第21話 『しっとりした汗と、香る布地と、女の子のプライド』
昼休み。
真夏日のような陽射しにさらされたグラウンドから戻ってきたヒロインたちは、
まさに“限界状態”だった。
「……はぁ、ムリ。これはもう……ムリ……」
みずきが、自分のスカートをぺたぺた叩く。
「パンツ、貼りついてんだけど。お尻に。
ぺたって、音するくらい。」
俺は「そこまで!?」と叫びそうになったが、ぐっと飲み込んだ。
「……ムレはしてねぇ。してねぇけど……気になるっちゃ気になる……!」
レナは腰をひねりながら、
体育座りの姿勢からバウンドしていた。
「さっき、しゃがんだら一瞬“むにゅ”って……これ、汗だよな!?な!?」
「俺に聞くなああああああ!!」
ことりは俯き、両膝を揃えてそわそわと手を握りしめていた。
「ねぇ……これって……汗だよね? ぜんぶ……?
わたし、なんか……パンツの内側、冷たくなってきた気がするの……」
「えっと……それは……」
俺は言いよどんだ。
汗だけじゃない匂いが、確かにそこにあったから。
「ふふっ、皆さん、焦りすぎですよ」
つばさは余裕の笑みを浮かべながら、スカートを優雅につまみ上げた。
「私の試作パンツは“通気性”+“香り拡散”+“除湿機能”があるので、むしろ今がベストコンディションです」
「パンツの布地に勝ち負けがあってたまるかよ!!」
体育館裏の女子更衣室は長蛇の列。
体育倉庫も、休憩所も満杯。
そしてヒロインたちは、最後の手段に目を向け始めた。
「……白井」
「うん?」
「あんたの“予備パンツボックス”……まだある?」
そう。
俺は今朝、冗談のつもりで「念のために」と、
ヒロインたちのパンツ(洗濯済み・本人承諾済)を個別ジップパックに入れて持ってきていた。
名付けて――「パンツ・セーフティ・パック」。
それが、今、真剣に求められていた。
「いや待て、本気で履き替える気!? 俺が持ってきたやつだぞ!?」
「だからこそ信頼してんの。てか、今はもう“誰のパンツでもいいから替えたい”レベル」
「それを女子高生が言っていいのか!?」
そして。
事件は、起きた。
俺がそっとバッグを開け、
ふとした拍子に、香りが漏れた。
ふわり、と。甘くて、どこか湿った……芳香。
そして、つい口をついてしまった。
「……あ、これ……ほのかの匂いだ。」
──教室が凍った。
「……」
ほのかが、ぴたりと動きを止める。
全員がこちらを見ている。
「……うそ、分かるの……?」
「いや、あの、今のは無意識というか、誤認識というか!?」
「……すごい、ほんとに分かるんだね、悠真くんって……」
ほのかは、なぜかちょっと嬉しそうだった。
一方、みずきが声を上げる。
「ってことは、あたしのパンツも今、分かるってこと!?」
「レナのは!? つばさのは!?」
「ちょ、ちょっと皆、落ち着け……! 俺、鼻が過敏なだけで!」
その日、俺は**“パンツの匂い判別男”**という称号を得て、
午後の競技もヒロインたちからの検査(嗅覚テスト)を受ける羽目になったのだった。