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10 新商品、岩食器を作るエイラ

ここまで:ネントラーでの行商はまずまずの成功だった。

次の仕入れに間を空けるがエイラは岩を加工した食器を思いついた。

        登場人物


 エイラ 孤児 13歳(推定)


 サツキ 孤児 11歳(推定)


 サミエラ  カイラス村 村長の妻


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    10 新商品、岩食器を作るエイラ


「お姉ちゃん、おはよー。お姉ちゃん、おはよー、起きてー。お姉ちゃん、おはよー、起きててばー。起きてー!!」

「わわっ!なーに?何が起きた?」

「やっと起きた。戸を開けて!早く!」

「あ、はい」


 真っ暗い中から外に飛び、眩しさに目を薄くしながら戸を開けて、どうしたのと聞こうとした。サツキがエイラを押し退けると、階段の狭さなどものともせずに下まで降りて、物陰にしゃがんだ。

 あ、おしっこね。そう言えば(かわや・トイレ)、作ってなかったね。そこまで考えた時、エイラの背筋をブルブルっと駆け上がるものがあった。尿意だ。

 わっ。やば!

 慌てて下へ跳んでサツキの隣にしゃがむ。

 ふう!


 ここもしばらく利用するなら厠くらいは必要だよね。海の中にぽちゃんと落ちると掃除が楽なんだけど、どうしようか。

 良さそうな場所がないかと岩屋の周囲を転移で見てまわる。3メル近い厚みで海に突き出たゴツゴツの岩の壁があった。


 ふうん?この辺から、下に落ちるように大きめに縦溝を抉って、その下に海水が抜けるように穴を開けたらお掃除要らずでいい感じ?小部屋は海面から5メルくらい浮かせて作れば嵐でも使えるよね?

 できれば外を通らずに行きたいけど、ねぐらに別の穴が繋がってるのも嫌だし、外通路でいいか。そうなる小部屋はこの辺からくり抜くとして、ねぐらの入り口脇からもう一本廊下を抜かないといけないかな。

 このつなぎのとこは、長い窓みたいに開けておけば明るいし面白いかも。岩が出しやすいってのが一番だけど。

 小部屋はねぐらと同じ高さにしちゃおうか。


 一番心配な外の縦溝から抜いてみよう。抜いた途端に崩れたりしたら困るしね。ここで問題は抜いた岩の始末なんだよ。切って風で押し出して浮かせるまでは、相当大きくてもできるんだけど。

 海の上だからね。うんと長いロープがあれば岸から引けるかなあ?あ、でもいちいちロープを渡すのが大変そう。

 小さく抜いて転移でもいいかもだけど、回数が多くなるとそれはそれで……


 一回高く上げて作業場からサツキに引いてもらおうか?それならあたしがロープを投げ渡せるし。

 ようし、上から順に抜いていくぞ!幅は50セロもあればいいでしょ。


 高さ8メル分の岩を抜くのに、お昼前びっしりかかった。

 水の中が苦労したよ。向こうへ突き抜いて切るのはできたけど、そこから動かない。風も水も間に跳ばすんだけどって、そう言えば奥に硬い壁がないから、間って無いんだね?

 難しいもんだね。奥を輪切りに切って間に水を跳ばすと上手く抜けてくれた。残りは細切れに切って海に散らした。でもこれで(かわや)の真下を海水が流れる。


 お昼は昨日おまけでもらった3キルの干し肉を作業場で炙ってみた。これはやめられないよ。甘みのこんな強い肉って初めてだ。

 雨が降っててもこんなあったかい肉や魚を食べたいね。廊下の途中に火を使える(かまど)を作っちゃおうか?仕事が増えちゃうけど、快適な生活のためだし。


 午後も延々と岩の切り出しは続く。途中でサツキに頼まれて魚を捕ったくらい。おかげで夕飯の焼いた切り身が美味しかった。

 厠の完成までにはもう1日かかった。竃の煙突をどうするか考えないとね。


 天気はいいので今日は朝から森に行って(たきぎ)採り。竃の脇に薪を積む棚を作ったので、雨が降らないうちにできるだけ集めておきたい。

 そう言えば木ってあたしの圧縮で切れるんだろうか?ちょっと細めの木でやってみるとあっさり切れた。

 そのまま廊下に転移で持っていって良さげな長さで切り刻む。付いてた葉っぱもカゴに詰めて、廊下に作った窪みに押し込む。乾けば焚き付けくらいには使えるだろう。

 生木を積む棚も必要になった。廊下の片面はびっしりと(たきぎ)置き場だ。崩れないか心配になる程なので、何本か蔦を横に張ってみた。


「お姉ちゃん。ここにずっと住む気なの?」

「いやそんなつもりはないよ?」

「この薪って何年分?」


「ええっとー?欲しい時にいつでもここから持っていけばいいし?」

「むむむ。あってもいいのかー。やり込めてやろうと思ったのに」


「へへー。でもそろそろ村に行って来るかな?次の注文してこないと」

「この間の魚を受け取ってからまだ6日だよ?早過ぎない?」

「まあそうだけど、倉庫からいっぺんに200キル持ち出してるからね。今更でしょ?サツキも行く?」

「うん。お土産に干し肉を持っていくんでしょ?」

「ああそうだった。5キルずつ残してあとは持っていこうか」


 たった6日だけど久しぶりな感じがするね。村の風景が懐かしい。村長の家が見えてきた。村の人とはあまり関わっていないから、他所者が来たって感じのちょっと痛い視線。


 勝手知ったる他人の家で炊事場へ回る。


「こんにちはー。また来たよ」

「あら、エイラちゃん、サツキちゃん。よく来たねえ、元気だった?あれからみんな目の色変えて魚を捕ってるよ。加工の方も大変さ。引退した爺さん婆さんまで引っ張り出してね。あたしの方も昼飯は出さなきゃいけないからね。忙しいったらないんだよ」


