第十三章:ミリア・ウェインライト
第十三章:ミリア・ウェインライト
その日の夜更け頃、市街エリア中心部にあるリシアンサス・インターナショナル本社ビルの社長室。そこでCEOのエディ・フォーサイスは自分の机の上に肘を突いた両手を組みながら、目の前に立つミリアをジッと細めた双眸で見つめていた。
「…………取り逃がしたようだな、トゥエルヴ」
淡々とした、冷酷にも聞こえる冷たい口調で言うエディ。
ミリアはそれに対し「すまない、マスター」と素直に詫びた。
「油断したつもりはないんだ。相手はあの姉さんだからな……でも、姉さんの方が一枚上手だった」
続く彼女の言葉を聞き、エディは「まあいい」と小さく息をつきながら言い。そうした後でクルリと椅子ごと身体を回せば、背にしていた窓の方へと振り向いた。
「既にチェックは打った。後はここからどう出るか……」
そうして振り向いたエディは、呟きながら……椅子に腰掛けたまま、ビルの窓越しに遠くの夜空を見つめる。
そんな彼と同様に、ミリアもまた立ったまま窓越しに夜空を見つめ……そして、内心でこう思っていた。
(アタシは……アタシは必ず、姉さんをこの手で倒す。それがこのアタシ、トゥエルヴの存在意義。プロジェクト・ペイルライダーによって生み出されたアタシの……たったひとつの、存在理由なんだ)
思いながら、姉を手に掛ける決意と覚悟を新たにするミリア。
そんな彼女の横顔に浮かぶ色は、あまりに暗く……そして、どこまでも悲痛な色で。しかしそのことに、彼女のマスターであるはずのエディ・フォーサイスは全く気が付いていなかった。
――――彼にとって、ミリアは所詮道具でしかないのだ。
偶然買い付けることが出来た、非常に優秀な手駒。エディにとってミリアは単なるトゥエルヴであり、他の私兵たちと同様の武器であり、道具でしかない。
…………その程度のこと、ミリア自身も分かっている。
分かっているが……それでも、彼女にはこれ以外の生き方を選べないのだ。プロジェクト・ペイルライダーによって最強の暗殺者として育てられた彼女は、誰かを殺すための道具としてのみ存在を許されてきた彼女には……誰かの道具として生きる以外の、トゥエルヴとしての生き方しか選べない。
だからこそ、ミリアはせめてその生き方を全うしようと思っていた。マスターの命令のままに敵を排除し続ける、トゥエルヴという名の殺戮機械。それこそが、自分にとって唯一の存在理由であると、そう信じて…………。
「この局面で、果たしてどんな逆転の一手を打ってくるか……お手並み拝見と行こうじゃないか、セカンド」
エディはそんなミリアの内心も知らぬまま、彼女に背を向けたまま。ただ窓越しに夜空を見つめながら、ニヤリと不敵な笑みを湛えていた。
(第十三章『ミリア・ウェインライト』了)




