第18話 『みんなで洗う、雨の日のパンツたち』
昼過ぎから降り出した雨は、止む気配もなく。
いつもなら太陽が差す屋上の干し場は、
グレーの空の下で、静かに雨粒を跳ね返していた。
でも今日は、その場所に――6人の人影があった。
「……やっぱ、ここで干すの、好きなんだよなぁ」
みずきが笑う。
手にしているのは、白と水色の星柄パンツ。
少し擦れたその布地を、やさしく手で絞っていた。
「わかる。雨の音に紛れてると、ちょっと恥ずかしさが和らぐっていうか……」
ことりが言いながら、自分のさくら模様のパンツを丁寧に洗う。
「ほら、レナはまだ泡ついてる。よくすすげって」
「うっせー! 人のパンツ覗くなって!」
レナは真っ赤になりながら、
例の黒レースをぶんぶん振り回していた。
つばさは相変わらずマイペースに手洗いしながら、
真顔で言い放った。
「尿素が残っている布地は、柔軟剤より**“温度と手のぬくもり”**でケアすべきです。
つまり、“好きな人に手洗いされる”のが一番理想ですね」
「うわ~~出た~~変態名言~~!」
そして、最後にそっと洗い始めたのは――ほのか。
赤いサテンを、恥ずかしそうに指先でつまみながら、
けれど、ゆっくりとその布に触れていた。
「……初めて、誰かと一緒にパンツ洗ってます」
「初めてって……普通そうだろ!」
「でも、不思議です。なんか、すごく……安心するんです。
この“恥ずかしいもの”が、誰かと繋がるものだったなんて」
6人は、ぐるりと囲むように桶を並べ、
しゃがんで、それぞれの“パンツ”を手で洗っていた。
雨音と、笑い声と、時折交わされる、少し照れた言葉たち。
「これ……誰の?」
ことりが、少し色の濃い下着を持ち上げた。
みずきがニヤニヤする。
「それ、たぶんレナのでしょ。ほら、匂いが……」
「ちょ、まっ……それは夜中のやつっ!!」
「え、夜中ってことは……」
「わあああああああああ!! やめろおおおおおお!!」
みんなの笑い声に、ほのかがぽつりとつぶやいた。
「……ちょっとおしっこ臭するけど、愛しさはあるよね」
沈黙。
そして、爆笑。
「うわ、また名言でた!!」
「まじで、この屋上、パンツの聖域だわ……」
雨が降っていた。
それでも、あたたかかった。
たとえパンツが濡れても。
ちょっと臭っても。
でも、誰かと一緒なら――
“それも青春、だよね”
パンツのしみは、誰かの心の跡。
パンツの匂いは、誰かの弱さと、愛おしさ。
そして、パンツを洗うことは――
“恋を、信じること”。