 相変わらずの立板に水で喋るサミエラさん。


「今日はお土産を持ってきたよ。干し肉。軽く炙るだけで美味しいよ」


 話し声が聞こえたのか村長が廊下をやって来た。


「早かったな。元気そうだな」


 元気か心配されるのは、あたしが1日寝込んだからだね。

「うん、元気だよ。こんどは400キル持っていきたいんだ。どうだろう?」

「今できている分は150位だ。4日待て。400揃えてやる。だがこんな調子で運ばれたら、追いつかんぞ。そうだな、漁にも依るがひと月に800キルで一杯だな」

「そっか。じゃあそれでお願い。お土産があるんだけど、これどうかな?」


 そう言ってエイラが干し肉をカゴから取り出す。ふた山で70キルだ。キル当たり250シルで仕入れたお肉、いくらになるかな?


「ほう。干し肉か。これはかなりいい肉だな。高かっただろう」

「買値は2万だったよ」

「そうか。そのくらいは言うだろう。ワシがネントラーからこの村まで運べば最低でもキル当たり400シル。道中、何かあれば、無い方が少ないのだが値は上がる。と言っても600が限度か」

「ふうん?あたし達は特に何もなかったからね。400なら買ってくれるの?」

「そうか。ではそれで。28000シルだな」

「じゃあ4日経ったらまた来るね」

「あら、泊まるところは大丈夫なの?お昼くらいならあたしが作るよ?」

「うん、ありがとう。でも大丈夫」


 歩いて来たんだから、出ていくところも見せておかないと。サツキと2人で北に向かって来た道を戻る。エイラは周囲に人が居なくなるとねぐらに転移した。


 4日の時間ができてしまった。売るものがないので岩の食器を作ってみよう。

 この間と同じように、20セロの円柱から薄い板を切り出して、曲げていくところをサツキに見せた。


「へー。こんなふうに作ってたんだ。これ縁だけ上に向けた方が平が多くて使い良くない?」

「ああ。そうかもね、やってみるよ」


 20枚の薄切り円盤の外側に印をぐるっと描いて、その外側だけ片面圧縮で丸めた。


「もうちょっと強くできる?」

「これならいいか?」

「うーん、もうちょっと」

「こう?」

「こんなものかなー?」


 端が1セロちょっと持ち上がったところで

サツキのお墨付きが出たので、残りも同じくらいに丸めていった。重ねてみると丸くなった厚みの分、浮き上がって座りが悪い。


「この縁だけ斜めに伸ばせない?」

「伸ばすってのはやったことないなあ。裏側を縮めてみるよ」


 反った幅の半分にしるしを描いて外側に片面圧縮をかけてみる。反りが伸びたように見える。重ねてみるとさっきよりは座りがいい。


 ここで分かって来たのは、同じような圧縮の渦でも潰すように全体を圧縮するのと、分け入るように両側に潰して行って切ってしまう圧縮、全体を潰さず部分的に縮めてしまう3種類があると言うことだ。


 でも伸ばすって言うのはできたらどうなるんだろ?どうすれば伸びるの?


「お皿の大きさをいろいろ作りたいね。10セロ、15セロ、あとは30セロ?」

「おんなじでいいなら作れそうだね」


 4日の待ち時間の間、2人であーでもないこーでもないと、お皿ばかり量産して4種類、300枚ずつを揃えた。

 薄い石の器は表面がツルッとして、陽の光に翳すと色んな鉱物の色が透けて見える。ここの岩は特に含んでる色が多いんだ。

 たくさん作ったので反り具合も同じようにできるようになったよ。慣れるとこんなものなのかな?


 もちろんそればっかりじゃなくって、ネントラー以外の内陸の町や村に偵察に行った。ネントラーだけで400キルの干し魚を売り切れるとは思ってないし、たくさん出回ると安く買い叩かれるって聞いたからね。

 ついでにご飯屋さんや屋台も回っていろいろ買って来て食べたよ。


 あとは狩りの話があった。この間から練習してた3セロの薄板跳ばしが、10メルを超えたんだ。

 それで新鮮なお肉を何か狩ってみたくて一人で森へ跳んでみた。ふらふらと森の枝の下を跳び回って、この間逃したウサギを見つけた。毛皮の色はこっちのがちょっと濃いんだけどね。


 よく見える位置に跳んで薄板を跳ばすと狙った通り首に刺さった。それでパッタリ倒れたウサギを持ってねぐらに跳んだんだ。

 サツキと2人で毛皮を剥いで内臓を引き出す。抜いた内臓は海水でよく洗ってから焼いて食べた。調味料もいくつか買ってきたから、あれこれ試して楽しかった。お肉も2人の1食分としては十分だった。

 また捕まえて食べたいね。


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