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第十九章:Go Hard Or Go Home/02

『その先の信号を右折だ! そうしたら二つ目の交差点を左に曲がってくれ! そうすれば……奴の背中を捉えられるはずだ!』

「信じたわよ、ミリィ・レイス……!」

 ミリィの指示に従い、レイラはC7コルベットで夜明け前の街を突っ走る。

 彼女に指示通りに目の前の交差点を派手に横滑りしながら右に折れ、そのまま二つ目の交差点を……今度は左に滑り抜ける。

 巨大なマシーンの図体がぐらりと大きく揺れ、滑る後輪からはギャァァっと派手なスキール音と白煙を撒き散らし。アスファルトの路面に盛大なブラックマークを軌跡のように刻みながら、レイラの巧みなコントロールに制御されつつコルベットが交差点を滑り抜ける。

 そうしてド派手なドリフトで交差点を突破すれば、二人の視界に――フロント・ウィンドウの向こうに、確かに見覚えのあるフェラーリの機影が映っていた。

 エディ・フォーサイスの駆る、真っ赤なフェラーリ・812スーパーファストだ。

 確かに奴のマシーンは世界最高クラスの跳ね馬だ。並みの乗り手とマシーンでは、とてもじゃないが太刀打ちできないだろう。

 だが――――こちらのコルベットも伊達ではない。それに、ステアリングを握るのがレイラであれば……例え相手が伝説級の跳ね馬であろうと、対等以上に戦える――――!!

「派手に行くわよ! 憐、掴まってなさい!!」

「わ、分かりました……!!」

 覚悟を決めた憐がグッと身体を強張らせる中、レイラはアクセル・ペダルを床までズドンと踏み抜く。

 獰猛な唸り声を上げて、フルスロットルで加速する黄色いコルベット。前方のフェラーリとの距離は加速度的に縮まり……やがて二台の距離は、車一台分にも満たないほどに狭まっていた。

「もう追いついてくるなんて……セカンド、なんて奴だ……!!」

 バックミラーに映るコルベットと、それを駆るレイラの姿を目の当たりにして、フェラーリの運転席に収まるエディが激しく狼狽する。

 ――――正直、逃げ切れると思っていた。

 だが、現にこうしてレイラは追いついてきている。

 奴の腕前が凄まじいのか、それともマシーンのポテンシャルが凄まじいのか……きっと、そのどちらもだろう。バックミラー越しに見ていても分かる。レイラ・フェアフィールドは戦闘だけじゃない、車の扱いに関しても超一流の腕前を有しているのだと……!!

「追いついたわよ、エディ・フォーサイス!!」

「くっ……!」

 そうしていれば、すぐさまレイラのコルベットはエディの駆るフェラーリの隣に着き、並走状態に入った。

「まだ、私は負けたワケではないっ!!」

 隣を走るコルベットと、そのステアリングを握るレイラを一瞥しながら……エディは顔を強張らせ、フェラーリのステアリングを強く握り締める。

 そうすれば、エディは目の前の交差点を猛スピードで右に折れた。

 同時にレイラも、彼を追ってコルベットを右折させる。

 だが――――エディは内側、レイラは外側だ。

 エディの方も限界ギリギリの中でのコーナリングだった。そんな中で、ただでさえ不利な外側という位置にあるレイラが上手くコントロール出来るとは思えない。減速を強いることが出来るか、あわよくばガードレールに激突するか……。

 エディはそう思いながら、ニヤリとしてフェラーリを強引に曲げていた。

 だが――――次の瞬間、サイドミラーに信じられない光景が映る。

「馬鹿な……っ!?」

 フェラーリからほんの僅かに離れた位置、全く同じ場所に――――コルベットが、張り付いているのだ。

 それをサイドミラー越しに目の当たりにした瞬間、エディは自身の目を疑った。

 あの速度で曲がれば、まず間違いなくレイラのコルベットはガードレールに突き刺さるはずだったのだ。完全なオーヴァー・スピードでのコーナリング、正直エディの方も冷や汗が出るぐらいに危なかった……そんな限界ギリギリでのコーナリングだったはずだ。

 それなのに……それなのにレイラは、涼しい顔ですぐ傍に張り付いている。

 とんでもない速度で、彼女は強引にコルベットを曲げていたのだ。

 巧みなコントロールで車をミリ単位で制御し、派手に尻を出してドリフト状態に陥ったコルベットを、本当にギリギリのところで……あと五ミリもすればガードレールに激突してしまうといったところで制御し、そのまま上手く交差点を脱してみせたのだ。

 ――――常軌を逸したテクニック、と言わざるを得ない。

 それは、レイラだから出来る芸当。周り全ての状況が肌で分かる、人間離れした感覚の持ち主である彼女にだから出来る……極限まで研ぎ澄ませた、究極のコーナリングだった。

「この……っ!」

 すぐさま再び真横を並走するコルベットを睨み付けながら、エディはヤケを起こした。

 ステアリングを大きく振るい、ガンっとフェラーリのボディをコルベットにぶつけたのだ。

「っ……!」

 激突の衝撃でコルベットの胴体が一瞬ブレるが、そこをレイラは上手く持ち直す。

「お返しよ……!」

 そうすれば、今度は逆に自分の方からフェラーリに体当たりを仕掛けた。

「うおおおおっ!?」

 左のフェンダーが大きく凹み、互いに衝突した左と右、それぞれのサイドミラーが吹っ飛んでいく。

 強い衝撃に揺さぶられたフェラーリを、エディは叫びながらどうにかコントロールして安定させる。

「やってくれたな……!」

 そうすれば、今度は更に自分の方からぶつかっていった。

 レイラとエディ、コルベットとフェラーリ。黄色と赤の二台はそれぞれ互いに車体同士をぶつけ合いながら、夜明け前の街を南方に向かって猛スピードで駆けていく。

 そんな熾烈な、文字通り火花を散らすぶつかり合いの中……コルベットは見るも無残な状態に変わり果てていた。

 右のドアはべっこべこに凹み、サイドミラーは吹き飛んで。それ以外の場所もひどく凹み、車体の至るところには擦った傷が出来てしまっている。

 だが、それはお互い様だ。フェラーリの方も似たような惨状を晒している。

 そうして、互いに互いのボディを傷だらけにし合いながら……レイラのコルベットとエディのフェラーリ、二台は激しいカーチェイスを繰り広げつつ……やがて港の方へ、海に面した港湾エリアの方へと向かっていく。

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