8 岩を切り出し砦を作るエイラ
ここまで:魚の干物で商売をしよう!
数ある中から本拠地に選んだネントラーの町。
干物の仕入れにやって来た海辺のカイラス村だったが。
登場人物
エイラ 孤児 13歳(推定)
サツキ 孤児 11歳(推定)
ジーナ サイナス村の長 年齢不詳 エイラの師匠
エイクラス カイラス村 村長
サミエラ カイラス村 村長の妻
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8 岩を切り出し砦を作るエイラ
岩を切り出すやり方は分かった。あとはうまく横穴にして、穴から重い岩を引き出していかないとねぐらの形にはならない。引き出した岩はそこらの地面に積んでおいて、後で器や飾り物に加工してみたい。
高いところの岩はなるべく手前に滑り落ちるように切る。上に空間ができれば引き綱をかける穴を空け、浮揚を掛けて穴から引き出す。
天井は、切り込んで浮揚で受けておいて風を入れてやる。
なるべくぶつけて壊さないように切り出して浜から7メル上の高さに一部屋作った。そこまで登る狭い階段を上まで伸ばし、見晴らしまで上がれるようにした。
下へ行く階段が極端に狭いのは、大きなものが登れないようにするため。小柄な2人でさえやっとの幅だ。途中に何箇所か潜りもあって大人の男はまず通れない。
どうせ普段は使わない通路だから万が一の出入り口として作ったものだ。留守の間に小さい動物は入り込みそうだけど、そう言うのは階段なんてあってもなくても一緒だし。
後は入り口に屋根代りに薄い蓋石をかけてやれば雨風は凌げる。
「お姉ちゃん、このお部屋、広くていいねー。
何してるんだかなんて思ってごめんよ。上の作業場まですぐだし、道具もしまって置けるし。これならここでお泊まりもできそうだよ」
そう言って喜んでるのはサツキ。11歳になったんだと思う。あたしと一緒で孤児だから生まれ月も分からない。茶色の髪に濃い茶の目、サイナスで充てがわれた生成りの木綿の上下を着ている。背はあたしより4セロくらい低い。
あたしの方はというと髪は黄色。日が当たると金色に見えるらしいけど。目は青いって教えてもらった。服装はサツキと同じ生成りの木綿。13歳ってことになってる。
・ ・ ・
サイナス村を出て3日。目眩がする。
エイラは朝起きられなかった。サツキが心配してくれて今日はお休みになった。
2ハワーもゴロゴロとして、ジーナの言葉を思い出す。
そうだった。あの鉱石。あれがないと力が弱ってしまう。部屋の隅の荷物から遮蔽材の壺を出して蓋を開けると抱き抱えた。結局その日はどこへも行けず、壺を抱えたまま過ごした。
サツキはそれで安心したのか村長の家の手伝いをしに行った。改まって宿代の話をしてないのが気になるのかも知れない。
「エイラちゃん、具合が悪いんだって?あんたちょっと頑張りすぎなんじゃないの?うちの男どもが何言ったって、あたしが味方したげるよ。どいつもこいつも欲の皮つっぱらかしちゃって見てられないんだ。
何だか元気ないね、ほんとに大丈夫?」
最初の日、お手伝いの人かと思ったけど、このよく喋る人はサミエラさんと言って村長のおかみさんだった。あたしの待遇に不満があるらしくて、いつもこれくらいしかしてあげられなくてすまない、とか言って何か差し入れてくれる。
「ええ。おかみさんが立て続けに喋るからびっくりしただけ。夕方まで大人しくしてれば明日は大丈夫です」
「そうかい?まあ、ゆっくり休みなよ。サツキちゃんも無理してなきゃいいんだけどねえ」
夕飯は普通に食べられたから明日は大丈夫そうだ。
その夜すっかり回復したあたしは体を持て余し、ちょっとねぐらまで跳んでひと抱えの石を取って来た。
器が抜けるかなと考え始めたら、やってみたくなったんだ。圧縮と風の転移を交互に使って、丸いお皿や食器を考えてた通りにいくつか作ってみた。塊からどんどん削いで行くので切り屑ばかり大量に出る。
「お姉ちゃん。こんなに散らかしたらサミエラに叱られるよ。もう、しょーがないんだから」
サツキに言われちゃったけど途中でなんか止まらない。元が石だから相当薄くしないと結構重い。どのくらいまで薄くできるかな。気に入った形になるまで削っていたら、切り屑が嵩張ってサツキの手持ちの袋では収まらなくなった。
これはまた怒られちゃうな。危険を感じたあたしはねぐらまで切り屑を持って跳んだ。袋の中身も出して置いて来ると、出来上がった器を眺めているうちに寝てしまった。
サツキがぶつぶつ言いながら灯りを消してくれたみたいだった。
・ ・ ・
森に行って落ち枝を探しているとウサギを見つけた。
しばらく肉を食べてないからね。なんとか獲れないかな?
