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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巻き戻り令嬢は本当に何もしないけど、幸せになれるでしょうか。

 首の肉を切る瞬間の音が耳から離れない。


 あらゆる事が面倒くさいから省略するね。

 処刑されて巻き戻った。

 言いたいことはただ一つ。


 どうして斧で首を切られてから巻き戻るんだろう。


 巻き戻る何か力があるんだったら、死ぬ直前の痛い思いをする前でいいのに。

 結構痛かったし、死ぬ間際の恐怖が残っている。


 古い書物にはたまに神によって引き起こされる巻き戻りの現象が出てくる。

 が、まさか自分に起こるとは思ってもいなかった。


「お嬢様、朝食の準備ができています」


 部屋の外から声がかかった。

 鏡の前での身支度はジャストタイミングで終わっている。

 ウチの使用人は優秀だ。

 鏡の中の私は多分10歳前後、妙におめかしさせられている。

 ……嫌な予感がする。


 下の食堂に降りていくと家族みんなが揃っている。

 全然仲良くない家族だから何も感じない。


 朝食を味わって食べ終わると、いつものように紅茶と新聞が運ばれてくる。

 なんとなくそんな気はしていたけれど、新聞の日付を確認すると、


 氷歴アイステリアれき794年3月15日


 王太子との見合いの日だった。

 私は8歳だった。


 そう、あまり考えたくないから巻き戻りの理由を考えないようにしていた。

 私は王太子に婚約破棄されて16歳の日に処刑された。

 それが、見合いの日に戻るなんて。

 まさか、あいつと……。


 +++


「貴様が顔も家柄的にもちょうどいい。喜べ! 貴様を選んでやる!」


 金髪に緑の目の王子が何か言ってる。

 顔を合わせた途端これ。


「光栄でございます。レイニー・ド・フォレストでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」


「ふん!」


 鼻で笑われた。

 にっこり笑顔で頭を下げたのに笑われた。


 こいつが巻き戻りの原因か?

 アイステリア王家と私の処刑になんの関係が?

 まさか処刑を回避しなきゃいけないとか無いよね?

 こいつとうまくやって婚約破棄回避とか……。


 いや、無理無理。

 こいつ女遊び激しいし、人の言うこと聞かないし、私には荷が重過ぎる。


 というか、責任取ってこいつの親とかも一緒に巻き戻りしてないかな。

 赤の他人の私より巻き戻るべきなのは親じゃない?


 親だよ、親。

 ねぇ、神様。


 +++


 王太子の親が巻き戻って製造からやり直せ。


 ……と、そんな風に思っていた時もありました。


 何回目かの巻き戻り中です。

 多分、私だけ。


 8歳から16歳までを何回も繰り返してる。


 処刑回避は諦めてるし、処刑の痛みから逃れる為に2回目からは強い痛み止めを飲んでる。

 馬鹿正直に痛みを受け止める必要はない。

 ただ、首を切られる時の音が嫌でたまらない。


 それはともかく、何度も王太子にいちゃもんつけられて死ぬ。


 それまでの人生を私は趣味の読書で過ごしてる。

 え? 王太子妃教育?

