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7 カイラス村で干し魚を手に入れよう

ここまで:ジーナに拾われたエイラとサツキ。

回復したエイラはジーナに素質ありとして様々な能力の訓練を受けた。

だがエイラは商人目指した。

        登場人物


 エイラ 孤児 13歳(推定) 


 サツキ 孤児 11歳(推定)


 ジーナ サイナス村の長 年齢不詳 エイラの師匠


 エイクラス カイラス村 村長


 ネクト   カイラス村 長老


 サミエラ  カイラス村 村長の妻


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


   7 カイラス村で干し魚を手に入れよう


 本拠になる街町を探し始めて3日目に、そう大きくもないけど暮らしやすそうな町を見つけた。


 ネントラーと言う人口9000ほどの小さな町。海が割と近い、と言っても120ケラル近く離れている。

 町で聞き込みをすると、干し魚は滅多に手に入らないので肉屋で扱ってると聞いた。海の村に加工を頼んでネントラーを拠点に周りの町や村に干物を売り歩くか。


 そんな淡い計画をジーナに話すと

「まあ好きにするといい。困った時は言ってくるのじゃぞ」

 と言ってくれた。


   ・   ・   ・


 まず、海のそばの村へサツキと跳んだ。そばといっても1ケラルほど内陸で船着き場は少し遠い。舟は10艘程。エイラの計画には都合がいい。


 サツキと2人で挨拶に行くと、村の名はカイラス村だそうで村長を紹介してもらい訪ねた。ところが村長は面倒な相手と言わんばかりの対応だった。


「若い女子(おなご)が干物の買い付けだと言うのか?干物など買ってどうするというのだ?」

「町に持って行って売ろうと思います」

「町か?大きな町なら売れるだろうが、どうやって運ぶつもりだ。ここから歩いて行けるようなまともな道などないぞ。近いネントラーですら山越えが一つ、歩いて7日の道のりだ」

「そこはあたしに考えがあるんです」

「ぬう。それができるなら村も一枚噛みたい話だが……。どれくらいいるんだ?」

「1回200キルですね。いくらになりますか?」

「8000シルで買ってもらえんか」


 キル当たり40シル?安っす!

 お金も結構ギリギリだけど足りる。


「分かりました」

「うむ、3日待て。女子(おなご)二人を世話もせず放り出したと言われれば、村としても聞こえが悪い。今夜の宿はあるのか?」

「いいえ。まだです」

「ふん。うちで泊めてやる。日が暮れるまでに戻って来い」

「ありがとうございます」


 口調は荒いけど悪い人ではないのかな?



 サツキと物陰から北の浜辺へ転移して辺りを見て歩く。

「特にどうもない浜辺だねえ。何が出ても無防備すぎやしないか?」

「遠くなるけどもう少し北に岩場が見えたよ?ねぐらを作っとくのもいいんじゃない?」

「ねぐらか。懐かしいね。行ってみよう」


 上空へ上がると1ケラルちょっと。険阻で硬そうな岩場だ。高さも10数メルあって上からの見晴らしはいい。穴でもあればと見て回るけど、そんな都合のいいものはない。頂上付近に2人で降りた。


 穴か。できるとすれば圧縮の渦だ。大きめの石をくり抜くとすればどうすればいい?

 中の石だけ小さくするのはできそうだ。抜きやすいように先細りで。やってみると力を大量に持っていかれる割に、できた穴は小さい。宝石になるほどの力は込めていない。どの道この石で宝石は無理そうだ。抜いた石を眺めながら考える。

 この境目だけ縮んだら剥がれるだろうか?


 円錐のなるべく薄い面だけを作ると考えて、やって見ると軽く石が切断できた。それは感覚で分かるのだが石が抜けない。

 どこか繋がったままになってるのか?


 確かめるが、全部きれいに切れ目が入っているのは間違いない。渦はきれいに抜けている。


 エイラは一つ首を傾げ、それでもう一つの懸案を思い出した。

 

「魚を捕ってみるよ。ここで見てて」

 エイラは岩場から離れた海面に跳んだ。ジーナの網を使うなら深さが必要だ。ただエイラにはあんなに深くまで形を維持できない。せいぜい25メルだ。1メル角の網を海面に作り出来上がりを見る。網目は10セロ。


 形の維持に自分の浮揚、加えて網の浮揚、獲物の選別をしてそのまま転移。ジーナはよくこんな複雑ことをやろうなんて考え付いたものだ。

 あたしが一通りできるようなるまで2月(ふたつき)も掛かったんだから。


 網を沈めていく。網の渦への繋がりは何があっても手放してはならない。ここの海底は意外と浅い。17メルで底だ。

 砂地の海底に何かいるね。


 渦の圧縮を弱めて砂に沈めていく。15セロか、それで下に大きいのはもういない。渦を戻し持ち上げていく。驚かさないようにゆっくりと静かに。


 網には大小取り混ぜ10数匹、90キルくらいの重さがある。これを抱えて飛べないことはないが半日は何もできなくなる。

 少し考えてエイラは一番大きいのを一匹残しあとは小魚だけにした。網の横に身体を寄せて暴れる魚を海に放り込んで行く。終わると網と一緒にサツキのそばに跳んだ。


 

