11 ランクロフトはドンゴロス盗賊団を討伐した
登場人物
エイラ 能力者 行商担当
ランクロフト 盗賊 気配読みに長けている
トレスティオール ウエスティア領主代行
デニーロ ウエスティアの顔役
サンディ デニーロの情婦
クレイグ ドンゴロス盗賊団首領
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11 ランクロフトはドンゴロス盗賊団を討伐した
早朝と言って良いのか、夜が白み始めた頃、俺は寝床からふらっと出た。
エイラとの連絡のためだ。アジトの近くに転移して来たのは俺の敏感な気配察知で分かっている。俺は見張りに挨拶がわりに片手を上げ、開けた場所へ歩いて行く。ある程度アジトから離れたところで立ち止まった。目の前の地面の窪みに仰向けに寝たエイラが居た。
アジトからは見えない位置だ。俺は軽く足を開き、朝日に向かって立ち小便をする体で手を前に回すとエイラに声を掛ける。
「よう」
「どうだった?」
「今日ウエスティアを襲うって言ってたよ」
「それで?」
「細かい手筈はウエスティアの近くに行くまで知らせねえんだと」
「じゃあ大した情報はないってわけ?」
「そうなるな」
「じゃあどっかで野営して待機かな?ウエスティアの領主の衛兵を減らしたいらしいから」
「衛兵ってんだから強いんだろ?」
「多分ね。でもこの人数だとどうだろ?ことが始まったらあたしも加勢するからそれまで大人しくしてて」
「やれやれ」
俺が寝床へ戻ろうかというところで見張りに止められた。
「じきに出発だ。準備しろ」
俺は自分の装備を身に付け、戻ると広場は野盗供と馬、馬車でごった返していた。
サンディ達の馬車が先頭で出発だ。
1日走って俺たちは野営。ウエスティアまでは1ハワーってとこだ。ここで連絡待ちらしい。
すっかり暗くなって小柄なはしっこい男が野営地にやって来た。打ち合わせがあったようだ。みんなそれには気付いていて、ヒソヒソと情報交換があった。
相手が領主の衛兵隊とは聞いてねえみたいだな。
朝になって領主の馬車を襲うと首領から言われた。小間使いを一人逃がせという指示も飛ぶ。
「そいつはエサだ。俺たちの狙いは、ウエスティアの略奪だ。よく聞け!
ウエスティアで腕が立つのは領主衛兵の衛兵隊20人。あとはザコだ。領主の危機と聞けばその半数は出て来る。これを潰しちまえばあとは楽なもんだ」
クレイグは下卑た笑いを浮かべ
「抜かるんじゃねえぞ!」とぶち上げた。
とは言うものの当面は連絡待ち。待機の多い仕事で、酒も飲めねえ。時間が経つにつれぶちぶちと不満が溜まるのはお決まりだな。
・ ・ ・
待った挙句、まず領主の馬車が来た。ワッとばかりに取り囲むと小間使いの男が逃げて行った。残りを拘束するんだが、一緒に乗ってた女は良いとして領主はなんと言うか気持ち悪い。この世に住んでねえっての?強い薬草漬けだって聞いたがありゃねえな。
何されても涎垂らしてエヘッエヘッてなんだよっ!?
んでまた待機だ。待ってると領主奪還の衛兵隊15人が騎馬で向かってきた。
クレイグが縛られ涎を垂らした領主を盾にして怒鳴った。
「これを見ろ!」
領主と見てとり衛兵隊の馬が止まる所を手下が何人か左右から囲みに行く。
ん?衛兵隊の後ろに止まった馬車はサンディか?見たことのねえ男が一人乗っている。
その男が吠えた。
「あーっははは。かかったな衛兵隊。これでウエスティアは俺のもんよ!やっちまえ!」
だが野盗どもは動かない。
「あれ、誰よ?サンディって頭の女だよな?なんであんな偉そうにほざいてるんだ?」
「あれ、確かデニーロだよ。ウエスティアの顔役」
領主を盾どった首領のクレイグが怒鳴る。
「まず衛兵隊からだ!殺せ!」
その途端だった。クレイグのそばにエイラの渦が現れ、領主が消えた。
ギョッと立ち尽くすクレイグだが、俺は戦闘開始だ。エイラの指示は野盗の殲滅、手近なところから切り捨てていく。
後ろの5、6人を倒す間にも衛兵隊の右に出た奴らがバタバタと倒れる。あれはエイラの石板だ。
銀鎧の衛兵隊は正面から騎馬で突っ込んで込んで来た。もう滅茶苦茶だ。
俺は人数が多く残っている左へ跳んだ。そこにはネイルクセラが居た。
「よう、ランクロフト。面白くなってきたじゃないか」
そう言って俺に長剣で斬り込んできた。30セロ後方に跳び剣先をやり過ごし懐に跳び込む。俺の得物は短剣だ。この間合いじゃ届かねえ。
が、鼻先をネイルクセラの膝が掠めた。慌てて退がる所へ左から長剣の振り戻しだ。どんな体幹してやがる!?
