第31話 『出発!山小屋でパンツを干す理由(わけ)』
朝、集合場所の正門前。
合宿用の大きな旅行カバンとリュックが並ぶ中、
俺――白井悠真は、**「お前が洗濯担当だって」**と告げられていた。
「……え、待って。もう決定事項なの?」
「うん。ほら、“実績ある”って評価されてたし」
にっこり笑う生活指導の先生。
「どこでそんな実績出した俺!?」
――ベランダでパンツ干してただけなんですけど!!!
今回の合宿は、家庭科部主催の生活実習合宿(通称・布キャン)。
山奥の木造ロッジで、炊事、洗濯、裁縫、共同生活の全てを学ぶ3泊4日。
当然ながら――
パンツは濡れる。
そして、
パンツは干される。
「ねえ……下着って何枚持ってけばいいのかな……?」
「え、三泊ってことは……最低でも三枚?」
「山の湿気やばいらしいよ。速乾性ないとヤバいって!」
バスを待つ女子たちの声が、やたら“布の運命”に敏感だった。
ことりは、おずおずとポーチを握りながら言う。
「わたし、レース付きの……持ってきちゃった……かわいいけど、乾きにくいよね……」
「うん、それ、“しめしめパンツ”になるぞ」
レナが腕を組む。
「濡れたら、スースーして気になるんだよなあ……」
「私はメッシュタイプ5枚+コットン2枚持ってきたよ。
**“攻守自在の布陣”**ってやつ」
「パンツに陣形とかある!?」
一方、バス車内。
ざわめく後部座席の中、
静かだった空間に、突然響き渡った声。
「……パンツ、忘れました」
神堂しおりである。
「……は?」
「……履いてはいます。1枚。観察用のやつ」
「観察用って何!?」
「でも、それだけです。私は、“濡れたら終わり”です」
発言全体がこわい。
車内の温度が一気に冷える中、
つばさが真顔でメモを取りながら言う。
「これは非常に深刻です。パンツが乾かなければ、
恋も感情も、**“保存できない”**ということですから」
「話が哲学すぎて布から離れてってるんだよな……」
そして、到着したのは標高800m超の山中ロッジ。
空気はうまい。虫は多い。湿気は……地獄。
「うそ……汗かいてないのに、下着がじんわりしてる……」
「湿度、92%……布の敵じゃんこれ……」
ことりがスカートの裾をそっと引っ張り、
みずきが自分の荷物から速乾スプレーを取り出す。
「速乾スプレーは布に優しくない!あたし知ってる!」
「でも他に手がないッ!!」
そんな中、先生の一言が響く。
「本日の洗濯干し係は……白井くん、お願いね」
「……やっぱ俺がやるんすか」
「経験者でしょ?」
「“パンツ干し経験者”ってワード、俺の人生で一番不名誉なんですけど!!!」
その夜。
部屋に集まった女子たちの会話は、完全に“パンツ戦争前夜”だった。
「どれ干すか、もう決めた?」
「明日は速乾メインでいく。勝負下着は最終日に温存!」
「お風呂上がりに“干す”までの流れ、効率大事!」
そしてその中、
セシリア=絢辻=ローズマリーが、静かに“極細紐パン”を荷物から取り出していた――。
「……この布、干されることで輝くの。
明日、恋と布が交差する瞬間よ。ふふっ」