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伝手を頼って検察医のところまで来たものの、と江藤修司は思った。やはり来るべきでなかったかもしれない。
名目は取材だったが、もちろん雑誌に記事を載せるつもりはなかった。それは、同席している矢頭薫も徳原光男も先刻承知している。記事を書くとすれば徳原だろう。江藤には抗いがたい興味だけがあった。
「ええ、仰るとおり、骨のひとつは新しいものでした」
江藤たちの質問に答えて検察医はいった。
「他の骨は旧いですね。しかも、年代が違う」
検察医は首を傾げた。体格の良い初老の男で、その日はしょぼついた目をしていた。『寝る間もなく引っ張り出されたものでね』と初顔合わせのとき、検察医は弁解した。『祖父の代から受け継いでるんですが、寿命が縮みますよ、この仕事は』渡された名刺には根岸泰造とだけ記されていた。肩書きと連絡先は裏面にあった。
「いったい、どういう風に保存されたのか、あまり脆くならずに埋まっていました。……ご存知のように、数十から数百年のオーダーでは、それを特定する良い分析法がないんです。……一番旧い骨が六百年前くらいで、新しいのが半年から二年ほど前のものでしたね。……ええ、もちろん、誤差は著しく大きいです。……埋められた、というか骨が埋まっていた状況が、微生物の按配とかが似てるんですね。……いろいろ不思議なモノは見てきましたが、こいつはベストスリーに入るかな。……いえいえこちらこそ、何もお構いしませんで」
思い返すと、会話の断片だけが残った。
「百年以上前の骨なら化石と変わりないですけど、半年前なら殺人事件じゃないですか?」
根岸総合病院、根岸分析センターおよびその関連施設がすっぽり収まったNEGISHI第一ビルヂングから最寄の喫茶店に場所を移すと、開口一番、矢頭がいった。
「とすりゃ、こりゃあ、大事件だ! さっそく何らかの手を打って……」
「殺されたんなら、たしかにそうだが」と、静かな口調で徳原が口を挟んだ。「自殺したのかもしれないぜ。なぜ埋まっていたのかという疑問は残るが……」
「おれは抜けた。もういいや」江藤がいった。
「えー、せっかくなのに?」
「近づきたくないことってのは、あるんだよ」
「おれの方は少し追ってみるかな」と徳原。「何も出てこない気はするが……」
矢頭に目を遣り、「キミはどうする?」
「お供しましょう」
江藤の表情を盗み見てから、矢頭が答えた。
「で、徳原さん。いったいどこから手をつけるんですか?」
しばらく考え、顎をしゃくってから、徳原が答えた。
「骨の話は聞いたから、仮面の方を当たってみよう」