始まりの過去
「わしな、元サンタクロースなんだ。」
突然祖父から告げられた秘密。
静かに語られる秘密に耳を傾ける翔太。
秦三は静かに語り始めた。
翔太は祖父の声が、これまで聞いたことのないほど深く、重いものに感じた。
「サンタクロースってのはな、数百年前に突然変異で誕生した進化した人類のことなんだ。」
「進化した……人類?」
「そうだ。サンタの力に覚醒した者はまず寿命が大幅に伸びる。ほぼ不老不死に近い存在になるんだ。」
「じゃあ……じいちゃんはなんで……」
翔太が思わず言葉を漏らすと、秦三は穏やかに首を振った。
「まぁ、最後まで聞きなさい。」
「サンタの歴史はな、最初のサンタであるグランドサンタと呼ばれた人物から始まる。そのグランドサンタには三人の弟子がいて、彼らはその教えと力を受け継いだ。そして、わしはその三人の弟子の一番下っ端だったんだ。」
翔太は目を丸くしながらも質問を飲み込み、ただ耳を傾けた。
「グランドサンタは本当に優しく、温かい人だった。彼はこう言っていた。『自分たちの特別な力や体質は、そうでない人たちを助け護るために授かったものに違いない』と。わしら弟子たちも深く賛同し、彼の言葉を胸に刻んだ。」
秦三はふと遠くを見るように目を細め、低い声で続けた。
「実は、グランドサンタはわしの父でもあったんだ。」
翔太は驚きで息を飲む。
「父と三人の弟子たちの力で、わしらの村は少しずつ繁栄していった。人間たちとも協力し合い、助け合いながら、平和で豊かな暮らしが築かれていったんだ。」
秦三はそこで一度言葉を切り、天井を仰ぐ。
「だが……繁栄はやがて争いや格差を生んだ。すべての人間を助け護ることは、サンタの力を持ってしても不可能だった。そして、その不満や苛立ちは、わしらサンタに向けられるようになったんだ。」
「『どうして自分たちを救ってくれないのか』『もっと自分たちを繁栄させてくれ』――そんな言葉を浴びせられる中、父は少しずつ心を病んでいった。だが、わしはその変化に気づいてやれなかった……。」
秦三の顔に影が落ちる。
「そして、ある日母が殺された。」
翔太は息を呑み、言葉を失った。
「サンタの拠点にしていた家に強盗が押し入ったんだ。母は普通の人間だった。」
秦三の手が震えるのを、翔太は見逃さなかった。
「犯人たちは、助けてやれなかった村の貧しい者達ではなかった。父や兄弟子たちが助け、守り、発展させてきた。そのおかげで豊かになった人間たちだった。」
秦三はそこで目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
「わしらサンタには不老の力以外にも様々な力がある。奇跡の薬を作ったり、便利な道具を生み出したりな。犯人たちは『拠点にはもっとすごいものが保管されているに違いない』と考えたらしい。」
「……その日、父は壊れてしまった。」
声に哀しみと悔しさが混じる。
「父は犯人たちをすぐに探し出し、捕らえ、殺した。その後、村に向かい『もう、お前たちとは関わらない』と言い残して姿を消したんだ。」
秦三の話は重く、翔太の心にも深く刺さった。
彼はただ、鈴を見つめるしかできなかった。
秦三の語りはさらに深いところへ進んだ。
その表情には重い影が漂っている。
「悪いのは、醜く欲に溺れた大人たちだ。父はそう信じていた。もう、そんな大人を生み出さないためにも、子供たちへの救いが必要だと。」
「父はそう考え、子供たちだけを護り助けることを使命としたんだ。そして、そのために三つの特別な道具を作り出した。それが後に『サンタの三種の神器』と呼ばれるものになった。」
三種の神器
「一つ目は、トナカイだ。ある日、村の外れの森の奥深くで瀕死の状態だった小さなトナカイを見つけた父は、自分の力を分け与えてその命を救った。トナカイは不思議な生き物として生まれ変わり、それ以降、サンタの活動を補佐する存在になった。」
「二つ目は、サンタの袋だ。この袋には無限の収納力と、物理的な改変能力が備わっている。物を自由自在に出し入れし、必要な形に作り変えることができる。」
「そして三つ目が、このサンタの鈴だ。」
秦三は小さな赤い紐の鈴を見つめ、静かに語った。
「この鈴だけは、父が作ったものではないらしい。わしもよくわからんのだが、これはサンタの力の源である『人々の願い』を具現化する力を持っているんだ。」
「この三種の神器を使い、父はできる限り子供たちを助け、守っていた。わしもてっきり、父が『未来の為に子供たちを幸せにしている』のだと思い込んでいた……。」
そこまで語ると、秦三は大きくため息をついた。
「大丈夫?横になったら?」翔太は心配そうに尋ねた。
「ありがとう。でも、最後まで話しておきたいんだ。こうやって話せるうちに。」
翔太は温かいお茶をいれ、秦三は少しずつそれを飲み干した。
その穏やかな時間の中、秦三は再び語り始めた。
「わしは父の書斎で見てしまったんだ。父が本当に考えていたことを。恐ろしい計画を……。」
「え?別の目的があったの?」
翔太の声には緊張がにじんでいた。
秦三は神妙な面持ちで静かに頷いた。
「父は、母を奪った人間を決して許していなかった。父は三種の神器の力を高め、三人の弟子と共に、大人たちをすべて消し去ろうとしていたんだ。」
「さらに、サンタの素質を持つ子供たちだけを集めて洗脳し、教育し直し、『美しい人類』に作り替えようとしていた……。」
翔太は言葉を失い、祖父の表情を見つめた。
その静けさの中で、秦三は続けた。
「わしはすぐに兄弟子たちに相談した。『神器を隠せば、その計画は実行できなくなるのではないか』と。」
「わしら3人は計画を阻止するために、三種の神器を持ち出し、隠すことを決意したんだ。」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回、秦三の逃走の先に待ち受ける結末とは一体なんなのか。
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