「お姉ちゃん、すごい!ここにもこんな大きいのがいるんだね」


 サツキは薄いナイフを出すと網の上の魚を次々に手早く締めて行った。村ではいろいろな仕事を経験させられたからね。魚の処理くらい慣れたものだ。ナイフもいい値段のものをジーナが持たせてくれてる。

 俎板(まないた)が欲しいかな?見回す目に飛び込んできたのは丸い小さな穴。さっきエイラが圧縮で抜いたはずのもの。下に小さな円錐の石。


「サツキ、これ見て」

「あれ?何これ?さっきお姉ちゃんが何かしてたとこ?」

「そう。あの時はどうやっても抜けなかった。なんで抜けたんだろう?」

「……」

「あ、そうだ。俎板」


 目についた小ぶりの岩、そのてっぺんを平にスパッと薄く圧縮渦を通す。


 ピシッ


 確かに切れたね。浮揚をかける。浮揚はただただ真上に持ち上げるだけ。切れていれば持ち上がる筈、が、びくともしない。

 見ていたサツキが手近な石を持って上を叩いた。その途端、石を持ったサツキの手を跳ね上げ、ものすごい勢いで石の蓋が上に飛ぶ。

 上を見ると10数メルも上がった石の板がこれからここに落ちてくるところ。咄嗟にエイラは空中に跳び、その板を伴って地上へ。板は足元にカランと乾いた音を立てて転がった。他の岩に当たって鋭い縁が少し欠けている。


「うわー。びっくりしたよー」

「それが俎板?」

「あ、違う。そっちの岩の上」

「へー。真っ平らー。いいねー」


 さっそくサツキは魚の処理を始めた。

 エイラの練習を間近で見て来たサツキは、これくらいでは動じない。次々と頭を落とし、ワタを抜き2枚開きから中骨を取っていく。


「どの魚も美味しそうだね。この大きいのはどうするの?」

「村長のお土産にするよ」

「ふうん。ワタだけ抜いちゃうね」

「うん」


 エイラは遠くに見える森へ跳び、薪と蔓の長いのを何本か採って来た。それをまず二つに割いた。太さを見てさらにふたつに割くと、握ったところに圧縮をかけ蔓の水分を絞って行く。


 エイラは修行の時に自分の小器用な圧縮で何ができるか色々試していた。ジーナにこれができるか知らないけど、きっと簡単にやっちゃうだろうな。


 蔓は乾燥させたわけではないのでまだ湿っぽいが、軽くはなった。ボツボツと粗く編んでカゴを作る。これに魚を入れ浮揚させたカゴを村の入り口から2人で担いで戻るつもりだ。

 これも森で採って来た枝をそれらしく絞ったあと、皮を剥くと担ぎ棒に見えるだろう。


 さて、まだ日は高い。サツキが切り分けた半身を焼きながら、エイラは石のくり抜きについて考えていた。


 これをごく薄く食器なんかにできないかな。それをやってみるにしても、切れているのに剥がれないってのをなんとかしないとね。


 目の前の岩を同じように円錐に切って見る。奥の方まで渦を入れて観察していると、切れ目が極々小さな粉になって挟まっているのが分かった。


「お姉ちゃん、お魚焦げっちゃうよ?」

「えっ?あ」


 慌てて魚を裏返すエイラの目にさっきの石が穴になって映る。

 え?あたし今なにをした?奥に渦を送り込んで見てたんだよね?


「もう!焦げちゃうってば。しょうがないなあ」


 いやいや。なんかやった筈だ。あの一瞬、こっちを振り向く時は……

 サツキの両手がエイラの顔を挟んで、グルンと景色が変わる。


 本気で怒るサツキの目だ。

 やばい!ちゃんと食べないとサツキの機嫌を損ねちゃう!


 結論が出ないままそこを片付けて村へサツキを転移。続いて魚を詰めたカゴを持って行く。今ではサツキの背が伸びたので高さはそう変わらない。2人でカゴに通した担ぎ棒を持ち上げるのに合わせて浮揚をかける。重さは半分くらいにした。エイラが前でサツキが後ろ。

 村長の家はさほど遠くない。


 裏の炊事場へカゴを持ち込むとお土産だと言って1メル少々の大魚を渡す。

 滅多に捕れないご馳走だと喜ばれた。聞くと村長は寄合の最中だと言う。


「話はあんた方のことさ。おや他にも魚を捕ったんだね?こっちは火干しかい、おや、きれいな切り口だ。いいナイフをお持ちと見えるね。ここらでも通じる腕だよ。ちょっと待ってな。今聞いて来てあげるよ」


 手伝いの人だろうか、一人でペラペラと喋って行ってしまった。

 板張りの廊下をぞろぞろと6人、こちらへ歩いて来る。先頭は村長のようだ。手招きされて土間の隅にカゴを持って行くと、上框(あがりかまち)の上から手を伸ばし、開いた魚の吟味が始まった。

