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12 襲撃とカイラスへの避難

        登場人物


 エイラ 孤児 18歳(推定)


 サツキ 孤児 16歳(推定)


 エイクラス カイラス村 村長


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


     12 襲撃とカイラスへの避難


 襲撃は突然、西門に火の手が上がるところから始まった。町が騒然となり火を消せと、男達が駆けつけ始めた時、北門からも黒煙が上がる。

 事ここに至って、尋常な事ではないと皆が思い始めたが、まだ己の身に危機が迫っていると考えるものは誰一人いなかった。


 前兆はあった。狩人の獲物は10日ほど前から激減し、5日前からは戻って来ない者もいた。だが、獲物を追って遠出したのだと思われ、見過ごしていた。

 東の街道作りへ出ている人足達へ送っていた食料車は3日前に出ていたが辿り着かず、問い合わせの伝令が来ていた。

 北に土煙を見た者もいたが気にする者は居なかった。


 北門から怒声と共に1000の兵士が町になだれ込み、そこで初めて一大事だと知れ渡った。

 遅れて西門が焼け落ちるとそこからも兵が侵入して来たが、北の騒ぎで西の住民は避難を始めていた。サツキは南へ逃げる集団にいて無事だった。けれど、北の街区は多くが蹂躙され、逃れて来た怪我人で街路は溢れた。


 その数は北の街区の住人の半数にも満たなかったが、混乱の中、迎撃に向かう民兵や警備兵を通すべく軒先に身を寄せていたと言う。

 町の兵力は500足らず。腕に覚えの者も立ち上がり、加勢しても700も居ただろうか。


 2000の侵略軍に対抗などできよう筈もなかった。だが、壊滅してしまうまでに住民の避難は進み、難民となって西と南へ逃れる時間だけは稼いでくれた。


 こうして1日にしてネントラーの8000の生き残りはその住まいも財産も失って難民となり、ライクレット王国の旗が町の庁舎と東と南の門に翻ることになった。

 夕方近く戻ったエイラは、変わり果てた町の光景と外に溢れ、(うずくま)る難民の群れを上空から見て呆然とした。

 暗くなって行く中、必死にサツキを探し回って、カイラスへの街道寄りに4人の小僧と肩を寄り添うようにして座って居るのを見つけた時、エイラは心底ホッとした。


 ライクレット王国軍の占拠は2月に及び、食料や家財は根こそぎ奪われた。逃げ遅れたものは一人残らず奴隷として連れ去られた。彼らが去った後には、焼かれた死体と打ち壊された瓦礫が残るばかりだった。


 その間エイラはサツキと共にカイラス村のねぐらへ避難していた。養っていた孤児は一人逸れてしまったが、4人は何とか助け出し連れて行くことができた。

 カイラス村にも3000近い難民が来て、その住居や食料の手当てにエイラは奔走した。能力を隠すなどという余裕はなく、ねぐらはいつしか[魔女の岩砦]と呼ばれるようになっていた。


 カイラスの舟が海に出ると、近くへ跳んだエイラが水の網で魚を掬い上げる。声をかけその下に舟が入ったところで魚を中へ落とす。2、3回もやると過積載気味の舟がふらふらと桟橋へ戻って行くので、少し移動して次の網を上げて行く。そうやって海を移動しながら2月の間、難民達の口を養った。

 波の荒い日は大岩の薄皮を剥ぐように、4メルほどの大きな半球形を切り出して、浮かせたドームを難民に引かせ簡易な住居として提供した。

 一月も経つと切り出しの精度が上がって、厚みは1セロもないくらいになったが、適当な大岩が近くにないと作れない。それでも50程並べて女子供、年寄りの雨露を凌ぐ屋根となった。


 人口500余りの小村が、この大人数を生き延びさせるべく奮闘できたのは、やはりエイラの存在が大きかったろう。


 ネントラーからライクレット王国軍が引き上げたと聞いて、サツキと共に跳んで店のあった辺りを見て回った。

 見事に何も無かった。家は引き倒され焼かれていた。わずかに加工前の岩が残るばかり。

 他人の町へ土足で攻め入って、ここまでするのかと唖然とするような光景だった。

 ここだけではない。上空へ跳んで町を見渡せば建っている家など一軒も無かった。庁舎のあった辺りなどは、まだ煙が立ち込め燻っていた。



 サツキに戻ろうと言われて肩を落としたままカイラス村へ戻って、見てきた光景をエイラは伝えた。


 700人に近い人達が戻って再建したいと言い出した。エイクラスは畑の開墾や、海沿いの近隣数ヶ村からも物資の供給を受ける態勢を作って世話を焼いていたが、厄介者としか言えない彼らを止めることはなかった。

 難民が減って村の不満を多少でも緩和できるなら仕事は減らないにしても、いや、ネントラーへの食料供給でむしろ増えるのだが歓迎した。


 エイラは海での漁にさらに3月協力した。漁は沖まで出るようになって波の穏やかな日は忙しい。舟は15艘に増えていたが、それでも往復に時間が掛かり十分とは言えない。今では重さが100キルに近くても跳べるようになった転移で、舟への積込みの合間に加工場まで往復して頑張った。


 岩の切り出しも更に精度が上がり、最初作った石のドームの皮を剥くように増やすこともできるようになっていた。


 周辺の森はとうに丸裸になっていて、今後の畑や雨のことを考えると頭が痛い。

 エイクラスは難民を使って木の苗も荒地で育てさせ始めていたけど、森の回復には何十年もかかるだろう。


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