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6 マクファース達は古城を発見した


        登場人物


 マクファース  元ライクレット王国 王子 14歳


 ニーニア    マクファース付き侍女 15歳


 ナンゾエラール 元ライクレット王国 将軍


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    6 マクファース達は古城を発見した


 使われている木材はあちこち朽ちているが、石材はしっかりしている。

 通りの左右の建物は立派な3階建てが並んでいるようだけど、何か様子がおかしい。


 マクファースが覗き込むように見てみると、正面と側面の一部が石造で、中の床や屋根と裏側などは木製で崩れてしまっているのもあった。

 通りの途中途中にある通路も同じ石造の壁だけが建っていた。この街の再生は木材もそうだが、たいへんな人数がかかりそうだ。


 ずいぶん歩いて城が見えてくる。大きな城はライクレットの貴族街と王城を合わせたくらいか。


 門は開かれていた。黒い石で組まれた高い城壁に囲まれ、周囲は広い道路なのか広場なのか、ぐるっと石畳の空き地が囲んでいるようだった。


 右手の空中に一本、石の橋が見えた。


 門から城に入ると壁は高さの割りに薄く、5階建ての兵舎が内側に張り付いているように見えた。


 壁の内側は広い庭園だったのだろう。

 花壇や噴水、彫刻といったものが、草や蔦に覆われ木々の間から辛うじて見えている。だが今は、さながらジャングルのようだ。


 正面に見上げる程高く聳える城が、一本の尖塔を囲むように建ち左右にも塔が見えている。

 藪を切り払い丈の高い草を踏み越えてナンゾエラールが進んだ。

 正面玄関なのか、広い車回しの庇を左手に、壮麗な彫刻に覆われた入り口があった。


 妙にくすんだ石の重い扉を押し開け、ナンゾエラールが中へ踏み込む。


「ほう」


 ナンゾエラールの声に続いて僕らが中に入ると、そこは埃は積もっているが思っていたよりもずっと綺麗で明るいホールだった。

 明るいのは、後ろの大扉から日の光が抜けてくるからだった。


 突き当たりの扉を開けると、そこも思ったより明るい廊下で、正面から日が入って来ていた。

 最初の扉は左右どちらも天井の高い大広間だった。中は左右の壁の天井付近に並んだ大窓から差す日で、光に溢れていた。

 ライクレットの王城でもガラスは使っていた。きっと同じようなものがあるのだろう。


 壁際にテーブルや椅子がかためて置かれていた。


 中庭を屋根付きの通路を渡って次の建物に入るとまた廊下が見える。その中程の左右にまた薄暗い廊下が伸びていて階段もあった。

 左右の廊下から入れる扉をいくつか開けてみると、明るく広い客室といった趣きで、マクファースは長く住んだライクレットの客室を思い出した。


「マクファースさま。この部屋でしたら少し手を入れれば使えそうです」

「まだ時間も早いから、もう少し見て回ろう」

「そうですな。水と食料は今のところは心配ないですから」


 ナンゾエラールも探索に賛意を表したので先へ進む。

 部屋の並ぶ廊下を進んでみると、どうやら城を中心に同心円上に建物と中庭が、交互に取り囲んでいるらしい。


 次の建物は執務室や書斎といった雰囲気の豪華な部屋が並んで居た。


 次は貴族が住むような豪華な居室で、寝室や使用人の部屋など、6室1セットのような構成で仕切られていた。ライクレットなら王族用の居室が近いかもしれない。


 次の中庭は広かった。建物に入ると大きな吹き抜けに、広い回り階段が正面にあった。あちこちに見える白い石の柱にも、細かな彫刻が施され見る目を奪う。

 床も足で埃を除けると顔が映るほど滑らかに磨き込まれている。


 ここが城の中心といったところだろうか。


 この階の外周は使用人部屋らしく、調度も質素で部屋も狭い。休憩所や仮眠の部屋、浴室に便所など様々な部屋といくつもの小階段があった。ここの階段は下へも続いていた。


 大階段を2層分登るとダンスホールだろうか、下から突き上げる柱がそのまま上に伸びて、さらに2層分の空間を支えている。


 大階段は正面の奥に(しつらえ)られていた。

 外周部には休憩のためと思われる調度の豪華な部屋が2層に渡って並び、内外にバルコニーが付いている。


 次の大階段を登った先は謁見の間と言ったところか。がらんとした高さのあるホールに玉座があった。


 玉座の裏の階段から登ったフロアが今度こそ王族の居室らしい。

 階段はさらに上へ続いており、尖塔へ続くと思われた。

 フロアのどの部屋を開けても絢爛豪華な調度が、落ち着いた雰囲気で収まっていた。

 ライクレットと異なるのは精緻な装飾ではあるが、素材の質感が第一で金銀の目を射る装飾が少ない点だ。

