第十一章:カウンター・スナイプ/02
「ヤベっ!?」
そうして覚悟を決めたレイラが引鉄を引く一瞬前、ビルの建設現場で横たわっていたミリアは彼女の――レイラの刃物のような殺気を感じ取り。危機を察知したミリアはSR‐25スナイパーライフルから手を放し、咄嗟に真横へと転がった。
その直後、甲高い音が至近距離で鳴り響き……かと思えば、ミリアが今まで構えていたライフルが粉砕されてしまっていた。
一瞬遅れて、遠くから大口径ライフルの銃声が聞こえてくる。
――――レイラの狙撃によるものだ。
彼女がセーフハウスから放った七・六二ミリの大口径ライフル弾は、確かにミリアを捉えていた。咄嗟のところで避けたから、どうにか事なきを得たが……もしも一瞬でも判断が遅れていれば、粉々になっていたのはライフルだけではなかったかもしれない。
「危ねえ危ねえ……姉さん、ありゃあ本気で仕留めに来てたな」
建設途中のビル、鉄骨の裏に身を隠しつつ、ミリアは吹き飛ばされた自分のライフルを見つめながら冷や汗を掻く。
…………本当に、危なかった。
ミリアには分かる。レイラは彼女のことを本気で仕留めに来ていたと。手加減や容赦は一切無し、本気でミリアを殺す気で来ていたと……理屈ではなく、感覚的に彼女は理解していた。
レイラにそこまでの決意をさせるほどのものが、あの少年に……久城憐にはあるのか。
それを思ってしまうと、ミリアは嫉妬のような感情を自然と覚えてしまう。自分を捨てて何処かに行ってしまったレイラを、大好きだった姉をそこまで覚悟させるほどの彼に……ミリアは自然と、嫉妬のような気持ちを覚えてしまっていた。
「……ま、流石だぜ。それでこそアタシの姉さんだ」
ミリアはそんな感情を覚えながら、同時にレイラに対して素直な称賛を贈る。
心からの称賛を口にしつつ、ミリアは……頭上の満月を見上げながら、ニヤリと不敵に笑んでひとりごちていた。
「だが……この先、逃げ切れるかな?」




