祖父の正体
じいちゃんが亡くなった。
病気が発覚してからずいぶん時間が経ったけど、少しずつ弱っていく姿を見るのは辛かった。
だから、病気の苦しみから解放されたんだと思えば、少しは救われる気がする。
冬木翔太は、数日前の祖父の葬儀を終えて以来、心にぽっかりと穴が空いたような日々を過ごしていた。
それでも、高校生活だけは何とか続けている。
翔太が物心つく前、父親は交通事故で亡くなった。
母親は翔太を育てるために朝から晩まで働き詰めで、翔太の世話を実質的に引き受けていたのは祖父、冬木秦三だった。
祖父は、翔太にとって父親代わりの存在だった。
そんな大切な祖父を失い、翔太はどこか上の空の日々を送っていた。
この日も、幼馴染の鈴木美咲と学校から帰る途中、いつものように自宅の最寄り駅に降り立った。
改札を抜けた瞬間、翔太の携帯ストラップに付いている小さな鈴が「チリン」と音を立てた。
「その鈴、おじいちゃんの形見なんだよね。」美咲がふと尋ねる。
「そうだよ。ベッドから起き上がれなくなる少し前にくれたんだ。『大事に持っておきなさい』って。」
「でも、どうして鈴なんだろうね?」「さぁ……じいちゃんらしいっていうか、なんでだろう。」翔太は曖昧に笑って答える。
しかし、翔太には誰にも言えない秘密があった。
それは、翔太自身も完全には理解できていない――そんな謎めいた秘密だった。
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翔太の祖父冬木秦三が病に伏せてしばらく経ったある日、翔太は病室に呼び出された。
「時間がある時に一人で来てくれ。話したいことと、渡したいものがある。」そう短く伝えられていた。
コンコン、とノックして病室に入る。
「じいちゃん、来たよ!」
「おぉ、よく来たな。まぁ座れ。少し長い話になるぞ。菓子でも食うか?」
個室に入院している祖父は、テレビを消して、見舞い客用の椅子を勧めてきた。
いつものように、近くにはお菓子の袋が大量に置かれている。
昔は自分のために用意してくれているのだと思っていたが、どうやらただの甘党だったらしいと気づいたのはごく最近のことだ。
「どうだ、翔太。学校は楽しいか。」
「うん。勉強は嫌いだけどね、友達はみんな良いやつだよ。」
「美咲ちゃんも同じクラスなんだろ?」
「そうだよ。相変わらず明るいし、クラスの人気者。」
「はは、あの子は頼もしいな。」
少しの雑談の後、秦三は表情を引き締め、引き出しを開けた。
「今日来てもらったのはな、これをお前に渡したかったんだ。」
祖父が取り出したのは、赤い紐がついた小さな白金の鈴だった。
精巧で鮮やかな模様が刻まれた美しい鈴だ。
手のひらに乗せられたその瞬間、「チリン」と音を立てた。
その音色になぜか、翔太は懐かしさと安心感を覚えた。
「きれいな鈴だね。これ、僕に?でも、どうして?」
「ただの鈴じゃないんだ。」
祖父は短く答えた後、静かに息を整え、一瞬目を閉じる。
そして、低い声で言葉を紡ぎ出した。
「これはな、サンタクロースの鈴なんだ。」
「はい?」
あまりに突拍子もない言葉に、翔太は思わず聞き返した。「サンタ?……クリスマスの?」
「そうだ。」
祖父の声は真剣そのものだった。
いつも冗談を言っては翔太を笑わせる祖父が、こんな真面目な顔をしているのを翔太は初めて見た。
「わしはな……元サンタクロースなんだ。」
翔太は言葉を失った。しかし、祖父の鋭い眼差しと、不思議な存在感を放つその鈴が、冗談ではないことを伝えていた。
「少し、わしの昔話を聞いてくれるか。」
「……うん。」
翔太は小さく頷き、祖父の話を聞く覚悟を決めた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
翔太のじいちゃん秦三の過去と秘密が次回明らかになります。
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