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1 ネントラーの再興の槌音

        登場人物


 エイラ 孤児 20歳(推定)


 サツキ 孤児 18歳(推定)


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   

    1 ネントラーの再興の槌音


 あれからライクレットはたまに気になって見に行ってるけど、いつ行ってもひどい状況だ。

 餓死で何万人か減ったようだけど、それでも地元の農業があれだけ酷く縮小していては全然足りていない。何年も他の土地の略奪で賄って消費だけしていたんだから。


 このごろは王城地下に溜め込まれた家具を見つけたようで、道端に積み上げてあるのを見かけたけど、食べるものがないのに誰があんなもの買うっていうのか?


 ネントラーの方は狭いながら街道が生きているので、近隣の町村の助けをもらいながら復興を進めている。

 あたしも店を建てたかったけど材木が近所にない。転移で運べるのは1回100キルほどだしどうしようか考えた末、人が近くに住まない森を探した。割とまっすぐな木の多い森。

 これなら乾燥させれば家に使えるだろう。


 ネントラー郊外の街道沿いに1日かけて貯木場を準備して、小僧2人を連れ森へ飛ぶ。

 まず立ち木の枝を下から上に何本かずつ切り落として行く。切り口に圧縮をかけて指2本ほどその薄板をずらす感じで木は簡単に切れた。

 下の太い枝はそれだけで100キル近いので、ネントラーに置いてくる。あまり重ねないようにして手前から広場を埋め尽くして行く。

 すぐに半分ほども塞がってしまったので、ネントラーの町で片付けをしている人に協力を頼んだ。


「木の枝だって?焚き付けくらいにはなるか」


 そう言って小刀を持って2人が見に来てくれた。


「1ハワーでこんなになっちゃって。太い木も運ぼうと思ってるんですけど」

「何だと?こんな道具じゃどうしようもないぞ。もう4、5人連れて来よう」

「斧も要るな」


 2人はネントラーから応援を呼ぶようだ。

 エイラは森に戻って枝払いの続き。100キル溜まるたびに広場へ跳ぶ。

 3回目に戻るとゴツい男たちが6人集まって枝の整理をしていた。どう見てもエイラの運ぶ量の方が多い。それでも3本の木の枝払いが終わったので、次は幹だ。太くても枝と一緒で伐るのは簡単。倒すのもゆっくり降ろせば自然に倒せた。


 建物に使うなら4メルくらいで切り分けたい。そう思って根元の方からバタバタと切り分けて行く。切ったばかりの木っていうのはすごく重い。下の方は500キルくらいもある。とても運べないので、縦に2つに切ってそれぞれ3つに割ってしまう。


 そうやって持っていったら、雨に当たると腐ると言ってえらく怒られた。木が乾くまでテント小屋で囲うと言って騒いでたけど、そんなこと言ったってねえ。


 森には大小様々な獣が住んでいる。

 エイラもたまに作業中に出くわす毛皮は残らず狩っている。エイラの射程は20メル近くまで伸びたので、見つければほぼ仕留められるのだ。

 転移で先回りするから、地中へでも潜り込まなければ逃げられない。今日も小さいのばかり5匹狩って、小僧たちに捌き方を教えたところだ。獲物は持ち帰って肉屋に卸すけど量が少ないからね。代わりに美味しい干し肉をもらってみんなで食べたらそれでおしまい。数少ない楽しみって奴。

 

   ・   ・   ・


 エイラが不足していた木材を運んだので、5日もすると狂いが出るのは承知で、仮小屋を町のあちこちで建て始めた。木材の乾燥場所もいくつか建ち始め、広場からどんどん運び出されて行く。

 伐採の方も残す木に気を使う。幸い森の木は混んでいるので、3本のうち2本は伐っても良さそうだ。

 曲がりの多い木を持ち込んだら、職人さんがひどく残念がっていた。加工に手間がかかるので、急ぎばかりの今は使い所がないと嘆いていた。


「こんな木で立派なお屋敷を建てられる日が来るといいね」

 エイラの掛けた言葉に、その職人さんはただ頷くばかりだった。


 エイラがそうやって木材にかかりきりの間、サツキはカイラス村から荷車を引いて干し魚を運んでいた。資金を溜めて店を再建すると言って、小僧2人と頑張っている。

 カイラスに住み着く者もいて村の人口が300人ほど増えたと聞いた。


 木の伐採と運搬は3月の間続いていた。枝も全部運んでいるので、寒くなって来たこの時期に燃やす薪として活躍している。

 小僧たちも毎日力仕事をさせるものだから、体格も良くなって、もう2人いっぺんには、森まで連れて行けない。


 町の建物は半分も出来ていないし、何より薪が足りない。冬の間も木材を運び続けるよりなさそうだ。


   ・   ・   ・


 雪の積もる中も槌音は止まず、少しずつ仮設とは言いながら建物が増えていった。住人は2500程まで戻ってきて、毎日何がしかの作業を忙しそうにしていた。その甲斐あって3本ある大通りの周辺が片付きつつある。やはり町の中心部が形になって来ると張り合いが出るようで、エイラの目にも復興が加速したように見えた。



 すっかり雪も溶けて、瓦礫の隙間から草が顔を出し始めた。

 サツキも元の場所に小さいが仮設の店舗を建てた。並べる物がろくにないので、エイラは2日ほど伐採を休んで、大量の食器を作る。近所の内職は1人しか戻っていないけど、それでも口に当たる角を削ってもらい、店に並べて行く。土に半ば埋もれていた在庫の岩はすぐに底を突き、覚えている採取場所へエイラは何度も跳んだ。


「お姉ちゃん。食器はしばらく半額特価で売るからね。今食事に使う器もない人が多いんだよ」


 サツキに言われてしまえば、エイラも異論はない。せいぜいたくさん作っておこうと思うだけだ。ふと思いついて石で鍋を作ってみた。

 薄い80セロもある丸い石板を、爪より少し厚いくらいに切り出して、片面をどんどん圧縮して行くと、引っ張られて曲がりが強くなる。割れてしまいそうなものだけど、圧縮で変質しているせいか素直に曲がって行く。


 エイラの作る食器でも少々の衝撃では割れたりしないので、そういうものなのだろう。12キル程の重さがあるけど丈夫そう。

 縁を少し戻して両側に持ち手のための小さな穴を2つずつ開けた。当面はこれに紐を通して持ってもらおう。良い職人さんがいたら、ちゃんとした両手鍋になりそうだ。


 ただ石の運搬が問題だ。運搬路があるのはカイラス村くらい。他の場所だと自分で跳ぶから、現地で薄い円盤にまで加工しても1回運んで8個しか作れない。売りに出すならもっと数が欲しいので、カイラスで80セロと60セロの円筒を幾つも切り出して、運んでもらうことにした。

 60セロのを一つ持ち帰って、加工してみたら小さい鍋を10個以上作れたよ。

 石が届くまで6日、伐採の方を進めていよう。


   ・   ・   ・


 暑い夏が過ぎネントラーの復興も仮住まいとは言え、形になって来た。魔女と言われて変な遠慮と言うか、距離を置かれることが多くなって気詰まりなので、この頃は新しい本拠地を探している。ネントラーは小僧、おっと、いつまでも小僧呼ばわりは可哀想か、クライスとシーラに任せて、あたしたちはまた他で商売をすることにした。

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