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9 ネントラーでの行商

ここまで:干物の加工をカイラス村に依頼したエイラとサツキ。

まだ住むところもないので海岸の岩にねぐらを作って見るがこれが思いのほかいい感じ?つい色々やってしまった。

        登場人物


 エイラ 孤児 13歳(推定)


 サツキ 孤児 11歳(推定)


 エイクラス カイラス村 村長


 ナムーリエ ネントラー町 肉屋 


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    9 ネントラーでの行商


 エイラは今、ネントラーの南の外れに来ている。サツキと二人で干し魚を8分目ほど入れた背負いカゴを背負い、町の通りを肉屋へと向かった。相場が分からないのがちょっと不安だけれど、それは仕方ない。


「こんにちはー、干し魚の買取をして貰えると聞いて来ました」

「魚だって?どれだけあるんだ?そこに背負ってるだけか?」

「とりあえず80キルくらいあります」

「どれ、見せてみろ」


 あたしたちがカゴを下ろすと、店主らしい男がいくつか売り台の上に並べて吟味を始める。


「海のものだな。塩加減は良さそうだ」

 そこまで言ってあたしたちの顔を見ている。


「このヒレの根元。ここが固くなってるな。日陰で干したのか?これだと買い叩かれるぞ。そうだな、キル当たり150シル。全部で12000でどうだ?」


 この店主、あんまりいい感じがしないね?

 そう思っているとサツキが袖を引く。サツキもいい印象を持てないようだ。


「そんなこと言わないでもう少し高く買ってよ。遠かったし重かったんだからさ。なんとか250」

「馬鹿を言うんじゃない。160がせいぜいだ」

「じゃあ230。山越えが大変だったんだよ」

「その小さい形じゃなあ。180だ」

「あたしはくたびれたこの子の靴をなんとかしたいんだ。せめて200」

「ふうむ。仕方ないか。200で手を打とう」


 なんとか上乗せさせたけど、まだ胡散臭さが抜けてない。16000シルを受け取ったけど、他に売り先を探した方が良さそうだね。肉屋は他にもあったはずだ。

 路地に入ってサツキに見てもらい、ねぐらへ跳ぶ。干し魚をカゴに詰めると戻ってサツキとカゴを取り替える。人が通ったのでちょっと待ちが入った。再びねぐらへ跳んで魚を詰めて戻ると、通りを先に進んでいく。


 2ブロック先に肉屋を見つけた。店先を見るとカラカラの硬そうな干し肉が束で積んである。奥には柔らかい食べやすそうな肉もあった。

 

「こんにちはー、干し魚の買取をして貰えますか?」

「おや、魚かね。見せてごらんね」


 カゴを背から下ろすと、店番のお婆さんが一枚手に取って裏表を確かめた。

「ほう、いい品じゃの。海の魚はなかなか手に入らんでの。しかもこれはまだ6日と言ったところか。これならキル当たり300出してもいいぞえ?」


 サツキが驚いて口を挟んだ。

「前の店で150と言われたよ?」

「前の?2ブロック向こうのクレイスのとこかや?」

「うん。あっちの右の店」

「クレイスめ、またそんなことやっとるのか。町の信用を落とすことはすなと言うておるのに」

「ふうん。80キルも置いてきちゃったよ」

「はは。まあ良い勉強をしたと思うがええ。どこに荷馬車を置いとるか知らんが、まだあるんかの?」

「あと40キルくらいはあるよ」

「そうかえ。一枚味見させてもらうで」


 そう言うと、お婆さんは台の後ろから包丁を取り出し薄く切り分け始めた。


「ふむ、いい匂いだの。まだ身が柔らかい。これは料理屋へ持ち込めば飛ぶように売れるぞ。キル320出すでの、120キルだったか?あるだけ分けてくれんかの?」

「38000?本当に?」

「はは。400シルは負けてくれるのかえ?」

「え?そうだっけ?」

「はは。商売をするなら、もっとしっかりせんといかんのう」

「えへへ。サツキ、ここで待ってて。あたしは残りを取って来る」

「うん。いいよ」


 さてと、路地からパッと消えるのはいいんだけど、あんまり早く戻ってもまずいんだよ。時間つぶしに石の食器を幾つか作ってみてから戻ろうか?

 一昨(おとといの)夜作ったのもそうだけど、なかなかきれいに整った形にするのは難しい。形を整える方法を考えないと売り物にはならないかもだね。

 この頃武器代わりに持ち歩いている、円筒の石の木口(こぐち)を薄切りにしてみる。

 自分で作っといてあれだけど、ほんとに薄くて光が透ける。その片面を圧縮してみる。加減が難しいけど厚みの半分をサッと縮める感じでやってみた。縮んだ側が引っ張られて丸く反る。


 ほーお?

 面白いね。台の上に置くとクルクルと落ち着かない。

 ふーん?底が丸いもんね。ここが平らになればいいんだよね?

 1セロくらい?ちょっと底に丸い印を描いて……

 厚さ半分の圧縮!んー、もうちょっとだった!

 えい!さあどうだ?おー。いいね、揺れなくなった。片面圧縮って使える?


