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第十一章:カウンター・スナイプ/01

 第十一章:カウンター・スナイプ



 ――――狙撃だ。

 レイラが憐を押し倒した直後、セーフハウスの窓ガラスを突き破って飛来してきたのは七・六二ミリの大口径ライフル弾。つい一瞬前まで二人が立っていた辺りの空気を切り裂いたその銃弾が板張りの床に突っ込んだ直後、一瞬遅れて遠くから銃声が響いてくる。

「うおおおおっ!?」

「くっ……!?」

 そんな第一射が飛び込んでくると、程なく第二射、第三射と更に続けて狙撃が仕掛けられる。

 ひび割れた窓ガラスを粉砕しながら、続けざまに飛び込んでくる大口径ライフル弾の雨。セーフハウスの内装を抉り、電灯までもを叩き割るその狙撃に鏑木は驚き、レナードも苦い顔を浮かべながら、二人揃ってバッと床に伏せる。

 そうして四人全員が伏せた後も、遠くからの狙撃は止むことなく飛来し続け、レイラたちの周りに次から次へと着弾していく。

「おいレイラ、どうなってやがる!?」

「狙撃よ、見れば分かるでしょう!?」

 電灯が潰され、真っ暗になった部屋の中。伏せたまま叫ぶ鏑木に、レイラは憐を庇うように抱き締めたまま大声で叫び返す。

(このペースでの狙撃……恐らく敵の得物はオートマチック)

 そうして憐を抱き締めたまま、彼を狙撃と舞い散る破片から守りながら……レイラはあくまで冷静に、敵の戦力を分析する。

 これだけの連射速度での狙撃だ、間違いなく敵の得物は自動式のスナイパーライフルだろう。

 複数人で狙撃、という線も考えられるが……しかしレイラが感知している狙撃者の殺気は一人分だけだ。もし仮に複数人で同時に撃っているのだとしたら、レイラの鋭い察知能力が捉えていないはずがない。

 敵は一人、得物はオートマチック・ライフル……。

 ――――だとしたら、勝機はある。

「憐、ひとまずあっちへ!」

「分かりました……! でも、レイラは!?」

「考えがあるわ! ――――レナード、ライフルを!」

「レイラさん、出来るんですか!?」

「位置はおおよそ掴んでる! 良いから寄こしなさい!!」

「……分かりました! 受け取ってください!!」

 レイラはひとまず憐を安全な場所へと逃がすと、伏せた格好のままレナードに叫び、彼のスナイパーライフルを寄こすように叫ぶ。

 するとレナードは一瞬戸惑った後、うんと頷き。持ってきていたナイロン製のライフルケースの方まで這っていくと、その中からスナイパーライフルを――さっき学院で使っていたのと同じ、自動式のMSG90を取り出し、それをレイラに投げ渡す。

 仰向けになりながらバッと受け取ったレイラは、ひとまず弾倉を外して中身を確認。差し直した後、ライフルのコッキング・レヴァーを鋭く引いて初弾を装填。親指で弾いて安全装置を外し、ふぅーっ……と深呼吸をしてから、ゴロリと床を大きく転がる。

 転がって、伏せ撃ちの格好でMSG90を構え。肌をひりつかせる殺気を頼りに、感じ取る気配を頼りに、レイラは即座に狙撃手の居場所を割り出し……ゴールドの右眼でそっとスコープを覗き込む。

「…………やっぱり、貴女なのね」

 そうしてレイラが覗き込んだスコープの先、遠くにあるビルの建設現場。そこに伏せながら、こちらに向かってスナイパーライフルを構えている狙撃手は――――他でもない、あのミリア・ウェインライトだった。

 なんとなく、気配で分かっていた。ミリアの放つ気配は独特だ。他の人間には分からないだろうが……レイラには、よく分かる。

 だからレイラは、殺気を感じた時から何となくミリアじゃないかと思っていた。当たっていて欲しくはなかったが……どうやら、大当たりだったらしい。

 建設現場で伏せ撃ちの構えを取るミリアは、このセーフハウスに向かってSR‐25スナイパーライフルを向けている。

 アメリカ製の優秀なライフルで、レイラの予想通り自動式だ。ご丁寧に夜間狙撃用の暗視スコープまで付けている徹底ぶりは、ガサツなようで意外に几帳面なミリアらしいというか、何というか。

 そんなSR‐25を構えるミリアと、レイラはスコープ越しに目が合った気がしていた。

「…………」

(本当に……撃ってしまって良いの?)

 レイラは狙撃を仕掛けてきたミリアの姿を捉えた一瞬、ほんの一瞬だけ引鉄を引くことを躊躇してしまう。

 何せ、彼女にとってミリアは妹のような存在だ。血縁こそ無いが、本当の妹のように可愛がってきた彼女を……果たして本当に撃ってしまっていいのか、レイラは一瞬だけ躊躇ってしまっていた。

(……でも、貴女が憐を脅かすというのなら、私は)

 私は――――例え妹の貴女であろうと、容赦はしない。

「…………!!」

 憐を守るためだと覚悟を決め、レイラはMSG90の引鉄を引いた。

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