 さすがに1回目の人生でほとんど終えてる。

 巻き戻りなんてあると思わないし、真剣に生きてたんだから。


 フォレスト家は結構金持ちの侯爵家だ。

 本は読み放題だし、美味しいもの食べ放題だ。

 平民が出版した本がとにかく大好きで、心の中の口調はどんどん悪くなっていってる。


 16歳の処刑さえ除けば、この生活も悪くない。


 私も考えなしにぐーたらしてる訳ではない。

 一応、何故巻き戻りが起こったのか王家に関する本を読んで考察した。


 アイステリア王家は昔々滅びかけた。

 というか、国民も全滅した。隣国が仕掛けた戦争で。

 王女1人が他の国への留学で何故か生き残った。

 そこへ都合良く異世界からの勇者が助けにきて、王女の心を癒し、無事2人でアイステリア国を再建した。


 うん、勇者が助けに来るのが遅い。

 しかし、勇者の血が入った事により、アイステリア王家は神の祝福を得たらしい。

 アイステリア王家がピンチに陥るたびに奇跡の力が起きるらしい。


 これだな。神の奇跡の力だ。

 ただの人にここまでの時間魔法は不可能だ。


 最近アイステリア王家は王太子の散財で金がないらしい。もちろん、王家に金がないなんて大っぴらにはなってないけれど。


 あと、俺様系の王太子しかいないから、王家の権威が落ちてきているそうだ。

 ここら辺の情報は平民が出版してすぐに発禁になった本にうっすらと書いてあった。

 正確には平民が出版した建前のどこかの貴族が書いたと思われるもの。

 再び周辺国に狙われるかもしれない、とぼかして書いてあった。

 アイステリア王国は豊富な鉱山があるしねぇ。


 以上の問題が私と王太子が結婚する事で解決できるとは思えない。

 グローバルすぎるよね。


 けれど、神はタイミングからして、解決できると思っているのだろう。

 だってスタートが「私と王太子の見合い」リセットが「私の処刑」だし。


 神は何を考えているのだろう。


 +++


 たぶん30回目から40回目ぐらいの転生。

 首を切られすぎて分からない。

 こんなに首切られてる人居ないと思うんだよね。



「お前が悪い! 何故俺を立てない。俺を優先させればうまく行くのだから分かったな!」


 通算何百回目かの殿下とのお茶会。

 突然殿下の様子が変わった。

 突然お茶会中に立ち上がり、突然怒鳴られた。

 いきなり何のことだろう。

『何故』なんて初めて言われた。


「心得ております。殿下を最優先致します。申し訳ございません」


 よく分からなかったが、私も立ち上がり頭を下げた。

 こう言っておけば殿下は落ち着く。


「ふん!」


 殿下が鼻で笑った気配がした。

 良かった良かった。

 いつもと違ったから焦ったけど、操りやすくて助かる。

 殿下に合わせるのは歯磨きみたいなものだ。

 うまく合わせれば私の自由時間が増える。

 合わせれば合わせるほど、本を読める。


 殿下の矯正? できるわけがない。

 たかだか侯爵令嬢にできない。


 殿下のいちゃもんは溢れるくらいある。

 私が陰謀を起こしてるだの、殿下の女遊びを邪魔してお気に入りの女を害しただの、はたまた殿下の周りの男を誘惑しただの。色々だ。


 神に言いたい。

 私の巻き戻りなんて無意味だ。

 1回目の真剣さは失われたんだ。


 1回目に、私は一生懸命殿下に合わせようと努力して、痛い思いをして死んだ。


 侯爵家で産まれたプライドとかわずかにあった家族への情とか王妃への意気込みとか王家への忠誠とか。

 全部全部、一回目で死んだ。

 それが全てだ。


 それ以降は死んだ後の世界だ。

 私がずっと美味しいものを食べて本を読む優しい世界が続いている。

 世界は広い。

 本は無限のようにある。ある程度読み尽くしたら、侯爵家の金を使って、目ぼしい人に新しい話を書かせている。楽しい。



 そして、今回は最期に牢屋で毒杯を賜って死んだ。

 斧で首切りを何故か回避した。

 苦しまないで死んだからあらかじめ飲んでおいた痛み止めは無駄だった。


 +++


「お前が悪い! お前が悪い!」


 次の巻き戻りお見合いでは、殿下にいきなり叫ばれた。

