第16話 『パンツの影と、白井悠真の告白』
真夜中の校舎。
誰もいないはずの時間。
それでも、洗濯室の明かりだけが、ぽつんと灯っていた。
そして――その中に、俺以外の4人がいた。
「……なんで、みんな……」
俺の問いに、ことりがそっと微笑む。
「だって、また……パンツ、洗ってくれてる気がして」
「私の……昨日の分、ちゃんと干してくれてるか気になってさ」
「そんでもって、つばさに“夜、来ない?”って誘われたんだ」
「パンツには、夜風が一番似合うんですよ。知ってました?」
何なんだこのパンツに導かれし者たちの集会は。
けれど、静かだった。
洗濯機の回る音と、微かな柔軟剤の香り。
パンツたちがゆっくりと揺れるその空間に、
俺たちは、ただ……座っていた。
やがて、誰ともなく呟いた。
「……もうさ、隠すの、やめにしない?」
みずきがびくっとして、ことりが眉をひそめた。
レナは口を閉じ、つばさはただ頷いた。
俺は、ゆっくりと言った。
「俺、ずっと思ってた。
なんでこんなにパンツに関わるんだろうって。
おかしいよな? 普通、クラスの女子のパンツ、こんなに知るか? 匂いまで?」
「そりゃ……まあ……そうだね」
「でもさ……俺、集めたかったんじゃない。
みんなの“大事なもの”が詰まったそれを、守りたかっただけなんだ。」
ことりが、小さく問い返す。
「“大事なもの”? パンツが……?」
「そうだよ」
俺は微笑む。
「そこには、忘れたい失敗もある。恥ずかしい気持ちもある。
でも、それが詰まってるからこそ、大事なものなんだ。
濡れてても、ちょっと匂っても……ちゃんと洗って、干して、また履けるようにしてあげたいって思った」
沈黙。
それから、つばさがそっと言った。
「……白井くん」
「うん?」
「**“洗濯されないおしっこは、罪の匂いです”**って、思いませんか?」
「思わねぇよ!?!?!?」
けれど、ことりが小さく笑って、
その言葉を肯定した。
「……でも、ちょっと分かるかも」
レナが続ける。
「誰にも言えないままじゃ、ずっとクサいままだしな。気持ちも」
みずきが笑った。
「洗ってくれる人がいるって、あったけぇなぁ……」
そうして、俺たちは語り合った。
おしっこの話も。
パンツのことも。
そして、何より……**“誰かを信じること”**を。
夜が更けて、空が白み始める頃。
俺はぽつりとつぶやいた。
「俺、いつの間にか……パンツじゃなくて、みんなを好きになってたのかもしれない」
誰も、笑わなかった。
ただ静かに、
パンツが揺れていた。