 よーし、もっと大きいのでやってみようか。


 こちらに20セロの円筒形の石を用意しました。こちらの平らな木口(こぐち)をご覧ください。

 ここからごく薄い円盤を一枚切り出します。向こうが透けて見えそうなくらい、薄い石の円盤でございます。この円盤の片面にサッと圧縮をかけますとあら不思議、圧縮した面が縮んで丸く反るではありませんか。

 ですが、このままではクルクルと落ち着きがありませんので、反対側の中心の5セロほどに丸を描きます、さあ、お立ち会い。この丸の中にだけ先ほどよりもちょっとだけ、強めに圧縮を掛けますとこのように、ピタッとテーブルに収まるではありませんか。


 もう一つおまけでございます。周囲、指2本分。こちらの上側だけさらに圧縮をかけてみましょう。なんと言うことでしょうか、縁が軽く上に反って、さらに美しい造形になったではありませんか!皿だけに!


 なんてね。


 でもいいねこれ!

 あとは縁をスーッと角を取って出来上がり。手順も決まってるし、圧縮の強さだけ上手く調節できたらバンバン作れそう。

 ちょっと10枚くらい作ってみよう。


 どれも上手くできたと思ったんだよね。でも重ねてみたらびっくりだよ。底の中心がずれてるのは致命的だった。反りがちょっとくらい違うのは、まだ許せるんだけどね。

 なんかこう、丸いのに真ん中に穴の空いた型みたいのがあれば線を描くのが正確に……って?あたしって天才?いーじゃん、それ!

 やってみよう。


 と言うわけで、てんで短い時間でお皿が50枚できちゃった。反りの近いやつを5枚ずつ重ねて9セット。

 いや。どうしても合わないのもあってですね……


 エイラはお魚のカゴを背負って、ネントラーの町に戻った。


 上空に一旦出て下界を見ると、あの肉屋の近くの路地をいくつか眺めてます。


 お?あそこ、人がいなくなった!ほい!

 路地に現れたエイラは素知らぬ顔で肉屋へ入っていくと

「お姉ちゃん!遅い!」

 サツキに怒られてしまった。


 いや、だからちょっと遠くの馬車まで行ってきたって言う……わー、本気で怒ってるよー。


「心配したんだからー!」

「あ、ごめんなさい。つい夢中になってお皿作ってました」

「もう!」


「まあまあ。サツキさんも勘弁してあげや、ちゃんと戻りおったで」

「はあ、すみません。これ残りの40キルです」

「はいご苦労さん。では38400シルじゃで」


 このお婆さん、お手伝いにしちゃ切れる。何者だろ?でも、信用はできそうだよね。


「ありがとうございます。こんな物もあるんですが、買ってくれそうなところはご存知ないですか?」


 作ったばかりのお皿5枚組、9セット。サツキが目を丸くしてるけど、手をヒラヒラ振って黙らせる。


「ほう。また珍しいものじゃな。皿……でいいのか?」

「そうですが?」

「形もええが、この柄がええのう。わしに預けて見んかえ?値の方はいくらとも言えんが1枚200シル以上にはなるだろうて」


 柄って岩に含まれてる色のついた小さな石のこと?


「はあ。じゃあ10日くらいしたら、また来ます」

「おっと。ワシはこの店の店主でナムーリエと言う。覚えときな」

「あたしはエイラです。こっちは…」

「サツキちゃん。また遊びにおいで」


「あ、お肉売ってください」

「ああ、すまなんだ。面白いものに目が行って商売を忘れておったわ。何が欲しい?」

「奥の柔らかそうな干し肉を!」

「ふむ。どれがいいかの?ここには5種類あるぞい」

「ええと?」


 あたしが迷っているとサツキが叫ぶように言った。

「お婆ちゃん。これと、そっちのお願い!40キルずつってある?」

「ほほう。うむ。あるぞい。店には出しておらんがの。40キルずつだとどちらもキル当たり250シルじゃで、いくらになるかのう?」

「えっ?……ええと……」

「20000シル?」

「おお。サツキちゃんは早いのう。褒美にこっちの肉を3キルおまけじゃ」


 なんか良いところをサツキにみんな持ってかれた?

 お金を払ってあたし達は店を出た。

 店を出るとサツキが待ちきれないように聞いて来た。


「お姉ちゃん、あのお皿。すっごくいい出来だったよ。どうやったの?」

「後でやって見せるよ」


 大通りの飯屋でお昼を食べて80シル。屋台でお弁当代わりに粉ものを包んでもらい、カイラスのねぐらへ跳ぶ。

 サツキのために戸を半分開けて、石の部屋に入ると荷物を下ろした。まさか今日の今日ではエイクラスのところへ戻れない。何日かはここで寝起きしなければならないだろう。


「お姉ちゃん。ここって布団も着替えも何にもないよ?」

「あ。そうだったね。ネントラーで買って来ようか?」

「うん」


 背負ったカゴが一杯になるとねぐらに戻り、3回往復してやっと一通りのものは揃った。

 5800シルも使ったけどまあいいや。


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