第17話 『第五のパンツの持ち主、あらわる』
昼下がりの保健室。
窓から春風がカーテンを揺らし、
その影に佇む、一人の少女がいた。
斎宮ほのか(さいぐう・ほのか)。
学年でも有名な“清廉”の象徴、
保健委員長として全校生徒の信頼を集める、完璧な美少女。
けれど今、彼女はほんの少しだけ、うつむいていた。
「……やっぱり、あのパンツ……」
俺の問いかけに、彼女はゆっくりと頷いた。
「……はい。私のです。
――“赤いサテン”。黒いレースの縁取り。サイズS。ワンポイントのリボン。……全部、私が選びました」
その声は、まっすぐで、けれど震えていた。
「わたし、“過活動膀胱”っていう体質なんです。
緊張すると、膀胱が勝手に反応してしまって……」
「……」
「生徒会でスピーチした日。終わったあと、すぐトイレに行こうと思ったのに……」
彼女は、自分の手をぎゅっと握る。
「……階段の踊り場で、気が緩んで……“出ちゃって”……」
俺は、何も言えなかった。
けれど、彼女は微笑んだ。
「すごく、恥ずかしかったです。
でもそれ以上に、あのパンツを、**“恥ずかしいから捨てる”って決めた自分が……**一番嫌でした」
小さく息を吐くと、彼女は、
まるでそれが“誇り”であるかのように言った。
「私のパンツには……“私の弱さ”が残ってるんです。
だから、見つけてくれて、ありがとうございました」
――俺の胸の奥が、キュッと鳴った。
そのとき、自然と出た言葉は、たった一言。
「そのパンツも……大事にします。」
彼女が驚いた顔で見つめてきた。
だけど、それ以上に驚いたのは――俺自身だった。
“パンツを大事にする”という言葉が、
今ではもう、恥ずかしくなくなっていた。
「……白井くんって、変な人ですね」
ほのかが笑った。優しく、あたたかく。
「けど……その言葉で、少しだけ救われました。」
彼女の目に、うっすらと光が滲んでいたのは、
午後の光のせいだけじゃなかった。
その日の夕方。
パンツ保管ボックスに、新たな“登録パンツ”が加わった。
No.5 斎宮ほのかの赤サテン
メモには、彼女の走り書きが添えられていた。
「きっと、これはもう“恥ずかしいパンツ”じゃない。
だって、見てくれる人が優しいから。――ほのか」