第13話 『保健室の下着ロッカー、開きっぱなしの謎』
――発端は、つばさの一言だった。
「……学内の“パンツ保管ポイント”を、調査しましょう」
「そんなジャンルあんの!?」
けれど彼女は真顔だった。
「あります。保健室、女子更衣室、体育倉庫のロッカースペース……。
“事故った”とき、誰もがこっそり何かを置いていく“匿名の棚”が、学校には存在するんです」
「都市伝説めいてるぞそれ……でも妙に説得力があるのが怖い!」
そして、放課後。
つばさに案内され、俺たちは保健室の裏手にある“備品室”へ足を踏み入れた。
「ここが……?」
「はい。看護教諭の先生が不在の時間帯、
女子が“生理用備品や替えショーツ”を一時的にしまうためのロッカーです。
鍵は……ほら、やっぱり開いてます」
ガチャリ。
中から現れたのは――赤い紙袋。
小さく折りたたまれたメモが、貼り付けてあった。
「ごめんなさい、忘れてください」
「開けます」
つばさの声に誰も異論を唱えられなかった。
そっと開いた紙袋の中から現れたのは、
やわらかい光を放つ、赤いサテンのパンツだった。
それは、あの“おしっこ付き赤パンツ”と――
同じ型、同じ素材。
「……湿ってる」
ことりが小さく呟いた。
つばさが手袋越しに持ち上げ、慎重に光を当てる。
「湿気残存率、おそらく15%前後。
乾いてはいますが、わずかに“染み込んだ履歴”が残っています。」
静かに鼻を寄せた彼女が、ゆっくりと言った。
「……尿素系。
成分からして、軽い漏れと緊張由来のミスト。」
「“ミスト”とかやめてえぇぇぇぇ!!」
ヒロインたちは言葉を失っていた。
その場にいた誰もが、“身に覚え”を探していた。
「……でも、どうして保健室に?」
ことりの疑問に、つばさは応える。
「ここは“忘れたいパンツ”を一時保管する、学校内でもっとも静かな場所。
……でも、パンツは忘れられない。
履いていた時間、脱いだ瞬間、そして濡れたこと。
全部が、身体に、心に、染み込んでしまうから……」
俺はそっと、パンツに手を伸ばした。
柔らかい。
まだ、ほんの少しだけ――冷たい。
思い浮かんだのは、たぶん……
このパンツの“持ち主”が、どれだけ不安で、どれだけ恥ずかしくて、
それでも捨てきれずに、そっとここに置いたのかってこと。
「……これ、誰かが“自分”としてここに置いたんだ」
俺がそう言うと、誰もが息を呑んだ。
「“パンツを忘れてください”って言葉の裏に、
“自分を忘れてください”って気持ちが……あったんじゃないかなって」
しん……と静まりかえる保健室の片隅。
窓から差し込む夕日が、赤サテンを照らしていた。