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人魚の嘘  作者: 須田konbu


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第2話 人間の足



「げほっ! げほっ」



 日が昇る前の海岸に、一人の少女が打ち上げられている。彼女の名はジゼル。

 先ほど、人間になれる魔法薬を口にし、人魚の姿から人間の姿に変身したばかりである。


 慣れない肺での呼吸と、大きく体が変化したことによる体力の消耗で、砂浜の上で倒れ込んだまましばらく動けずにいた。


 地面に押し付けられるような空気の重みを肌で感じながら、ジゼルは自分の尾びれに目を向ける。


 そこには見慣れた尾びれの代わりに、バラバラに動く二本の美しい足がすらりと長く生えていた。



「……!」


 これが足!うわ、なんか変な感じ!

 と、ジゼルは声に出したつもりであった。


「……!!」


 しかし、声は一切出ない。魔法薬に添えられていたメモに書いてあったとおりだ。

 "人間の姿になっている間は、声を失う"


 ジゼルは少々心細く思うも、すぐに気を取り直して青年に会うための行動に取り掛かった。

 声などなくとも、言葉が通じずとも、生き物同士ならば何となく意思疎通ができることを、ジゼルは深海の多様な生き物たちとの暮らしの中で学び取っていた。

 なので声が出ないことなど大した障壁ではないと、ジゼルは自らを鼓舞するのだった。

 


 まずは人間にうまく変装しないと……!



 ジゼルは、共に砂浜に打ち上げられた白いドレスを手繰り寄せた。海の底には様々なものが流れつく。数日前に偶然拾った、このお気に入りの服を着て彼に会いに行くつもりなのだ。


 しかし、水の中ではふわふわと可愛らしく広がっていたドレスは、地上に出た途端にぐしゃぐしゃにしぼんでしまっていた。


 身につけると体にべたべたと不快にまとわりつき、美しい白は砂にまみれてくすんでいる。


 美しい人間に変身し、彼に再会するというジゼルの理想とは程遠い、何ともみすぼらしい己の姿に、ジゼルは泣きそうになった。



 いけない、泣いちゃだめ。

 泣いたら、魔法が溶けてしまう。


 

 この人間になれる魔法薬には、魔法を解くための方法が二つある。

 一つは、涙を流すこと。

 もう一つは、海以外の水に触れること。



 ジゼルはまだ諦めたくなかった。

 こんな姿でも、直接彼に会えずとも、たったひと目彼の姿を見るまでは帰りたくなかった。


 ジゼルは涙をこらえ、足で大地を力強く踏みしめた。

 その瞬間、視界が高く持ち上がり、地面が一気に遠ざかる。


 えっ、立てた!



 ジゼルは呆然と、大地に伸びる足を見つめる。

 初めて手にした足だ。こんなにすぐに立ち上がれるようになるとは、思ってもいなかった。



 足ってこんなもの? 私、人間に向いてる?



 恐る恐る片足を前に出し、もう片方の足も前に出す。それを繰り返すと、ジゼルはすぐに歩き回れるようになった。



 歩くのって、簡単!

 私、地上の才能あるかもしれない!



 ジゼルはすっかり自信をつけ、つい数秒前まで惨めな気持ちであったことは綺麗さっぱり忘れていた。


 

 さあ、彼に会いに行こう!



 ジゼルは朝日に照らされながら、意気揚々と海辺の街へと繰り出して行った。


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