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第十六章:Payback Time/09

 ――――その頃、路地裏に停まった作戦車、トヨタ・クイックデリバリーのウォークスルーバンの中では。

「…………っ!」

 モニタ越しに、監視カメラの映像越しに状況を見守っていた憐は遂に我慢の限界を迎え、座っていたゲーミングチェアからバンッと立ち上がっていた。

「僕も、レイラのところに行きます……!」

 そうすれば、次に彼の口から飛び出してくるのは、ある意味で予想通りの言葉だった。

 我慢の限界だったのだ。このままレイラにだけを危険な目に遭わせて、自分だけが安全な場所で見守っているだけというのは。

 これが重要なポジションであることは理解している。後方から支援することもまた、立派な戦いであることは十分すぎるぐらいに分かっている。

 それでも……それでも、憐には耐えられなかったのだ。今まさに彼女が隣に居ないことが、今まさに彼女の隣に居られないことが。レイラが戦う中で、自分がその傍に居られないのが……久城憐には、どうしようもなく耐えられなかった。

「おい馬鹿、よしなって! 無茶だってのは分かるだろ!?」

 当然、そんな彼を鏑木は止めようとする。飛び出そうとした憐の肩を掴み、無茶だと言って彼を諭そうとする。

 だが憐はそんな鏑木の顔を真っ直ぐな瞳で見据えながら、大きな声で叫び返していた。

「分かってます! でも……無茶だとしても、僕は行きます! レイラが……レイラがそこで戦っているのなら、僕は!!」

 心からの、腹の底からの雄叫び。

 そんな憐の叫び声を聞き、憐の顔を、真っ直ぐな瞳の色を見て。鏑木は逡巡するように数秒沈黙した後……やれやれと肩を竦めながら、参ったような顔で彼にこう言った。

「ったく……お前さん、ホントに秋月の野郎にそっくりだな」

 と、至極参ったように……でも、何処か嬉しそうな顔で。

「おじさん、最初はお前さんのこと、単なる良いトコのお坊ちゃんだとしか思ってなかったんだがよ……いやあどうして、間違いねえよ。お前さんは間違いなく、あの秋月恭弥の……俺の親友(ダチ)の息子だよ」

「……鏑木さん」

「しゃーねえ、おじさんも腹ァ括るとすっかァ。ま……敵の大半はアイツら化け物二人組が平らげちまったし、残りはレナードの野郎が相手にしてる連中ぐらいだ。俺ら二人でも、どうにか突破できるだろうよ」

「鏑木さん……!」

 ぱぁっと顔を明るくする憐にニヤリと不敵な笑みを返しながら、腹を括った鏑木はそっと彼の肩を叩いてこう言う。

「負けたよ、お前の男気に。そうだよな、手前の女が必死こいて戦ってるってぇのに、自分だけ後ろで引っ込んでるなんざ男じゃねえよな」

「っ!? ど、どうしてそれを……っ!?」

 自分の好意を、レイラ・フェアフィールドに対しての特別な感情を、鏑木に見透かされていた。

 頬を赤くしてそれに戸惑う憐だったが、しかし鏑木はそんな彼に対し、今更かよと言った風に呆れた様子でこう返す。

「あぁ? ンなもん顔見りゃ分かるんだよ。ったく、お前もレイラも分かりやすくってしょうがねえ。顔に出過ぎだぜ?」

「っ……!!」

「へへっ、まあ照れるこたあねえさ。秋月もきっとあの世で喜んでるだろうぜ。手前の息子と愛弟子がくっ付いちまったんだもんな」

 顔を真っ赤にして(うつむ)く、照れる憐に鏑木はにひひ、と笑うと。傍に置いてあった自分用のショットガン――――古いウィンチェスター・M1897トレンチガンを掴み取り、それを担ぎながらクイックデリバリーの外に出る。

 そうすれば、振り向いた彼はウィンチェスターを肩に担ぎながら「行こうぜ、坊主」とニヤリとして憐に言う。

「…………はい!」

 憐は鏑木に深く頷き返し、羽織るパーカーのポケットに手を突っ込むと……先程レイラから受け取ったワルサーPPKを、父親の形見たる小型拳銃を握り締めた。

 小さなスライドを引き、初弾装填。細身で小さな銃把を華奢な左手でぎゅっと握り締め、そうして憐もまたクイックデリバリーの外に出ると、鏑木とともに真夜中の路地裏を歩き出す。

(待っててレイラ、すぐに僕が行くから。そして……終わらせよう、僕たち二人で)

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