第32話 『パンツ? 布じゃなくて“線”です──紐パン少女、襲来』
早朝の山小屋。
洗濯干し場には、朝霧が残り、風はまだひんやりとしていた。
俺は洗濯カゴを抱えて、いつものように作業を始めていた。
「レナのはこれだな。黒ボクサー、今日も角度ピシッと決まってる」
「みずきのは速乾メッシュ。ことりのは……レース付きか。可愛いな……って俺は何言ってんだ」
そして、俺は――それを見た。
洗濯ロープに干されていた、謎の物体。
布じゃなかった。紐だった。
「えっ……パンツ、これ……?」
鮮やかな赤。
左右を極細の紐で繋ぎ、中央部にハンモックのような布地が数センチ。
**履けるのかこれ!?**と本気で心配になるほどの布面積。
「……だれの!?」
そのとき、背後から聞こえた声。
「Good morning, dear washer boy.」
振り返ると、陽光の中に立っていたのは――
金髪と紅い瞳を持つ、異国の香りを纏った美少女。
セシリア=絢辻=ローズマリー。
「えっ……このパンツ、君の……?」
「Yes. It is my ceremonial underwear. For special occasions and... for cultural immersion.」
彼女は笑った。
そして、朝陽に透けた赤い紐パンを指差しながら、こう言った。
「これが、日本の文化的洗濯場……まるで恋の祭壇ね。」
俺:「文化的じゃねぇよ!?!?!?」
その後、他のヒロインたちも干し場に集合。
「おはよう悠真ー……って、なにこれ」
「え、これって……布? 紐? なんかの飾り?」
「いや、明らかにパンツ……の分類に、入れていいの……!?」
レナ:「これがパンツなら……うちのが“鎧”に見えるじゃん!!」
みずき:「くっそ……通気性負けた気がする……」
ことり:「あんなの……干すものじゃなくて、包む勇気じゃない……?」
つばさは真顔で言った。
「構造的に不可能です。あれはパンツとして成立していません。
……が、“見せること”が主眼なら……布よりも概念です」
概念!? パンツの次はもう概念!?
そんな空気の中、セシリアはにこやかに紐パンを揺らしながらこう続けた。
「ねぇ、白井くん。私のパンツ、風に揺れるとキレイでしょう?
恋って、そういうものじゃない?」
「いやだからどんな哲学だよそれぇぇぇぇぇ!!!」
朝陽に赤く揺れる紐パン。
その余韻は、既存ヒロインたちにとって、
「宣戦布告」そのものであった。