 周りの者達は何事かと目を見開いている。


「申し訳ございません」


 私はとにかく頭を下げた。


「お前が悪いのだから何とかしろ!」

「申し訳ございません」


 側から見たら異様な光景だろう。

 8歳の子供が片方怒鳴って片方平謝りしている。


 用意されているお茶もそっちのけで、


「お前なんか嫌いだ」

 とか

「お前が悪いのに俺がなんで苦労しなければならない」

 とか色々言われた。


 見合いで罵倒されたのは初めてだ。

 もしかしてコイツつまり殿下も巻き戻るようになったのだろうか。


 私は何となくそう思った。

 しかし、どうでも良い。


 何故ならば、


「王太子殿下と婚約することになった」


 家に帰ると父親からそう告げられた。


「承りました」


 私はそう言って頭を下げる。

 何十回も巻き戻ってると理不尽なことに頭を下げるのなんて慣れたものだ。

 殿下と私の婚約は王家と侯爵家で決められたもので、アイツ(殿下)がどうこうできないし私もどうこうできない。


 神はだから分かってない。

 親を巻き戻りさせるべきなんだ。


 その後何回か巻き戻りは続いた。

 私とおそらくアイツ(殿下)が巻き戻った。


 スタートの見合いの時点でいきなり殿下に殴られることもあったので、事前に痛み止めを飲むようになった。

 それでも強行される婚約は正気の沙汰ではないけれど、個人なんてそんなものだ。

 最後は全て私が悪かった事になり、処刑される。


 本を読んでると分かる。

 個人の意思なんて、王家の存続に比べたら小さいもの。

 アイツの生贄になるのが私だっただけだ。


 何回かの巻き戻りが更に続くと、王太子は精神が壊れたのかほとんど何も喋らなくなった。

 そして、王太子が何も喋らなくなった世界では、その原因が何故か私のせいになって処刑された。

 久しぶりに首切りだ。

 斧で首をチョンだ。

 最近は毒杯ばかりだったから油断して痛み止めを飲まなかった。

 やっぱり斧で首切りは本気で痛かった。


 +++


 次の何十回目かの巻き戻りは憂鬱だった。

 前回で久しぶりにすごい痛い目をみたからだ。


 そんな憂鬱な私に反して今回の巻き戻りは様子が違った。

 とうとう親が巻き戻りしたみたいだった。


 どうして分かったかと言うと、8歳になった時に修道院に入れられたからだ。

 お母様が、


「何も聞かずに修道院へ行きなさい」

「承りました」


 というような感じだ。


 しかし、私が修道院で16歳になったときに、アイステリア王国と周辺国の戦争が始まった。

 そこかしこが火の海氷の海(魔法の産物だ)となり、私は普通に火と氷の魔法を同時に受けて死んだ。

 今までで1番器用な死に方をしたと思う。

 もちろんこんな事もあろうかと、隠していた痛み止めを飲んでいたので苦しくはなかった。


 そしてその後何回かの巻き戻りは、私の親と殿下の親(王太子の親だから王様)が試行錯誤してたみたいだ。

 私と殿下が見合いをする予定の日に巻き戻っても、見合いも婚約もなかった。

 即修道院だ。

 私を抜きにして考えよう、と思ったらしい。


 しかし、依然として国は上手くいかず戦争になったり、貴族によるクーデターが発生したりして、私は処刑以外の面白い死に方をした。


 ああ、私の親と殿下の親の精神は何回目かの巻き戻りでも壊れていなかったが、殿下は完全に精神が壊れているのもまずかった。


 何回目かの巻き戻りで、精神が壊れた殿下が私の居る修道院に押し入り刺し殺してきた。

 いきなりだったから、痛み止めを飲めてなかったし、初めて殿下自ら殺してきて驚いた。

 刺された所が痛いし熱い。

 もうやだ。


「お前が悪い!」


 完全に焦点のあってない目でそう告げる殿下に、


「申し訳ございません」


 と私は反射で謝った。


 死にゆく私の頭に、


『やあ、ごめんごめん。ようやく壊れた殿下の代わりが手配ついたから対応するよ。巻き戻りもうまくいかない時はあるんだなって分かった。なかなか勇者との約束も大変だなぁ。子々孫々まで幸せに暮らしてほしい、とか難しいよ。ちょっと目を離すと滅亡しそうになるんだから……』


