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人魚の嘘  作者: 須田konbu


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8/8

エピローグ


 ジャンという青年は、目の前の光景に目を疑った。

 海に沈みゆく、美しい男女の人魚の姿を見たのだ。

 これは夢だろうか。


 瞬きをする間に、その姿はどこかへ消えていた。 



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎



 懐かしい夢を見た。

 朝に見たその夢のことを思い出しながら、ジャンはのんびりと釣りをしている。

 隣で同じように釣りをしていた娘が、ジャンにふと問いかけた。



「ねえ、お父さん。お父さんは人魚って、見たことある?」


「人魚?いるわけないだろ、そんなの」



 人魚なんて、子供向けのおとぎ話だ。昔見かけた不思議な光景は、寝ぼけた俺が見た夢だったのだと、ジャンは認識している。



「でも、お父さんの船はいつも大漁だから、街の人たちはみんな、人魚様のおかげだって言ってるよ」


「人魚様、ねえ……」



 街には、時々根も葉もない噂が流行する。最近の流行りは人魚らしい。一部では、人魚の存在を本気で信じ、信仰している者たちもいるとか。

 つくづく平和で退屈でいいことだ、とジャンは思った。


 

「いいか、街のやつらは、説明のつかない出来事に人魚とか神とか好き勝手理由をつけて、自分たちを納得させてるだけだ」


「えー?じゃあお父さんは人魚信じてないのー?」



 娘は不満げだ。

 釣りに飽きてきたのか、釣竿を片付けながらぶらぶらと足を揺らして遊んでいる。


 

「私はいると思うよ、人魚!私ね、大きくなったら人魚姫になりたい!」



 きらきらと目を輝かせて夢を語る娘の姿に、誰かの面影を感じた気がした。けれどそれが誰だか、思い出せそうもない。



「人魚姫にならなくても、お前は父さんの大切な姫だ!」


「きゃー!」



 娘を肩車して、家路に着く。街は温かな夕日に包まれ、夜へと向かう。

 


「さあ、帰ろう。母さんが家で待ってるよ」


「お母さん、私の釣ったお魚喜んでくれるかなぁ?」


「ああ、きっと喜んでくれるとも」



 ふと、遠くで水のはねる音がした。

 


「ねえ、もしかしたら人魚さんかもね」



 なんて言って、娘は笑う。

 人魚を信じていないジャンも、もしかしたらそうかもしれないと、不思議とそう思った。


 

「人魚さん、いつもありがとう!」


 

 海は何も答えない。

 夕日の色にきらきらと輝き、ただ穏やかに美しく揺れていた。

 



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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