第2話『パンツ返却日和。君と選んだ柔軟剤の香り』
翌日。昼休み。
「……で、本当に洗ってくれたんだ」
ことりが恥ずかしそうに笑う。
昨日拾ってしまった“白と蛍光グリーンのしまパン”──
それを洗濯して、小さなジップ袋に丁寧に入れて返した俺。
いや、普通ならあり得ない。
パンツ洗って返すって何だよ。どうして俺は青春のスタートラインが**“しまパン”なんだよ。**
「ありがとう、白井くん。ほんとに……助かった。変な噂にもなってないし……ね」
安心したように胸を撫で下ろす彼女。
俺も心底ホッとした──が。
「……で、柔軟剤って、何使った?」
「えっ」
「……柔軟剤。何の香りか聞いときたいなって」
ことりが、ほわっと微笑んだ。
その顔は、何かこう、ちょっとずるい。
まるで「それが、私の下着の香りになるから」みたいなニュアンスを含んでいて――
「ぶっふぉ!!??」
「えっ!? ど、どうしたの白井くん!?」
口に含んでた牛乳を吹き出してしまった。
放課後、俺は彼女とスーパーにいた。
「で、なんで柔軟剤一緒に買いに来る流れになったんだっけ……?」
「……また、お願いしたいことがあるから」
「お願いって、パンツ洗ってってこと!?」
返事はない。
けど顔が真っ赤になってる。
これもう完全にYESってことじゃん!
デートじゃない。
これはあくまで、“洗濯補佐任務”。でも俺の心は完全にデート気分。
(隣を歩いてるのが、パンツの持ち主ってだけで、なんか……ドキドキするんだが!?)
そして──
「ふぁっ!? ちょっと待って、それ私のパンツじゃないの!?」
突然、店内に爆弾のような声が響いた。
「えっ、は!? パンツ!? なにパンツ!?」
振り返ると、そこには短パン姿のスポーティ美少女が立っていた。
天野みずき。
水泳部のエース。活発で口調も男勝り。だが、その視線は鋭く俺をロックオンしていた。
「アンタさ、この前の掃除中、体育館裏で私のパンツ拾ってたよね!? 白と水色のやつ!」
「いや! それは! ちょっと待って! なんか誤解してる気がするけど!?」
「証拠あるから! あのときの袋に名前書いてあったし!」
「うわぁぁ名前付きはダメだぁあああ!!」
スーパーの柔軟剤コーナーで、パンツ返却バトル第2章が勃発した。
「白井くん……どうして、みずきちゃんのまで……」
ことりがぼそっと呟いた。
目が少し潤んでて、表情がどこか切なげで――
これ、嫉妬……だよな?
しまった、俺、今……
“パンツ2枚持ってる男”になっちまった。
こんなの、誤解されるに決まってる!
「ち、ちがうんだことり! 俺、拾っただけで!」
「拾って……洗った?」
「洗って……ない! まだ! これから洗うところ!!」
「そっか……じゃあ、次に洗ってもらうのは、みずきちゃん……だね」
その言葉が、妙に胸に刺さる。
(この世界……思ってたよりやばいかもしれない)
その日の夜、俺の部屋の洗濯機に2枚のパンツが並んでいた。
白と蛍光グリーンのしまパン
白と水色のスポーティパンツ
柔軟剤は、ことりと一緒に選んだ、“さくらとシャボンの香り”。
……これが、俺の青春の香りになるのか。