第1話『パンツ、落ちてました(この世界、もう終わってる)』
朝の教室。
いつも通りのはずだった。
机と椅子が整然と並び、窓からは優しい陽射し。
カラスが「アホー」と鳴いている。それに合わせて俺の脳内も「アホー」と叫んでいた。
なぜなら――
「……なんで、パンツが落ちてんだよ」
そう。
俺の席の、すぐ横の床に。
白と蛍光グリーンのしまパンが、なぜかぺたりと落ちていた。
(状況が分からない。いや、分かりたくない)
俺は固まった。
息をひそめる。
動いたら、何かが壊れる気がした。
脳内ではスピーカー付きの自我が会議を始める。
『え、待って、誰の!?』
『てか誰かのイタズラか!?』
『もしかして……落とし物?いやそんな軽率に落とすか!?』
『しまパンだぞ!? 誰が蛍光グリーンを履くんだ!?』
そのとき。
「──あのっ、それ……!」
振り返ると、
息を切らした女の子が教室の扉の前に立っていた。
七瀬ことり。
清楚系美少女、俺のクラスメイト、成績優秀、運動神経も良好。
男子人気トップクラス、女子からの信頼も厚い、完璧超人。
その彼女が、頬を真っ赤にして、震えていた。
「……それ、私の……です……っ!」
パンツだと!?
おい、今、清楚の中の清楚が、公開告白パンツしてきたぞ!!
(マジかよ!? この世界、もう終わってる!!)
ことりは俺に近づくと、
両手でそっとパンツを拾い、
ぺこりと頭を下げた。
「……ランドリーの袋に入れてたのに……穴、開いてたみたいで……。ほんと、ごめんなさい……」
涙ぐみながら、必死で説明してくれる彼女。
でも俺の脳は、もうダメだった。
しまパン(白と蛍光グリーン)というインパクトに、完全に持っていかれていた。
それでも、俺は――
「……白と、蛍光グリーン、似合ってたと思う」
言ってしまった。
人として、もう終わってる。
「…………っ!?!?」
ことりの顔が、ポッと真っ赤に染まった。
そして、彼女は言った。
「……今度、洗って返して、くれますか?」
あれ……?
俺……死んだ?
それとも今、夢の中??
その日から。
俺の高校生活は――
パンツを中心に、まわり始めた。