草の陰であたしには気付いてない。石でもぶつけてみようか?こんなことなら弓矢でも習っておけば良かったかな?
ウサギを見ながらあれこれ考える。そのうちにウサギを見失ってしまった。
くう。残念!
あたしは狩りのための転移について考えていた。できそうな気はするんだよ。実際、風や水はすぐそばだけどできたし。
手元でフッと消して狙ったところに現れる。その時に相手に刺さった状態になってればいい。そこが急所なら仕留められる。
岩のカケラを持って森に行った。手元の石を棒に切り取って、あの木に刺さったところで現れる!
うまくいかないね。消すのはできたけど前にポトンと落ちたよ。30セロくらいしか跳んでない。
でも跳ばすのはできるみたいだ。重いとダメなのかな、もっと軽くしてみようか。でも石が小さいと傷も小さくなって仕留めるまでいかなくなるね、どうしよう?
うんと薄い板ならどうだろ?
岩のカケラで持ちやすいように3セロくらいの棒を作った。この木口をできるだけ薄く切る。切った板を跳ばす。何度も練習して行くとだんだん跳ぶ距離が長くなる。あたしもだんだん面白くなって来た。
おっと、いけね!サツキにお昼の用意を頼んで放ったらかしだった。
ねぐらに戻ると焼き上がった魚をサツキが一人で食べていた。怒られながらお昼を食べて一緒に森へ行った。サツキは食べられそうな草を探し始める。
あたしはもう少し練習するね。
5メルくらいは跳ぶようになったから、今度は相手に刺さるかやってみたい。木の幹に半分食い込んだ形を思い浮かべて跳ばしてみる。
うん、近ければ思ったとこに跳んで行く。石の板も向こうが透けそうなくらい薄くなってる。
あたしの指でも曲げると割れそう。って案外丈夫だね?表面に圧縮がかかってるせいかな?
「もっと遠くから跳ばせないと。たった5メルじゃお肉は獲れないよ」
サツキが厳しいことを言って来る。でも練習を続ければものになるかも知れない。
跳ばせる距離もちょっと長くなった。
薄い石を安定して作れるようになったので、薄くて丈夫な石の板を作ってみる。思ったよりも上手く作れたので、ねぐらに引き戸をつけてみることにした。
入り口の壁を平らに削り、床に細長い溝を掘ってそこに板をはめ込む。屋根の石材にも溝を掘って外に倒れないように押さえた。戸は薄いけど大きいので手で動かせるようなものではないし、取っ手も付いていない。
僅かな隙間はあるので小さな虫は入り込むだろうけど、ネズミのような動物はとても無理だ。
どうやって動かすかと言えば、戸になっている薄い板を浮かせて横に押すだけなんだけど、浮揚ができなければまず開けられないんじゃないかな?
他の方法といったら戸を壊すより無いかも。
村へ戻ると、夕飯の後で干し魚が揃ったとエイクラスさんが言った。裏の小屋に積んであると。
8000シル払って、裏の小屋からカゴに入れてねぐらに運んでしまう。薄い石の引き戸もあるから、短期間なら保存場所としても使えるだろう。
明日はネントラーだね。