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第十六章:Payback Time/07

「来たわよ!」

雁首(がんくび)揃えてやって来ましたね……!」

 それから十秒も経たない内に、レイラたちの前に五体のジャガーノートたちが現れていた。

 憐が報告した通り、真っ正面から堂々とだ。見た目は全く同じで、最初の奴と違う点があるとすれば……武装か。

 五体の内の一体はドイツ製のMG3機関銃を両手に二挺持ちしていて、三体はアメリカ製のM60E6機関銃を単体で所持。残る一体は両手に南アフリカの六連発グレネード・ランチャー、MGL‐140を担ぎ……背中にはフルオート・ショットガンのAA‐12を二挺背負っている。

 機関銃持ちの方は全てさっきのミニガンほどの威力は無いものの、どれも厄介な武器であることには変わらない。

 だが、問題は最後の一人だ。

 手にしているMGL‐140はリヴォルヴァー式の六連発グレネード・ランチャーで、さっきレイラが散々ブッ放していた強力な四〇ミリグレネード弾を、六発一気に撃ち放てる……と考えれば、どれだけ強力な武器かは分かるだろう。

 しかし……それよりも、問題は背中に背負ったAA‐12の方だ。

 これは先に述べた通りフルオート、つまり機関銃のように連続発射が出来るショットガンだ。

 広範囲に散らばる、ただでさえ厄介なダブルオー・バックショット散弾をアホみたいにバラ撒けるこれは……暴力的というよりも、最早これは暴力そのものの具現化だ。

 しかも、見ると奴が背負っているAA‐12には三二連発のドラムマガジンが装着されているようだ。

 つまりは、単純計算で三二×二の……六四発。それほどまでの大量の散弾を、一度にバラ撒けるということだ。

 これほど厄介なものはない。此処がビルの内部という閉所環境下であることを考えると、下手をすればミニガン以上に最悪な相手かも知れない……!!

「レナード!」

「分かっています……って!」

 だが、そんな強敵を前にしても二人は冷静だった。

 五体のジャガーノートが現れた瞬間、レイラの号令で二人はバッとその場から大きく飛ぶ。

 瞬間――――先頭に立っていたジャガーノートのMGL‐140が火を噴き、六発のグレネード弾が発射された。

 ポンッポンッと間抜けな音を響かせて、続けざまに放たれるグレネード弾。緩い弧を描いて飛んだ榴弾は、床面に激突して爆ぜ……爆発を巻き起こす。

 だが、飛んでいた二人は間一髪のところで難を逃れていた。

 グレネード弾の爆ぜる音が六回続けて響く中、二人はそのまま手近なオフィスの中へと転がり込む。

 そうして二人が一旦姿を隠すと、ジャガーノートたちは頷き合い。先頭の奴は弾切れのMGL‐140を投げ捨て、背中からAA‐12フルオート・ショットガンを取り出すと……五体で一気に、しかし別方向からレイラたちの隠れたオフィスへと侵入する。

 囲んで袋叩きにする算段だ。逃げ道を潰した上で、獲物を確実に追い込んで始末する……常套手段といえよう。

「さあ、始めるわよ……!!」

 そんな五体のジャガーノートが入り組んだオフィスに入り込んだ瞬間、レイラたちは動き出した。

 入ってきた一体、M60持ちのジャガーノートがオフィスに入ってきたのと同時に――扉のすぐ傍にかがんで身を潜めていたレイラが奇襲を仕掛けたのだ。

 ヌッと重い動きでオフィスに姿を現したジャガーノート、その側頭部に至近距離からベネリM4を突き付け、二発同時に発砲。太い銃口が火を噴くのと同時に、撃ち出された特殊徹甲スラッグ弾は……ジャガーノートの堅牢な防弾ヘルメットをいとも容易く突き破り、その向こうにあった頭蓋を粉々に吹き飛ばす。

 ――――まずは、一体。

 そうして一体を奇襲で仕留めると、レイラはバッと身を翻し。別の一体がM60機関銃で仕掛けてくる機銃掃射を、地面を転がって避けつつ……バッと膝立ちに起き上がりながら再びベネリM4を構え、ソイツ目掛けてブッ放す。

 今度は四発続けての射撃だ。ダンッダンッと重い銃声が四回続けて木霊すると、撃たれたジャガーノートは胸に三つ、頭にひとつの大穴を開け……膨大な量の真っ赤な血を噴水のように噴き出しながら、ド派手にバタンと仰向けに倒れる。