 と、声が響いた。



 ---

【ありがちな異世界転生または冗長なハッピーエンド】

 ---



 僕はディール・ド・アイステリアだ。


 ありがちだけど、異世界転生した。

 王太子になった。

 僕は前世に神様の手違いで階段から落ちて死んだ。

 お詫びに異世界で王子にしてくれると言われたのだ。


 それを思い出したのは、婚約者との見合いの日だった。


「貴様が顔も家柄的にもちょうどいい。喜べ! 貴様を選んでやる!」


 僕は何を言っているのだろう。

 あれ? 僕は神様に王子にしてもらえると聞いたけど、こんな俺様系王子は嫌だ。


 あ、相手の令嬢の目が死んだ。綺麗な紫色の目なのに。


 僕だって、やだ。こんな自分。


「光栄でございます。レイニー・ド・フォレストでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます」


 死んだ目で丁寧に頭を下げられた。

 結い上げられた栗色の髪が目の前に見える。


「あ、あの、ごめんなさい。僕、何言ってるんだろう。僕は、ディール・ド・アイステリア」


 早速謝ると、下げたままの頭が少し揺れた。


「顔を上げてください。こんなに綺麗な女の子に乱暴な事言ってごめんなさい」


 僕の言葉に、レイニーの頭がゆっくりと上がる。

 可愛らしいというよりは美人系の顔をしていた。

 貴族らしくなく、「信じられない」という表情をしている。


「いえ……」

「できるなら、これから仲良くしていきたいです。こちらこそ、よろしく。僕の事はディーと呼んでください」


 うーん、暴言の分は挽回できるだろうか?

 僕の焦った声に、レイニーがちょっと困った顔をして、


「……ディ、ディー様?」


 と紫の目を上目遣いにする。かわいい。


「婚約者になるんだから、『様』と『敬語』は無しにしようよ、ね? えっと君の事は……」

「レイ、と」

「レイちゃん、って呼んでいいかな?」

「……ん」


 レイちゃんが小さく頷いて、ほのかに頬が赤くなった。

 なんだかうまくやっていけそうだな。


 僕はその後、レイちゃんが読書家なのを聞いて本の話で盛り上がった。

 婚約者同士の顔合わせだけど、子供同士だし上出来だろう。


 +++


 ……やってられない。

 僕は石を投げた。


 レイちゃんとの見合いから、しばらくして僕はやさぐれた。


 今日も今日とて勉強だったけども、ずっと家庭教師の嫌味が止まない。

 早く王太子として成長しなければいけない事は分かっている。

 分かってはいるんだ。


 誰かといると余計に焦る。

 最近は勉強が終わると1人になりたくて、王宮の敷地の端っこに位置する泉に来ている。


「僕っている?」


 僕はまた石を泉に投げ入れた。

 泉の中央には、この世界の神とされる美青年の像が立っている。

 像には石は届かない。


「いらないと思う」


 孤独感が半端ない。

 それも誰かといると感じる孤独だ。

 少し離れて護衛や侍女が立っていても、孤独だなぁと思う。


 孤独感の原因は明確だ。


 僕は最近、何度も囁かれる貴族達の噂話を思い出していた。


「無能な王太子」

「婚約者のレイニー様がかわいそう」

「親と婚約者に担がれているだけ」

「国の人形」


 本当にその通りだった。

 何故か親と婚約者が妙に能力が高い。

 僕は8歳の年相応に勉強してるのだけど、親と婚約者ははるかに高みにいる。

 家庭教師が、「自分の教える能力が低いように思われてしまう」という事を遠回しに言う程度には、だ。

 前世の知識がそこそこあるはずの僕は何も役に立たない。

 ……何も。


「ディー様!」


 ……振り返ると、レイちゃんが居た。

 マナーギリギリの早歩きできたのか、うっすらと息が切れている。


 泉のほとりに敷物を敷いて座ってる僕を見て、


「お隣に……」


 と言ったので、


「もちろん。座って」


 と言って敷物の端によけた。

 レイちゃんはドレスのまま器用に腰を下ろした。


「私、言わなかったよね。私もディーと仲良くしていきたい」


 泉の方を向いたままレイちゃんがハッキリと言った。

 何をとは聞かなくても、見合いの日の事だと分かった。

 横顔がちょっと赤くなっている。


「ディーが見合いの日、嫌な事言った後謝ってくれた事。私の事綺麗って言ってくれた事。仲良くしていきたいと言ってくれた事。同じ趣味だって事。ディーがかっこよくて優しくて安心したの」

「そんな……ちが」

「いえ、聞いて。私たちまだ8歳で、これから長い間一緒にやって行くし大事な事よ。それって何より大事で得難いものだわ。もうちょっと待ってね、貴族なんて黙らしちゃうから」