 床の敷物はすでに朽ちていたが、その厚みからどれほどのものだったか想像がつく。


 その居室群の中央にも大階段があり同じような居室いくつもあった。外周の部屋階数を数えると8階に当たる。


 こうしてこの古城を入り口から一直線に中心まで見て来た訳だが、全て調べるのは大変な時間がかかりそうだ。

 厨房施設や井戸が見えなかったのも気になるところだ。居室についている小さな台所では、とても調理ができたとは思えない。


 この城では登り降りも不便だ。マクファースは中庭を越え一つ戻って、貴族用らしい華美な居室を調べて見た。


 渡り廊下に近い部屋から見ていくと、そのひとつが広い厨房だった。

 配送用らしいワゴンがいく台も並び、幾つもの配膳口がある通路。ここに並んで出来上がった料理をワゴンに収め、各部屋に配送して行くのだろうか。

 大きなガラスを隔て、何列も見えている調理台と道具や鍋、食器が大量に並ぶ棚。


 配膳通路から厨房へのドアを潜ると見慣れない調理器具が並ぶ。一通り見て歩いたがまず、(かまど)が無い。水瓶(みずがめ)もない。

 深く白い作り付けの四角いタライが調理台に組み込まれ、その上に見たこともない器具が突き出ている。上に付いている棒は動かせるようだ。

 やってみると左右に動く。上下は、上に動いた。突き出ていた器具の先から濁った水が出て驚いた。よく見ると青と赤の印が付いている。

 今動かしたのは青。赤は水が出なかった。他のも試すと青は皆、濁った水が出た。


 調理台に空の鍋が載っているものがあった。

 所々に突き出ていて、なんだろうと思っていたギザギザの突起の上だった。その調理台にはもうひとつ特徴があって、拳より小さめの丸いものが前面についているのだ。ニーニアは興味津々でしゃがみ込んで、そのつまみを回す。


 チチチ。ボッ、ボボッ。


 鍋の下で小さな光が散ったかと思うと赤い火が一瞬灯り、次に青い火が瞬いた。

 驚いて手を離し呆然と鍋に底を見つめていたニーニアがもう一度つまみを回す。


 ボボボボッ!


 それで音は消え大きな青い火が燃え盛る。といってもその火の丈は5セロ程、さほど大きなものではないのだが、程なく鍋がチリチリと鳴き出した。そのまま見ていると鍋の中から白い煙が漂うように上がりボッと大きな炎が噴き上がって消えた。慌ててつまみを回し戻すニーニア。

 底の火は消えたが鍋からは焦げ臭い匂いが漂っていた。触ってみると鍋が熱い。

 中に積もった埃に火が付いたか?でもどうやって火が回ったんだろう?


「ちゃんとわかるまでここの物はむやみに触らない方が良さそうだ」

「はい……」

「そうですな。今のは肝が冷えましたぞ」


 調理台の上にはよく分からない箱がいくつか置いてあり、同じようなつまみやボタンがついたものがあった。それらはなんの反応もしなかった。


 後ろから出ている紐もなんなのか分からない。伝っていくと、調理台の裏面の壁の薄い出っ張りにつながって、埃が積もっている。埃を指で落とし、つまんで見ると少し動く。隙間が見えた。

 抜けるのか?


 引くとあっさり抜けた。その先には3本の細い金属の棒。

 なんだろう、これは?


「王子、休む準備をしましょう」

「はい。部屋のお掃除をしないと」


 ニーニアはどこから持ってきたのか、取っ手のついた深い桶を二つ持っていた。それを水の出た器具の下に置きレバーを上げる。

 躊躇いがちに汚れた水を吐いていたが、ゴバァッ!っと一つ咳き込んだ後たくさんの水が出始めた。


 音に逃げ腰だったニーニアが水に触れ

「透き通ってます。きれいな水が出ました」


 そう言って桶をひっくり返し水を捨てると、新たに水を溜め始めた。続いて隣の青印の器具からの水も流す。こちらもすぐにきれいな水が出るようになって桶を差し込んだ。

 いくらも経たず2つの桶は一杯の水で満たされ、ニーニアの先導でナンゾエラールが運んでいく。


 豪華な居室の応接室には柔らかいソファがいくつもあった。どこからか拭き掃除に手頃な大きさの布を持ってきたニーニアが、ソファを拭き始めた。テーブルやに置かれた布はまだ何枚もあったので、ナンゾエラールと僕も目についたものを片端から拭いていく。


 ニーニアは桶の中で汚れた布をゴシゴシ洗って、ぎゅっと絞るとまた拭き掃除を続ける。

 僕も真似をして洗ってみた。さっきから拭いた後に筋が残ってきれいにならないんだ。

 ナンゾエラールも同じだったようで、布の水洗いを挟んで拭くようになった。


 床も敷物はシャンとしてるけど積もった汚れが酷い。だけど今は静かに動けば埃が舞うようなこともないし、テーブル、椅子、ベッド代わりのソファがきれいになった。

 中庭で焚き火をしてクマ肉を炙って、皮袋の臭う水の夕食だったけど、久しぶりの落ち着いた夕食だった。


 ニーニアが探してきた掛け布で、僕は朝までぐっすりとねむった。


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