第20話 『おしっこ我慢リレー! 順番待ちでパンツに異変!?』
――それは、女子リレー直前のことだった。
「……え、やば。トイレ、並んでる……」
「えっ!? あと五分で整列なのにっ!」
ことりとほのかの焦りが、まさに“水際”だった。
校舎裏の女子トイレ前、長蛇の列。
見れば、1年生組から、3年のお姉さままで、“緊張×水分補給”の合成被害者で埋め尽くされている。
「ど、どうしよう……ことりちゃん、行けた?」
「……だ、ダメだった。ギリギリすぎて……っ」
「私も……我慢するしか、ない、よね……っ」
二人は顔を赤くしてうつむいた。
その時点で、彼女たちの膀胱は限界手前だった。
グラウンドでは、全校注目の女子リレー決勝が始まろうとしていた。
「それでは――各クラス、選手はスタート位置へ!」
ピストル音が鳴り響く。
走り出す先頭ランナー。
その後ろで、第二走者として待つ、ことりとほのかは……明らかに“様子がおかしかった”。
「っ、ぅぅ……やば……揺れるたび、ちょっと……」
ことりは片足をつま先で地面にトントン。
「(出そう……けど、今出たら……!)」
太ももをきゅっと閉じて、しゃがみ込みたい衝動に耐える。
一方、ほのかも、顔を青ざめさせていた。
「(トイレ行けなかったこと、ずっと気になってて……)」
そんな中、第一走者が走ってくる――!
「ことり、バトン!」
「っ、は……いっ!!」
走り出した瞬間――
着地振動が、膀胱をダイレクトに刺激した。
「(ひゃ……っ、っ!!)」
ふとももに、かすかな熱が走る。
それは、汗か、それとも……。
続く第四走者、ほのか。
彼女も、バトンを受け取り、懸命に走った。
だがその瞳の奥には、**“にじむもの”**があった。
「(っ……お願い……あと少しだけ、頑張って……わたしの、膀胱……!)」
それは、祈りだった。
ゴール直後、
ことりはしゃがみ込み、呼吸を整えるふりをして太ももを押さえた。
「……っ、やば……一滴出たかも……」
そのつぶやきに、隣にいたほのかが、ぎゅっとスカートを握りしめる。
「……私も……かも、しれない」
そして、その瞬間。
悠真の視界に入った。
ほのかの背中、スカートの下部――わずかに、“しっとり”と色が変わっている。
だが、誰も気づいていない。
先生も、クラスメイトも、観客も。
……だからこそ、俺だけが、気づいていいことだった。
俺はすぐに、タオルを手に取り、
そっとほのかの背中に回した。
「お疲れさま。すごかったよ、走り」
「っ……し、白井くん……?」
「はいこれ、汗拭き用……ってことに、しとこう」
そう言って、肩からタオルをかける。
彼女のスカートの下、わずかな震えが伝わってきた。
「……ありがとう。ほんとに……助かった」
ほのかの声は、小さく震えていたけれど、
どこか、安堵にも似たものが混じっていた。
そのあと、俺は何気なく、
タオルを引き上げた瞬間、**“あの匂い”**を感じた。
(……これ、汗じゃない)
だけど俺は、言わなかった。
匂いで気づいたことさえ、彼女の胸にしまっておくべきだった。