 レイちゃんは僕の孤独感なんてとっくにお見通しだったのだ。

 レイちゃんが握り拳を作る。

 貴族の令嬢としては思い切った発言だ。

 レイちゃんが僕を元気づけようとしてあえてこういう風に言ってくれたのだと思った。

 男としては少し情けないのかもしれないが、心がじんわり温かくなってくる。


「いや、あの。僕が気にしすぎたよ。色々ごめん」


 僕が軽く謝ると、


「今度から泉で石をお投げになるときには私もお連れくださいませ」


 とレイちゃんがツンと顎をそらした。


「うん」


 うなずいて、そっとレイちゃんの指の先を握る。

 レイちゃんは驚いたように体を震わせた後、むしろ手をギュッと繋いできた。

 うわぁ、とてもドキドキする。

 女の子とこんな真剣に手を繋いだのは初めてだ。


『いやー、良かった良かった。ハッピーエンド! ここまで面倒くさかったなぁ。ま、勇者との約束だし仕方ないよね。勇者は『子孫たちが幸せになりますように』って全くの善意キラキラで願ったんだろうけど、幸せにならなきゃいけないって呪いだよね。でも、仕方ない。幸せの為だもんね。これでアイステリアも当分ばっちりだろう!』


 僕たちは弾かれたように立ち上がった。

 美青年の像が光ってどこからか声を出していた。

 周りの侍女や護衛も走り寄ってこようとしていたが、見えない壁に弾かれていた。

 僕はレイちゃんを守るように、軽く抱き寄せる。

 さすがのレイちゃんも小刻みに震えていた。


『じゃあね! これからだいぶ人間界に干渉しすぎた罪で上司にケツしばかれてくるわ。巻き戻したりしなくて良いように、またうっかり不幸になったりしないでね!』


 像はそう訳のわからないことを言った後光らなくなった。

 侍女や護衛たちが駆け寄ってくる。

 僕たちはしばらく抱きしめ合っていた。


 結局、その後の調べでもなぜ像が喋ったのか、言っている事が何だったのか明確に分かる者はいなかった。


 +++


 後日、レイちゃんとのお茶会で、泉の像がしゃべった件について考察を聞いた。

 飽くまでも推測だけど、という前置きがついたが。


「あの像は巻き戻しって言ってたけど、小さい頃からよく見る夢なんだけどね。夢の中でずっと本を読んで、何回も勉強を繰り返していたの。何でなのかは分からない。王様と王妃様も不思議な噂を聞いた事があるわ。夢の中でずっと政治を繰り返してたって」


 レイちゃんがそこまで言って首を傾げる。


 巻き戻りか……前世ではライトノベルでよくある話だった。

 でも、巻き戻りでよくありがちな何回も巻き戻されて失敗した的な話ではないっぽい。

 読書と勉強を繰り返すと言うのも不思議な話だ。


 僕はそこまで聞いて自分の前世を考える。

 お詫びとしての王太子への異世界転生はなんだったんだろうか。


 8歳以前の記憶もあるし、前世の僕も王太子の僕も自分だという自覚はある。

 8歳以前も子供特有の駄々っ子さはあったように思うけど、まあ子供の範囲だ。

 実際、前世の記憶が蘇ってからも、泉での件みたいにやさぐれて周りの人をやきもきさせたし。

(もちろん、色々周りの人にはレイちゃんも含めて丁寧に謝ったし、レイちゃんと気持ちが通じてからは、不機嫌で人を振り回さないように気をつけている)


 僕の前世の記憶は話すべきだろうか?

 と言っても、ほとんどおぼろげで神様に王太子にしてもらった、というぐらいしか有益な情報はない。


「まあ、でも今が神様? から見て良い状態なら問題ないわ。ディーと一緒ならうまくやっていけるし、巻き戻りなんて必要ないよね」


 レイちゃんが神ってお尻叩かれたりするのね、って首を傾げながらもなんとか納得しようと頷いている。

 その様子はとっても可愛い。

 混乱してるトコに更に僕が曖昧な話をしても困らせるだけかもしれない。


 ありがちな異世界転生に感謝して、生きていこう。

 特に問題はないだろう。


「レイちゃん、大好きだよ」

「……ん」


 レイちゃんが真っ赤になって頷いた。

読んでくださってありがとうございました。

勝手ではございますが、下の星の色を変える等して評価してくださいますとモチベーション上がります。

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