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第28話 『観察日記と、パンツの記録──彼女はすでに“知っている”』

 放課後の図書室。

 窓際の席、静まり返った空間で、**異常な“紙の音”**が響いていた。


 パラ……パラ……パラ……


「白井くん、あなたの“パンツ行動”の初記録は──8月27日、午前6時34分。

 ベランダに白地・レース付きの布地を両手で干す姿が非常に印象的でした」


「なにこのホラー朗読!?」


 目の前でノートを広げる神堂しおり。

 ページには、細密に描かれた観察記録。


 ◆観察記録抜粋:神堂しおり私的調査ノート Vol.1


 パンツNo.3(ことり):湿度85%、布揺れ角15度、干し主=白井/注視者=本人

 →11分間中、5回チラ見。恋心ありと判断


 パンツNo.5(ほのか):サテン素材/明らかに“前面しみ”の跡あり

 →干す際の白井の指の動き=「優しさ+気遣い」特化パターン確認


 パンツNo.6(レナ):ボクサー型/レナの羞恥赤面時間=8.6秒

 →「干され方」よりも「干す人間」に反応している可能性


 悠真:「やばい。記録、詳細すぎる。ていうか普通に怖い」


「ちなみに、ことりさんのスカートのたわみが不規則になったのは、尿意による下腹部抑制行動です」


「言い方やめて!!本人の前で言わないで!!」


 その頃、教室のヒロインズも動き出していた。


「ねぇ、やっぱあの女おかしくない?」


「てかなんで“スカートのたわみ”とか知ってんの?観察癖?いや盗撮癖?」


「私たちのパンツ、どこまで見られてたの……?」


 ざわつく中、嫉妬と警戒がじわじわ交じりはじめていた。


 一方で悠真は――しおりの言動に、ただただ翻弄されていた。


「……しおり、さ。なんでそんなに俺たちを観察してるの? パンツのことまで……」


 しおりは、首をかしげた。


「……観察は、私の呼吸ですから。

 それに、“布に宿った感情”って……素敵だと思いませんか?」


「昨日、ほのかさんが干していたパンツ。

 あれは“もう一度見てほしい”という気持ちが織り込まれてました」


「パンツに……気持ちが……織り込まれてるの?」


「はい。しっとりとした記憶と、少し甘い香り。

 “好き”という感情の、濡れ始めの匂いがしました」


 その瞬間、悠真の耳が真っ赤になる。


「……でも、まだ終わってませんよ?」


「え?」


 しおりは、すっとノートに目を落としながら言った。


「濡れた過去も大事ですが……

 “これから濡れる未来”も、記録しないといけないので」


「“未来のしみ”を前提にするのやめてええええ!!!」


 そして、彼女は小さく口元だけを笑わせる。


「楽しみですね、白井くん。

 次に濡れるのは……誰だと思います?」



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