3話 伝記と言い伝え①
(綺麗な人だ…)
顔を合わせた時1番最初にそう思い浮かんだ。整った顔立ちをしていて、全てを見通すような透き通った青い目に、肩下まで伸びているストレートの金髪、洗練された佇まい、その全てがこの女性を表現しているのだと思った。
初対面の相手にこんなことを思われるのは不快かもしれないが仕方がない、とでも言い訳をしておこうと思う。だって地球にいた頃は、あまり他人に興味がなかったと言えばそれまでだか、自分の身の回りの女性と言えば母親ぐらいだ。学校に言っても別に誰かと話す訳でもない。そんな生活を送って来て、突然こんな綺麗な人を前にしたらそう思ってしまっても仕方ないだろう?
そんな言い訳を頭の中でしていると…
「また変わった身なりをした者だな?中佐、この者を何処で見つけて来た?」
彼女の目線は自分の斜め後ろにいる人物の方を向いて話し出していた。
「え?中佐!?」
あまりの驚きに思ったことをそのまま口に出してしまった。あまり軍の位には詳しくないけど、結構高い気がする。たしかに只者では無い雰囲気を醸し出していたけど、まさか中佐だとは思わなかった。だって見えない…
「なにもそんなに驚かなくても良いだろうに…まぁたしかに自己紹介はしていなかったが…そういえば青年、あんたの名前もまだ聞いちゃいないな?」
「あ、確かに…じゃなくて無闇に名前は教えるものじゃないだろ」
「今はそんなことを言っている場合ではないと思うが?なんたって今、青年の前におられるのはこの要塞のトップなんだからな。そんな方に名前も名乗らず、対等に話そうなんて、ふざけているにも程がある」
今までとは違った雰囲気で語りかけられ圧倒されてしまった。常識的に考えても目上の人と話す時、社会人は自分から名刺を渡し、先に名乗るだろうし今の対応はまずかったと反省する。
「失礼しました。ぼ…私は鳴瀬彼方と言います。挨拶が遅くなり、申し訳ありません。」
こんなこと滅多にやらないので、ぎこちなくなってしまったが気にしない。
「いいや、問題ない。突然こんなところに連れてこられて混乱していたのだろう。そんなに思い悩むことは無いから大丈夫だ。それにしても珍しい名前なのだな。」
将は軽く微笑み優しい顔でそう言うと、言葉を続けた。
「それで中佐、この青年は何処で?」
改めて質問を投げかけられた副将は、今までとは別人のように真面目な顔をして答えていた。
「通報のあった噴水の近くで身柄を確保致しました。特に危険なものを持っているわけでも無さそうだし、少し気になることもあったのでこちらにお連れしました。」
「なるほどな…それで気になることとは?」
そう呟きながら、右手を自分の顎に動かし少し考え込むような姿勢で質問を投げかけていた。
「これは本人に聞くのが1番だと思いますが…青年、異世界からやってきたのは本当か?」
「あ、はい。そうです。地球というところから来ました。」
いつか聞かれるだろうと思い、考えていた言葉をそのまま口にした。
「地球…初めて聞く名前の星だな。だか、それは今はしなくても話だ。それよりも大事なのは青年…いや彼方、貴殿が『異世界からやって来た者』ということだ。」
「それはどういう…?」
あまりにも簡単に受け入れてもら得たことにびっくりした。もっと色々説明しないといけないと思って色んなことを考えていたのに、完全に無駄となった。だけど、異世界人の何が問題なんだろうか。。
「それはだな…いや、先に自己紹介といこう。ここまで話してまだ名も名乗っていなかったな。では改めて、カペラ王国軍所属シルヴァ・タルディ将軍だ。今はコルディス要塞を任されている。よろしく頼む。」
(カペラ王国というのか。覚えておう)
そう自己紹介を終えると、右手を自分の前に伸ばし、握手をする姿勢をとった将軍に答えるためこちらも右手を伸ばす。
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
そう短く、挨拶を終えると後ろから右肩を軽く捕まれた。
「次は私の番だな!私はカペラ王国所属ガルディ・バルベット中佐だ!今は少将の補佐として、この要塞を軸に国を守っている!青年よろしく頼むぞ」
そう元気よく挨拶を述べた中佐は、ゆっくり歩き出し僕の横を抜けて将軍と僕と三角形になるような立ち位置に着き、後ろで手を組んで休めの姿勢で立っている。あれが本来の立ち位置なのだろう。
