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第24話 『洗濯機に入れる勇気と、誰かのパンツと向き合う朝』

 その朝。

 俺のアパートのリビングには、洗濯されていないパンツたちが、そっと並べられていた。


 5枚。

 干されていたが、まだ“本洗い”はしていない。

 乾いているはずなのに、どこか――重みがある。


 それは、昨日の汗。

 そして、少しだけ“それ以外のしみ”。


「……さて。誰が、どれを、洗うんだ?」


 その一言に、全員が――無言になった。


「わ、私、自分の洗いますっ!」


 ことりが手を挙げたものの、

 すぐに自分のパンツを直視できなくなって、目を逸らす。


「……でも、もし匂い、残ってたら……どうしよう……」


「俺も……自分の……いや、違う、俺のは無い!!」


「お前は一回落ち着け」


 みずきは腕を組んで、


「うーん……できれば、自分で洗いたいけど……

 悠真が洗ってくれるなら、まあ、それもアリ?」


「いやそれ、どういう信頼の方向!?」


 一方、レナは――無言でバシャッとパンツを水に浸けていた。


 洗面台に、勢いで入れるタイプ。

 だけど、赤面してて何も言わないから、逆に気まずい。


「……レナ、それ、洗剤入ってない」


「っ……知ってるわバカ!!」


 そして、つばさ。


 彼女は、自分のパンツを目の前に並べ、

 なにやらメモ帳を広げていた。


「この布、24時間の通気条件で芳香性がどう変化するか。

 また、尿素成分と柔軟剤の交差干渉……」


「観察やめてえぇぇぇぇ!!今は洗うターン!!」


 ことりとみずきは、結局、パンツを前に**“見守りモード”**に突入。


 洗うのか、見届けるのか、うろうろ。

 パンツ一枚の前で、落ち着かない空気が広がっていた。


 ……そのときだった。


 誰よりも静かに、ほのかが俺の前に歩み寄ってきた。


 手には、まだしっとり感が残るピンクのパンツ。


 視線は下を向いたまま。

 そして――


「……お願い、してもいいですか?」


 俺は、一瞬だけ目を見開いて。

 けれど、すぐに小さく頷いた。


 彼女は、ほんの少しだけ微笑んで――


「……昨日、走って、濡らして。

 それでも、見てくれて、洗ってくれて……

 もう、変な意味でもなんでもいいから、

 “そのまま受け止めてくれる”って……思ったから」


 俺は、パンツを両手で受け取った。

 軽いけど、温かくて、ちょっとだけ――重かった。


「任せて。もう、慣れてるから」


「……ありがとう」


 その言葉を合図に、

 他のヒロインたちも、少しずつ口を開いた。


「じゃ、じゃあ……私も……」

「ま、まぁ白井が洗いたいなら……いいけど?」

「……うちのは、絶対縮ませんなよ」


 数分後。

 5枚のパンツが、洗濯機の中で静かに回り始めた。


 あのしみも、においも、想いも――

 すべてを包んで、柔らかく揺れていた。


モノローグ(悠真)

洗濯機って、すごいと思う。

汚れたものを、ただ綺麗にするんじゃない。

誰かの恥ずかしさとか、頑張ったあととか、心の重さとか――それごと、洗ってくれる気がする。

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