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4 カントワースでエイラは奮闘する

導入部4話目です。

次からのお話は月木、週2回投稿を目指して頑張る予定です。

よろしくお願い致します。

       登場人物


 エイラ ゲミラ村の子供 8歳


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


   4 カントワースでエイラは奮闘する


 街道を歩いて2日。後ろから1台の馬車がやって来た。


 行商人の馬車だった。御者兼売り子の男ジンクと後ろにゴツい店主ヤヌス。剣が強そうだ。

 あたしが一人で街道を歩いているのを不憫と思ったようだ。カントワースの町まで送ってくれるという。ゲミラ村のことも知っていた。


 ヤヌスが行商に寄ったらゲミラ村は焼け野原だったらしい。何が出るか分からないのですぐに立ち去ったと。


 馬車で1日走ると次の日にはカントワースが見えて来た。


 門番にはヤヌス商会の保証で入れて貰った。

 ゲミラ村の事もここで報告される。


 あたしはカントワースの一時滞在に収まった。一応街の予算で15日間2食と寝床が当る。北門の詰所の3階で20人くらいが寝泊まりできる。

 寝床といっても板の間にムシロ敷、掛け布1枚だけど。


 早速背嚢などの持ち物を全部身につけたまま街を歩く。


 まず中央通りを端から端まで歩いた。両側に商店が建ち並ぶ広い通りが4ケラルくらいか。馬車が両側で荷下ろししていても、その間を通る馬車や人が行き交う。

 馬車1台やっとと言った路地をいくつも横切って賑やかな街の雰囲気を楽しんだ。あたしの服装は相当浮いてるけど。


 左側を歩いて行って突き当たりには南門があり、門の手前に大きな建物があった。

 帰りは右を見ながら戻って来た。


 こんなところで何かできるとは思ってないが、様子は知っておかなければ何もできない。

 あたしが入った北門から南行きが上り、逆は下りというらしい。


 次は一本西側、右隣の路地だ。ここは馬車の通行は下りだけ。左側の大店裏に付ける荷下ろし馬車の横を人が行き交い、馬車は進む向きが決められているのですれ違いはない。だから大通りの半分の幅で済む。

 右側にも店や倉庫が並んでいてこの通りも賑やかだった。


 3本目4本目5本目と道幅はどんどん狭くなり、建物が小さくなる。宿屋、洗濯屋、風呂屋、小さなヤオヤに肉屋、乾物屋、金物屋などが人の住む家と混じって両側に建ち並ぶ。

 5本目はほとんどが住宅地だ。


 その裏手はもう外壁が見えている。背の低い雑多な屋根が50メルくらいの幅で並び、道幅は1メルちょっと。スラム街と言うやつか。それでもやや真っ直ぐの、3本の通路が中を貫いていた。


 北側のこの辺りは門が近いからか、屋根はしっかりした作りだ。真ん中の通路を辺りを見ながら歩いて行く。住人に身なりのきちっとしたものなどいない。

 人の気配のない一軒を覗くと、そこは3メル四方ほどの土間でムシロが敷いてある。下の土がムシロの目を埋めて、あれでは土の上に寝るのと変わらない。


 所々に井戸があった。壁の際まで行くと便所が路地毎にある。思ったよりも井戸や便所はきれいだった。


 エイラはこの場所の雰囲気に滅入ってしまい、途中の路地から一本戻ろうと考えた。


 一本戻っただけで人の住む場所に戻った気がした。一体何人があそこで寝起きしてるんだろう。一時滞在を出されたら、あたしもあそこに行くのだろうか?


 門の外にも何軒か家があった。広い畑もあった。あそこで働けないだろうか?


 ここはまだ北門が近いので、戻って門番に聞いてみた。


「ああ、行けば雇って貰えるだろう。近いところは大体埋まってるんじゃないかな。行って聞いてみるしかないな」


 馬車1台がやっとの道路が門から真っ直ぐ伸びていた。10数軒の農家を尋ねて、森がもうそこに見えている。そこまで歩いてやっと使って貰える農家があった。明日から一月忙しいらしい。お昼の一食分は賄いが出るそうだ。慣れるまでは1日200シル。6日働いて1日休み。順番では4日目が休みだそうだ。


