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「ねえ、そっち、あった?」
水下早紀が叫んだ。
「いんにゃ、全然……」
羽村妙子が答えた。二人はもう数時間、数種類のチケット雑誌と格闘している。
「まだ、これからなのかなぁ?」
「だってさ、もう来年の分までチケット出るよ」
「そうだよなぁ……」
二人同時に溜息を吐く。
「手遅れだったかな?」
「『時間切れ』、ってやつ……」
「ある日、あるとき、あるタイミングで雑誌を開くと」
「そこに載ってたりしてね。……お茶にしようか?」
「そだね」
検索雑誌が豊富で、かつネット検索ができるので重宝なM村立図書館の資料室を出て、近くの公園に二人は場所を移した。缶コーヒーを買って、ベンチに座る。昼の太陽がまだ眩しかった。木漏れ日がキラキラ揺れている。
「だいたい百年に一度、ってのが不自然だよ」
コーヒーを飲みながら、羽村がいった。
「だいたい、年代、年号なんて人間が決めたものだし、って、これ、甘すぎるよ。太る!」
水下がコーヒーに文句をいう。
「それに、曾爺さんの日記が贋作だってこともありえる」
「それはないよ」
「なんで?」
「有名人じゃないもの……」
沈黙。
「『想い』が溜まってる――淀んでる?――って、理由づけは、どう? だいたい、潜在的に離別状態が重なってりゃ、『想い』なんて無限だよ!」
「ま、大晦日よりは、あるかもね。米がなくて年が越せない、って、そりゃ、落語だ!」
「時を越えて確率が収縮しない、ってのも不自然だ」
「何百年も越えて生きてる、ってのも不自然だぜ。普通、誰か気づくよ。お約束がなけりゃね」
「じゃ、その都度、復活、ってのは、どう?」
「理由は? 人為的、それとも自然的?」
「その場合は、超自然的っていうんだよ! ……でも、死んでりゃ、百年は持たないな。ミイラか白蝋化、ってのはあるかもしんないけど。ま、普通は骨しか残らない。それが、復活!」
「うーん、土木工事的ナノマシンなら、できるかもね。だいたい人間は地球の表皮からできたんだし、すべての生物はこの星の潰瘍だし、って、話が逸れた。……ま、土から戻すのは無理じゃないよ」
「地球は生物に優しくないから、えっと、そうじゃなくて。……同じことなら、突然変異のアメーバでもいいね。それなら、自然発生的。エッセンスは『想い』」
「それがイルミナティの、じゃなくてもいいけど、秘密の正体、って、制御できんのかな?」
「だからぁ、それを制御するのが『想い』なんだよ! って、あたしたち、いったい何の話してんだろ?」