「くっ……!」

 見事に二体を瞬時に仕留めてみせたレイラだったが、そんな彼女に更なる脅威が迫る。

 別の方向から入ってきたもう一体――MG3機関銃を二挺持ちしたド派手な奴だ。ソイツが彼女に向かって銃撃を仕掛けてきたのだ。

 MG3の連射速度は一分間に一二〇〇発と、ミニガンほどではないにしろ凄まじい速さだ。それを二挺同時にとなると、撃ち出される弾の数は計り知れない。

 そんな苛烈な機銃掃射を、レイラはとにかく走って避けた。

 自分の背中を追ってくるMG3の銃火から走って逃げつつ、レイラは壁際にあった太い支柱の後ろに身を隠す。

 鉄筋コンクリートの頑丈な柱だ。太さも身を隠すには十分。少しの間は盾になってくれるだろう。

「全く、加減ってものを知らないのかしら……!?」

 レイラはジャガーノートの馬鹿みたいな火力に辟易しつつ、素早く左手を腰のシェルキャリアに走らせ、サッと再装填を始める。

 四発同時のクアッドロード、続く二発同時のデュアルロードで瞬時に六発を再装填すると、レイラは半身を出してベネリを発砲。ジャガーノートが携えた二挺のMG3の内、右手側を破壊してやる。

「レナード!!」

 そうして片方の機関銃を破壊した瞬間――レイラが叫んだ。

「任されましたよ……!」

 彼女が叫ぶのと同時に、ジャガーノートの傍から突如としてレナードが現れる。

 ベストなタイミングで奇襲を仕掛けるべく、彼には隠れて貰っていたのだ。オフィス内という閉所に奴らを引きずり込んだのも、この方が連中には不利ということもあるが……一番の理由は、レナードが最も戦いやすい環境であるからだ。

「はぁっ!!」

 完全に虚を突いたレナードは、日本刀を手に背中からジャガーノートに斬り掛かる。

 当然、普通に斬り掛かったのでは――幾ら彼の日本刀が1060炭素鋼と、刃先にタングステンカーバイドを仕込んだ特別製だとしても、斬り捨てるのは不可能だ。

 だからレナードは、馬鹿正直に叩き斬ることはせず……防弾スーツ、そこにある僅かな隙間を狙った。

 確かにこの防弾スーツは頑丈だが、それでも僅かな隙間は生じてしまう。

 それは例えば関節部分であったりとか、そういった可動部位かそれに近しい場所だ。レナードは先刻レイラが倒した遺体を見て、そのことに気が付いていたのだ。

 故に、今レナードが狙ったのは首元。厳密に言えば首の後ろだ。

 防弾アーマーの合間に生じた僅かな隙間、そこを狙い澄まして彼は鋭い刺突を放つ。

 すると――――あの意味不明な頑丈さが嘘のように、すんなりと刀身は肉を裂き、装着者の首にめり込んでいくではないか。

 延髄を切断し、ズブッと切っ先が反対側から突き抜ける。どう見ても即死だ。

「まずは、一体……!」

 そうして奇襲で上手く一体を仕留めたレナードだったが、しかし彼は息つく間もなく次の獲物へと飛び掛かっていく。

 遺体から刃を抜き、そのままダンッと地を蹴って肉薄。狙うは最後のM60持ちだ。

 弾丸のような勢いで迫るレナードを迎撃しようと、そのジャガーノートはM60機関銃を構えたが……しかしレナードの左手がひゅんっと閃いたかと思えば、ジャガーノートが構えたM60の機関部に鋭い鉄の棒が突き刺さってしまう。

 彼の投げた棒手裏剣だ。凄まじい勢いで投げ放たれた棒手裏剣は、完全にM60の大事な動作部分を破壊してしまっていた。これではもう発砲は不可能だ。

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 そうして機関銃を無力化すれば、狼狽えるジャガーノートにレナードは斬り掛かった。

