッコミを入れる。
「……これ、ただの文化布崩壊じゃん……!」
だが、それでも止まらない。
くるみの嗅覚が暴くのは、布に染みた恋心と羞恥の濃度。
ラスト、彼女はひとつの布にゆっくりと手を伸ばした。
「……これが、今日いちばん“濡れてます”」
そのパンツは――
目立たないピンクの、シンプルなコットンショーツ。
誰のかは、口にされなかった。
けれど、その布だけが、しっとりと重たく揺れていた。
悠真のモノローグ
俺たちの恋は、まだ乾いていない。
湿った布に染みるのは、
ただの水分でも、汗でも、おしっこでもなくて――
きっと、想いの“重さ”なんだ。