 6匹の火干しの開きをそれぞれが手に取り、裏返したり透かしたりして見ている。


「干物にするには塩が足らんの」「いい切り口だ」「小骨まできれいに取っておるの」


「このヒラブエは海底の砂にいるやつだな。若い頃に潜って突いたことがある。お前たちも潜るのか」

「いいえ」

「むう。どれも皮に傷がないの。突いたのではないか」

「ネクト。聞いてもおそらく答えない。それくらいにしておけ」

「むう。だがエイクラス。これほどの魚だぞ?」


 エイクラスと呼ばれた村長に睨まれ、ネクトは大人しくなった。

 なんだろう、この村長。ほんとにいい人なのかな?


   ・   ・   ・


 昨日持ち込んだ大魚と小魚で5日の食事付きの宿代でどうだと言われ、どうせ相場もわからない身、それでお世話になることにした。


 朝にお弁当を作ってもらって岩場に通う。

 昨夜思い付いたことがある。あの切れ込みの奥を調べる渦は元は転移の渦なのだ。それをごく小さく近距離で使うってのが、エイラが編み出した小技の一つ。となるとあの隙間に何か転移した可能性があると思った。

 それを今日は試してみようと朝から考えていた。


 もう一つ。あの切り出した円錐の表面のことだ。磨いたようにツルッとした表面に、岩の中に含まれる鉱物の小さな粒が、見事な断面で並んでいた。

 あんなに何もかもきれいに切断して、段差すらなく磨き上げるなんてできることではない。上手に精密に造形が出来れば、きっと売れるんじゃないだろうか?


 エイラは商売のネタをもう一つ見つけたと思った。


「お姉ちゃん。そんな考えてばっかりじゃなくてあたしたちのおやつを捕って来てよ」


 サツキに怒られて海へ跳ぶ。網を下ろして魚を掬い上げると大き過ぎる魚は全部捨てる。5、6匹持って岩場に跳ぶと2人で片端からナイフを刺し締めて行く。

 あとはサツキの仕事だ。しばらくはこれでいい。


 さて、石のくり抜きのことだ。転移させると言っても、あんな小さな隙間に入れるものなど何もない。


 狭い隙間でも水なら染み込んでいくだろうか?

 やってみよう。昨日くり抜いた分は夜の間に抜けて落ちてしまっていたので、隣にもう一つ切れ目を入れる。水をごく少量、奥に転移してみた。切れ目にジワッと出てくるだけで石は抜けて来ない。

 だいたいあの抜けた石は乾いていた筈なんだ。

 まあ、お試しだからとさらに水を転移すると石が少し押し出され、上の方の水が引っ込んで隙間ができて行く。丸の下の方から水が垂れて、上半分くらいが隙間、下は水で隙間が埋まった感じになった。爪がかかるくらいに浮いた石を、そっと摘み引き出すと、取れた!


 もう一度やって見る。たくさん入れても少し余計に石が出っぱって流れるだけ。上の隙間が気になって覗き込む。息をフッと入れてみると水が下からピチャッと飛び出し、石が少し出て来た。

 ふうん?


 口を閉じて頬を膨らませ息を溜める。これを転移してみよう。

 石はあっさりと抜けて落ちた。へえー。


 じゃあ俎板(まないた)の時にやったやつは?そこらの岩のてっぺんを圧縮渦で真っ平らに切った。浮揚をかけるが持ち上がらない。これは予想通りだ。

 そして隙間に息を転移した。一瞬石が持ち上がりパチンと音を立て戻ってしまう。そのあと浮揚をかけてもやっぱり上がらなかった。なんの気無しに石の上に手を置いたらツルッと滑った。滑ったのは手ではない。なんと石が5セロほどもずれている。手を動かすと石がスイスイ滑って動く。


「サツキ!ちょっと見て!」

「えー、なーに、お姉ちゃん。あたしもうちょっとで終わるのに」

「いーから、ほら、見てて」


 スイスイ動く石を見せると

「ふうん、面白いね。またなんかやったんでしょ?」


 やったっちゃ、やったんだけど反応薄いなー。つまんないの。もっとびっくりすると思ったのに。


 気を取り直し石に浮揚をかけ、息を転移するとあっさり持ち上がった。

 そっか、息か。


 でも息ってほっぺに溜めものだけじゃないんだよね。(おり)の目の細かい布は風を包んでしばらく逃がさない。風がない部屋の中でも、ちょっとの間膨らんだままになってるのを見たことがある。

 手を速く振ると手に風が当たる感触があるしね。この目の前の風でやって見よう。両手で囲ったこの空っぽを穴の奥に転移。スポンと石が飛び出した。

 エイラはウンウンと何度も頷いた。


「お姉ちゃん。薪拾って来て」

「えっ!あ、はい」


 森に跳んで落ち枝を拾い岩場に戻ってサツキに預けた。

 サツキが火を起こし、棒に刺した小魚を焼き始めた。


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