   ・   ・   ・


 農家の仕事は豆の穫り入れだった。

 貰った200シルを握りしめて暗い道を戻って来る3日間。今日はお休みだ。

 ここのご飯も賄いも、美味しいものじゃ無かった。


 中央通りの一本左は領主の通りで中央通りと同じくらい賑やかだ。馬車の通行は禁じられていて屋台が広い通りの真ん中に並ぶんだ。

 一時滞在の先輩に聞いてから楽しみに待っていた休みだったんだけど……

 串焼き1本60シル。いい匂いの煮込みが1杯120シル。美味しそうな白パンが150シル。あたしの手持ちは600しかないのに。


 一時滞在を出されたら生きていける気がしない。一番安い串焼き一本を買って街を歩く。東側も西側と同じように、外れにはスラム街が折り重なるように広がっていた。


 井戸と便所がきれいなのは、領主からお金を貰ってスラムの住人が掃除するかららしい。

 それももっと出ているのを、間に入った代官が中抜きしてるってウワサだそうだ。あの界隈には数があるので、かなり儲かるはずだと言っていた。


 南門の外も見て来たけど、北と同じような感じだった。


 なんとかお金を稼ぎたい。これから寒くなるから寝床も要る。

 あたしは街をぐるぐると見て歩いた。その日は特に何も見つけられず一時滞在に戻った。


   ・   ・   ・


 今日は3回目のお休み。日給も350シルにして貰った。農家の手伝いはあと10日程で終わると言われた。

 一時滞在はとっくに出されてスラムに寝起きしている。住んでいる人に聞いたら空いている屋根を教えてくれた。仕事先の農家でムシロを何枚も貰って来て敷いて居るけど、雨は漏るし便所が遠い。


 街の仕事を探してるけど服装(なり)が汚いと断られる。こんなところで寝起きしてたらそれも当然か?


 今なら少し蓄えもある。あたしは古着屋に飛び込んだ。泥だらけで着た切りのあたしを見て、店のおばさんが嫌な顔をした。

 それでも話は聞いてくれて、安いところを見繕ってくれる。あたしが裏口で待っていると、桶に水を汲んでくれてまず体を洗えという。


「いくら安いったって、そんな汚いとこに着せたら服が可哀想だよ。ちゃっちゃと洗いな!」


 薄い塀の内側でボロ服を脱いで、縮こまって体を洗う。洗い終わった頃おばさんが出て来て、石鹸を塗りたくられあちこち痛い程洗いまくられた。


「あんた、この傷。ずいぶん酷い怪我だったんだね。痛くないのかい?」


 肘の傷跡に触れておばさんが言った。


「え?ああ、痛くないよ?」

「よく見るとあちこち傷だらけだねえ。出身はどこだね?」

「ゲミラです」

「ええっ?あの滅んじまった村かい?あんた、いくつだね?」

「もうじき9つだと思います」


 おばさんはもう何も言わずあたしの髪を洗って、ゴシゴシ拭くと後ろに纏めてリボンに縛ってくれた。


「代金は800シルだよ」


 あたしは相場なんて分からないけど、ずいぶん安いんじゃないかと思った。お礼を言ってお金を払った。下着一揃いに履物までつけてくれて。

 そうなると今度は箱が欲しい。汚してもいい今の服とこの服を分けておかないとダメにしてしまう。


 いろんな仕事に行って、自分で考えたり聞いてまわったり。あたしの生活はそれから少しずつ蓄えができるようになって行った。


 ねぐら荒らしもいると聞いて用心もしている。せっかく手に入れたものを奪われては堪らない。でも充分ってのはないんだ。


   ・   ・   ・


 カントワースに来て2年が経った。


 店の手伝いに入れば、意地の悪い子もいるんだ。あたしがまだ小さかったってのもあるんだろうけど、陰口なんて可愛いもの。店の物が何かないとなると必ずあたしが盗ったと言われた。

 荷運びなんかの時は注意してないとそんな子達は半分も力を入れていないだけじゃない、空いた手であたしのポケットに、何かしら店の物や汚い物を押し込まれたこともあった。


 そんなことは数え切れないくらいあったさ。


 幸い店の旦那がいい人で、普段から悪さの標的になっているのを見ていてくれてたから良かったけど。


 でもそんなことが続くと居づらくなるんだよ。大して大きな町でもないのに別の店を探すことになるんだ。



「おらっ!小汚いガキめ。俺たちの目につくところを歩くんじゃねえ!」

「それはそうとお前ら小金を稼いでるそうじゃないか」

「おうよ、有り金置いていきな」

「お金なんて無いわよ!」

「へん!ネタは上がってるんだ。おい、ひん剥いちまおうぜ」


 囲まれて小突き回された挙句、わずかな稼ぎを毟られた。そうやってサツキと2人で痛みを堪えてふらふらとねぐらに帰った事も何度となくあった。


 路地で絡んで来てた3人は他でも悪さをしてたらしい。とうとうとっ捕まって追放されたのがひと月前。それであたしらに意地悪する連中も鳴りを潜めているんだ。


 あたしとサツキはどこでも一生懸命に仕事をしてる。見てる人はちゃんと見てるってこの頃分かってきたよ。


 この町はカントワース。あたしはエイラ、孤児だ。妹分のサツキと2人で生きている。


 妹分と言っても姉妹ではない。裏路地で出会った同じ孤児だ。年上の店の子供3人に囲まれ小突かれているところへ、あたしが割って入って以来の同居人だ。


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