その間にも周囲に女ばかり3人。ニースが言ってた姉御達か。
短剣を構え直すと右端の女の背後へ跳び、1動作で首を掻き切った。血を噴き上げる女をネイルクセラに向けて膝で蹴り出す。すぐにネイルクセラの背後に跳ぶが、反応が早えぇ、体を沈め脇から後ろへ長剣を突き出しやがった。
このクソアマ、チンチンに当たったらどうしてくれる!?
嫌な汗を掻いたが跳んで逃れ、右の女の肩に短剣を刺しネイルクセラの正面に戻った。すぐさま左から大振りの長剣が襲う。長剣の間合いの中だが、構わず左から叩きつけるように短剣を振る。俺に当たる瞬間に後ろへ跳ぶ。
ネイルクセラの長剣をさらに加速するように俺の短剣がやや下向きに叩いた。右には姉御の仲間がもう一人居る。そこへネイルクセラの加速された長剣が、止めようもなく襲い掛かった。
長剣は女の剣を弾き胸当てを強打した。吹き飛ぶように倒れる仲間に焦るネイルクセラの左へ俺は跳び、短剣で利き腕の右肩を抉った。
周囲の近接戦では衛兵隊が押しており、エイラの飛び道具で野盗どもに戦闘不能が続出、間もなくドンゴロスの生き残りは投降した。
俺はサンディの馬車へ跳ぶ。デニーロの確保だ。野郎は野盗どもが投降したんで慌てて馬車を返す所だった。
俺は2頭立てのうち、左の馬の尻に立ち御者台を見下ろした。
馬が驚いて竿立ちになる。すかさず馬車の横に跳ぶと、馬車はもう制御できずぐるぐる回りを始めた。慌てて手綱を引くデニーロを俺は転移で引っ攫った。
サンディの悲鳴と暴れ回る馬車を他所のデニーロを素早く地面に叩き伏せ、後ろ手に縛り上げた。
馬車はエイラが宥め停めたが中に乗っていたサンディは目を回していた。
・ ・ ・
夕方、俺とエイラは領主屋敷とやらの1室に来ている。目の前の若い女には不似合いなでかい机、うず高く積まれた紙の山が左右に二つづつ。書類を詰め込まれた棚のほかは調度といえるようなものは何もない。
簡素なスツールが後ろの壁際に4つあるだけだ。
何も報告らしいことは言っていないのに、その女が立ち上がって言った。
「ご苦労様。盗賊団の壊滅とデニーロの排除についてお礼を言います。思ったより早かったので褒賞の用意が間に合いませんでした。ついては、1週間後にまたご足労をお願いします」
そう言って頭を下げるのは領主代行の
セレスティオールという娘だ。
おいおい、そんなんで良いのか?
だが俺の上役というか、仕切ってるのはエイラだ。
「まあ、慌てたこともないし。暇を見てまた寄るからその時でいいよ。
ランクロフトもご苦労様ね。帰るよ」
俺たちはその陰気な執務室を出るとエイラの転移でカイラス村へ跳んだ。
さて、エイラの仕事にはこんな荒事でもなけりゃ、俺なんぞ役には立たんからな。
ちょっと前にエイクラスとサミエラから漁師をやらないかと言われてるんだ。町のセカセカした暮らしよりはいいだろう。
「なあ、エイラ。俺、カイラスで漁師やってみるわ。跳べる距離もショボいしほとんど物も運べねえからな」
エイラからは好きにしなと言われた。村に迷惑をかけるな、とも。
明日っから慣れない漁のあれこれを教えてもらって、早く1人前にならんとな。




