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第25話 『干す手、触れた布、昨日と違うあの子の距離』

昼前。

 洗い上がったパンツたちは、

 再び俺のアパートのベランダへと運ばれた。


 風はやわらかく、陽射しは少しだけ暑い。

 でも、その空間は妙にあたたかくて、くすぐったかった。


「……さ、干すか」


 俺の一言に、ヒロインたちは頷く。


 誰も「恥ずかしい」なんて言わなかった。

 昨日のあのパンツたちを、もう“笑えるもの”じゃなく、“大事なもの”として扱っていたから。


 みずきは星柄パンツを指でつまみ、


「この素材、やっぱ速乾で正解だったな~」とご満悦。


 それを見ていた俺が、

 ふと、口をついて出た言葉。


「……あ、なんか……ちょっと香ってるな。柑橘系っぽい?」


「嗅ぐなァァァァァァッ!!!」


 みずきがスリッパで追ってくる。

 でもその顔は、耳まで真っ赤だった。


 レナは、自分の黒ボクサータイプをピンチに掛け、

 風でめくれないように角度を調整していた。


 それを見た俺が、つい口に出す。


「あ、レナのパンツ、斜めになってる。風で揺れ方が変わるから――」


「てめぇ干し直すなああああああ!!///」


 レナが突っ込んでくる。

 でもパンツはそのまま。

 “干されること”を、もう受け入れている証だった。


 そして、ことり。


 白地に桜柄のパンツを両手で持ち、

 そっと俺の隣に並んで干す。


 風が、ふわりと布地を持ち上げる。


 その瞬間、ことりの指がすべって、ピンチから落ちそうになる。


「わっ」


「っと――」


 俺が手を伸ばして、同時にことりも支えようとして、

 指先が、かすかに触れ合った。


「っ……あ」


 ことりの耳が赤く染まる。


 でも、手はそのまま。

 パンツを一緒に挟みながら、彼女はそっと言った。


「……また、一緒に干したいな」


「え?」


「べ、別に……変な意味じゃなくて!

 なんか、その……やっぱり、こうやって“見てもらう”のって……少し安心する、から……」


 その言葉に、俺は笑って、頷いた。


「じゃあ、次から“ふたりで干す係”な」


「っ……うんっ」


 つばさは静かにメモを取っていた。


「なるほど。“布を通じた接触行動”は、

 羞恥よりも安心を生む……これは興味深いです」


「それを論文化しないで!?!?」


 風にそよぐパンツたち。

 それを見つめながら、俺は思った。


パンツって、不思議だ。

布一枚なのに、干してると、

“誰かと繋がってる”って、気がしてくる。


 干したのはパンツ。

 でも、心に干してるのは、たぶん“この気持ち”。


 それは、まだ乾かないままで――

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