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第11話 『赤いサテンのパンツと、しみの理由』

 放課後の俺の部屋。


 ちゃぶ台の上には、畳まれた赤いパンツ。

 素材はサテン。やや光沢のある生地が艶めき、ふちには黒のレース。

 ただその一角に、**薄く、黄味がかった“しみ”**が浮かんでいた。


「……これは……」


 つばさが、真顔で立ち上がる。


 指先に手袋をはめ、黒縁メガネの奥から、鋭い目を光らせる。


 俺の部屋が一瞬で、CSI:つくば校パンツ捜査課になった。


「まず第一に。視覚による確認──」


 つばさはパンツを回転させながら、

 紫外線ライトを照らす。


 布地の一部が、わずかに黄白く発光した。


「ほら、見てください。ここ。

 一般的に、尿に含まれる尿素とアミノ酸が紫外線に反応するため、

 “この発光”は、極めておしっこ由来である可能性が高いです。」


 ことりが青ざめた。


 みずきが目を逸らした。


 レナが拳を握りしめた。


 そして俺は……叫んだ。


「なに真顔で“おしっこ検出”してんだぁぁああああああ!!?」


 だが、つばさは冷静だった。


「では、嗅覚による最終確認に移ります」


「ストーーップ!!!」


 無駄だった。


 つばさは赤サテンパンツを持ち上げ、

 深く、静かに──**くん……**と吸い込んだ。


「……なるほど。

 数日経っているのに、微かに残るこの香り。

 おそらく、“間に合わなかった系の軽微な漏れ”でしょう。特に午前中のもの。

 水分少なめ、やや緊張状態由来のアロマ……」


「アロマって言うなァアアア!!!」


 騒然とする部屋の中で、つばさが低く告げた。


「これは……意図的に“忘れられたパンツ”です。

 本人にとっては、“なかったことにしたい記憶”。

 でも……パンツは覚えている。

 誰が履いていたのか。何があったのか。どうして脱がれたのか」


 その場の空気がピキリと張り詰めた。


「で……誰の?」


 俺が聞くと、4人のヒロインが、同時に首を振った。


「私じゃない……」

「ないない! そんなミスしないもん……」

「落とすことはあっても、漏らしたことはない」

「私はちゃんと、トイレ間に合ってるので」


 誰もが“自分ではない”と断言した。


 だが。


 つばさが静かに立ち上がった。


「――誰かが、嘘をついています」


 その言葉とともに、パンツのミステリが幕を開けた。


 匂いは正直だ。

 パンツは嘘をつかない。


 だけど――

 人間は、恥ずかしいことを隠すために、簡単に“嘘”をついてしまう。


 だからこそ、このパンツは──


「“忘れられた恋”と“恥ずかしいおしっこ”の象徴なんです」


「詩的に言うなァアアアアア!!!!」



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