「よし、各自自己紹介も終えたな。では、改めて先程の質問に答えよう。この国…いや、この星にはある言い伝えがある。それは伝道師曰く『この世に《災厄》降臨せし時、導きにより《星を渡りし者》現る。この者により、退けること叶うならば永劫の平和が訪れるだろう…』と言われているんだよ?この意味分かるかい?」
「はい、なんとなくですが…でもそれで異世界人と絶対関係があるって言えないと思うんですけど…」
「確かにそうは伝えられていないが、この話は君も無視できない内容だろう。今から300年ほど前の話だ。その昔、『厄龍』と呼ばれる災厄の獣が現れたんだ。それは突然だったと言われている。この時、この星に住むモノではまるで歯が立たず、一方的に破壊と殺戮を繰り返し、気がついた時には世界の9割が血の色に染っていたという…」
「それは…なんとも…でも良く倒すことが出来ましたね?あ、もしかして…!」
そこまで言って初めて気がついた。というか、感が悪すぎるだけだが。
「そうだ。ここで異世界人が出てくる。先程の言い伝えは覚えているか?」
「はい、覚えています。」
「よし、では話の続きだが当時のこの星には『選定者』と呼ばれる人達がいた。そのもの達はとても昔から生きているらしく、年齢は分からなかったらしい。」
なんかすごいきな臭い話になってきた気がする…というかこれから先の話を聞いたら引き返せないんじゃ……あ、やばいわ…
そんなことを考えている間にもどんどん話は進んでいく。
「だか、不死身ではなかったらしい。厄龍の被害で相当の人数が亡くなり、最後には1人だけが生き残ったらしい。」
「らしい…?ですか?」
「あぁそうだ。今話している話は伝記として書物に記されていることの一部に過ぎない。それに時々破られていたり、見えないように塗り潰されたりしていて、憶測で語られているようなものなんだ。だか、まだ見つかっていない過去の書物もあるという噂もあって、それを探したり、魔獣を討伐したりする冒険者と呼ばれるもの達もいるんだ。」
「へぇ〜冒険者かぁ…それって僕でもなれますか!?」
やっと異世界らしくなってきた!とテンションを上げていると中佐が答えてくれた。
「おう、なれるぞ。少し行ったところにある冒険者ギルドで冒険者登録をすればな。それに異世界人のお前さんの能力も見てみたいしな!」
「ほんとですか!?やった…!」
能力…?もしかして異世界無双とか出来ちゃうんじゃね???ヒャッハー!!ヽ(‘ ∇‘ )ノなどと阿呆なことを考えていると少将の方から咳払いが聞こえた。やっちまった…。
「そろそろ話を戻してもいいだろうか…?」
少し困惑している様子でこちらを伺っている。
「まぁいい。その話は後でこの街のことを話しながら説明してやるから、な?」
「すいません。お願いします。」
時に厳しく、優しい人だな、などと考えている裏で中佐がビクついているのは見なかったことにしておく。
「それでだが、『選定者』達はとある儀式場を用いて…異世界人?を呼び出したらしい。あとは最初の方に説明した通りだ。その異世界人と3人の当代の実力者達よって災厄の獣は駆逐され、平和を取り戻したそうだ。だか、聞いてわかる通り星はめちゃくちゃだ。そこで立ち上がったのが異世界人だ。」
話が難しくて、頭がこんがらがってきた。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。すると、1つの疑問が思い浮かんだ。
「あの…もしかして『選定者』が異世界人を呼び出したかどうかは書かれていなかった…んですか?」
「なぜそう思う?」
これは試されているのだろうか?拳を握りしめ、質問に答えることを決意する。
「異世界人と言った時、疑問形でしたよね?あと、「らしい」とも答えていました。さっき破られてたり、読めなくしてあるともてんだから、その部分がこのどちらかに当てはまるのかなと考えたんですけど、どうです?」
「ふっ…あぁその通りだ。この部分は塗り潰され読めなくされていた。だが、異世界人が来たことは明確に記されていたため、1番確立の高い『選定者』がと言い伝えられているんだ。」
「そーゆーことだったのか…それで最初に異世界人がいるのはマズいと…」
ここで初めて何故自分がいるとダメなのか理解出来た。異世界人がいる=災厄の獣が出現する可能性が高い…てか、する。から慌てていたのか…
「まだ終わりじゃないぞ?青年…いや彼方。
何かここまで聞いて疑問に思うことは無いか?」