 身を低くして懐に飛び込んでからの、バッと左から右に閃く逆袈裟斬りの一閃。

 そんな一の太刀で左腕の肘裏、関節部分を浅く斬り付ければ……バッと刃を返し、袈裟懸けに二の太刀を放つ。

「くっ……!」

 だが、ジャガーノートは歯を食い縛って左腕を動かし、その腕の甲で以てレナードの斬撃を見事に防いだ。

 ――――キィンッと、刃と防弾プレートが激突する甲高い音が木霊する。

 しかしレナードは狼狽えず、再び刃を返し……今度はガラ空きの腹目掛けて横薙ぎの一閃を放った。

 見事に入った三の太刀は、深々とジャガーノートの腹に食い込み、バッと鮮血を散らす。

 傷口から舞い散った返り血がレナードの頬を、そして眼鏡のレンズを小さく汚すが。しかしレナードはそれに構わぬまま、トドメの一撃を放つ。

 ――――白刃が、閃く。

 返す刃で放った、左から右への横薙ぐ一閃。それはジャガーノートの首を的確に捉え――その首を、見事に撥ね飛ばしていた。

 バンッと音が鳴るほどの鋭い斬撃で、切り落とされた頭部が宙を舞う。

 それが地面に叩き落とされるよりも早く、レナードはくるりと身体を回転させると、首を失ったジャガーノートの背中へと身を隠した。

 瞬間――――離れた場所から、彼に凄まじい散弾の豪雨が襲い掛かる。

 別のドアから踏み込んできた最後の一体による猛烈な掃射だ。AA‐12フルオートショットガンを両手に携えた、一番厄介な火力お化けの猛攻撃。その気配を肌で感じていたからこその、レナードの咄嗟の回避行動だった。

「やれやれ……物凄い勢いだ、これじゃあ動けませんよ」

 レナードは首の消え失せたジャガーノートの身体を盾にしつつ、猛烈な散弾の豪雨をどうにかやり過ごす。

 このまま、最後の一体の処理はレイラに任せたいところだったが……どうやら彼女も彼女で身を隠すのが精いっぱいで、とてもじゃないが奴の相手は出来そうにない。

「僕がやるしかない、ということですね……」

 レナードはやれやれ、と肩を竦めると、左手でサッと懐から十字手裏剣を三枚取り出し。ジャガーノートの猛烈な銃撃、そこに生じる僅かな隙を縫ってそれを投げつけた。

 ひゅんっと閃く左手で投擲された十字手裏剣は、そのままジャガーノートの頭部――厳密に言えば、防弾ガラスで構成されたバイザーにグサッと突き刺さる。

 流石に装着者まで仕留めることは出来なかったが、それでも視界は封じられたはずだ。突然目の前に手裏剣が突き刺さった奴が右往左往して慌てふためくのを見て、レナードはクイッと指先で眼鏡を押し上げつつ……再びダンッと地を蹴って踏み込む。

 地を這うような低高度で走り抜け、瞬時に懐へと潜り込み。そのままレナードは日本刀を振るうと、バッとその刃でジャガーノートを切り上げた。

「ふっ……!」

 まずは下から上に斬り上げる一閃で、右手側のAA‐12を切断。銃身を叩き斬り、これを使えなくする。

「はっ!」

 続けて刃を返し、縦一文字に刀を振るえば、今度は左手側のAA‐12も叩き斬る。

「だぁぁぁっ!!」

 そのままスッと腰を低くすれば、這うような横一文字に払う三の太刀でジャガーノートの膝を浅く斬り、奴の動きを封じてやる。

「これで――――!!」

 最後にカッと刃を返せば、右手一本でその首目掛けてサッと刃を閃かせた。

「――――っ!!」

 バンッと破裂音にも似た音が鳴り響き、刃が閃き。身体から別離したジャガーノートの首が宙を舞う。

 滞空時間は、一秒ちょっと。宙を飛んだ頭部がべちゃっと嫌な音を立てて背後に転がると、レナードはくるりと身体を回し、サッと刃に空を切らせて血を払う。

 そうして血を払った刀を、背中の鞘に納めた頃。カチンと音が鳴り、彼の研ぎ澄まされた刃が鞘に収まった頃――――レナードの背後で、頭を失った胴体がバタンと力なく倒れていた。

「…………流石ね。刃物を扱わせたら右に出る者が居ないとは、よく言ったものだわ」

 そんなレナードの見事な剣捌きを目の当たりにして、彼の元に近づいてきたレイラが素直な称賛を口にする。

 するとレナードは「いえいえ」と普段通りの爽やかな笑顔で返し、ニッコリと笑顔を浮かべたまま、その手の甲で頬に付いた返り血を拭ってみせた。

「これでひと段落って感じですね。……さあレイラさん、上を目指しましょう。本丸はすぐそこですよ」

「ええ、そうね」

 二人でコクリと頷き合い、そのままレイラとレナードは足早にこの場を去って行く。

 床に沈む幾つものジャガーノートの死体に目もくれず、二人が目指す先は二五階。社長室のある最上階――倒すべき相手、エディ・フォーサイスが待ち構えている最上階だ。

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