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第十章:プロジェクト・ペイルライダー/02

 ――――プロジェクト・ペイルライダー。

 十数年前、ヨーロッパ某国に存在していた研究機関が秘密裏に進めていた暗殺者育成計画。どんな困難な任務でも遂行し、あらゆる不可能を可能へと変える、そんな最強のアサシンを求めて行われた……狂気の計画。それが、プロジェクト・ペイルライダーだった。

 その被験者だったのがレイラであり、そしてミリア・ウェインライトだった。二人はそれぞれ『セカンド』『トゥエルヴ』という無機質な呼び名を与えられ、過酷な訓練の日々を送っていた。

 彼女たちが受けた訓練は様々で、直接的な暗殺術や戦闘技能の他、多種多様な乗り物の乗りこなし方や、現地に上手く溶け込む方法。語学や交渉術、科学知識といった座学などなど……優れた暗殺者として必要と思われる、およそ全ての技術を彼女たちは幼少期より叩き込まれていた。

 そうして生み出された最強の暗殺者がレイラ・フェアフィールドであり、そしてミリア・ウェインライトという二人のペイルライダー……黙示録に刻まれし、告死の騎士の名を授けられた乙女たちだったのだ。

「……ミリアと出会ったのは、ペイルライダーの施設に入って暫くした頃のことよ」

 レイラはそんな『プロジェクト・ペイルライダー』の概要を説明し終えた後、コーヒーカップを片手に、今度はミリアのことを話し始めていた。

「私がセカンドとして試験的に実戦投入される半年ほど前、あの()は私と同じ部屋に住むことになったの。あの()は私と違って……施設に入る前の記憶がおぼろげで、家族の記憶なんて殆ど持ってない私と違って、ちゃんと昔のことを覚えていた()だったの」

「……レイラ、自分の家族を知らないんですか?」

 疑問符を浮かべる憐に「ええ」とレイラは小さく頷き返し、

「さっきも言った通り、私は昔の記憶が殆ど無いの。物心ついた時には、既にペイルライダーの施設に居た。だから情報として両親がどういう人物だったかは知っていても、本質的には知らないのよ。私の中にある記憶は、ペイルライダーの暗殺者として育てられていた施設から始まっているの」

 と、淡々とした口調で憐に説明した。

 ――――レイラ・フェアフィールドには、暗殺者として育てられる前の記憶が無い。

 それは彼女が、ごく幼少期より暗殺者として育てられ始めていたが故のことだろう。今まさにレイラの言った通り、彼女は自分が英国出身の人間で、そして両親がどのような人物か……後々になって調べたそれを情報としては知っていても、本質的には知らないも同然なのだ。

 彼女にとって、自分のルーツも両親も、全ては単なる情報でしかない。物心ついた時には既に『プロジェクト・ペイルライダー』の暗殺者候補として施設に入っていた彼女の過去は、彼女にとって無いも同然のことなのだ。

「……少し、話が逸れてしまったわね」

 そんなレイラの過去へと話が逸れると、レイラは小さく咳払いをして話の軌道を元に戻し。肝心のミリアについてのことを続けていった。

「あの()の……ミリアの両親は、殺されているの」

「と、いうと?」

 訊き返してくるレナードに「黙って聞いていなさい」と短く言い、レイラは話を続ける。

「要は強盗よ。あの()の両親は、押し入ってきた強盗に殺された。でも……ミリアは、生きていた。何故だと思う?」

「……運がよかったから、でしょうか」

 レナードが答えると、レイラは「半分は正解よ」と言って、

「もう半分の答えは――――ミリアが、押し入ってきた強盗を殺したからよ」

 と、残されたもう半分の回答を明示する。

「ミリアは家にあった包丁を使って、両親を殺した強盗二人組を返り討ちにしたの。まだ子供なのに、大の大人二人を……たった一人で、よ」

「もしかして……それに目を付けて?」

 自力で答えに行き着いた憐に「その通りよ」とレイラは頷き、それが正解であると肯定する。

「彼女はその類い稀な才能……殺しの才能、とでも言うべきかしらね。それを土壇場で開花させた。その才能に目を付けられた結果、ミリアは『プロジェクト・ペイルライダー』の暗殺者として育てられることになったのよ。

 …………身寄りのない子供よ。そんなミリアを確保するのは、さぞ容易だったことでしょうね」

 レイラは呟いて、また珈琲を一口飲み。乾いていた喉を潤すと、また話を再開した。

「ずっと一人部屋だった私の部屋に、そのミリアがやって来たの。あの頃の彼女は、そういう事件があった直後だったせいなのでしょうけれど……ひどく情緒不安定でね。私はそんなあの()を放ってはおけなかったの」

「だから、レイラを姉さんと?」

「そういうことね」と憐に頷くレイラ。

「私に懐いてくれたミリアは、いつしか私のことを姉と思うようになっていたわ。……私も嬉しかった。だから私は、ミリアのことを本当の妹のように可愛がったわ。それに、今でも……妹だと思っている」

「んでよレイラ、肝心なところがまだだぜ。ミリアちゃんの話は前にお前さんから聞かされてるから良いとして、なんでまたその妹ちゃんが敵に回ったか。んでもって、なんで坊主が狙われなきゃならねえのか……そこがまだだぜ」

 鏑木に言われて、レイラは「……そうね、そこを話さないとならないわね」と呟き。また珈琲を僅かに飲むと、遂に本題へと――ミリアが敵に回っている理由、そして憐が狙われている本当の理由について、推論を交えつつ皆に話し始めた。

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