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第八章:宿命の姉妹/03

 その頃、八城学院の大部分は鏑木とレナードの手によって既に制圧されていた。

「行くぜ」

「タイミングは合わせます」

 そして、最後に残った体育館。人質たちが集められているだろうそこの扉の前に立ち、鏑木とレナードは頷き合い。タイミングを合わせて扉を蹴破ると、二人で雪崩のような勢いで内部へと踏み込んでいく。

「はいはい、お巡りさんですよ!」

 不敵な笑みを湛えながら言って、鏑木は携えていたイサカM37ショットガンを発砲。手近な私兵二人をダブルオー・バックショット散弾で吹っ飛ばし、撃破する。

「諦めて降参してください! ……と言っても、無意味でしょうね」

 同時に突入したレナードはさっき使っていたMSG90スナイパーライフル……ではなく、懐から抜いていた愛用のリヴォルヴァー拳銃、銀色のコルト・パイソンを発砲する。

 ショットガンのような銃身上のベンチレーテッド・リブが美しい、芸術品のような四インチ丈のステンレス銃身。そこから撃ち出された強力な三五七マグナム弾は、レナードの狙い通りの軌跡を描き……今まさにライフルを構えていた私兵の眉間へと命中。一撃で以て即死させてしまう。

 そうして二人で突入した鏑木とレナードは、息の合ったコンビネーションで次々と敵を撃破し。体育館の中に残っていた十数人の私兵部隊を……ものの一分足らずで全滅させてしまっていた。

「心配しなくていい、おじさんたちは警察だ!」

「もう大丈夫です! すぐに外へ逃げてください!」

 そうして体育館を制圧すると、怯えて縮こまっていた数百名の人質たちに叫び。そのまま彼らを解放してやる。

 ある者はパニックになって泣き叫びながら、ある者は必死の形相を浮かべながら、皆は我先にと体育館を飛び出していく。

 そんな――ある意味で混乱した状況下、二人は体育館の中に並び立ち。完全制圧を終えた体育館を見渡しながら、疲れたように小さく息をついていた。

「これで終わりですね、鏑木さん」

「んだな。ったく……おじさんにはキツいぜ、こういう仕事」

「ははは……それでもバッチリ戦えている辺り、流石ですね」

「よせやい、褒めても何も出ねえぜ」

 苦笑いするレナードと、それにニヤリと笑みを返す鏑木。

 鏑木は右手でイサカを肩に担ぎながら、空いた左手でマールボロ銘柄の煙草を取り出し、そっと口に咥える。愛用のジッポーでシュッと火を付け、彼が仕事終わりの一服を愉しみ始めた傍ら……レナードは改めて体育館の惨状を見つめながら、ボソリとこんなことを呟く。

「……それにしても、白昼堂々こうして学院を襲撃するなんて、大胆というか不作法というか」

 それに鏑木は「全くだぜ」と相槌を打ち、

「前に智里が関わった例の案件……美代学園襲撃事件を思い出しちまう」

 と、続けて呟いていた。

 ――――美代(みしろ)学園襲撃事件。

 数年前にも、今と似たように学園が武装集団に襲撃される事件があったのだ。

 その被害に遭った学園、私立美代学園は……今回とは違い、学院に居た生徒と教師の殆どが、襲撃を仕掛けてきた武装集団によって惨殺されてしまっている。

 生徒と教師、合わせて数百名単位で殺されたこの事件。今でも史上最悪のテロ事件として語り継がれているこの事件、何を隠そう鏑木の親戚……公安刑事の桐原(きりはら)智里(ちさと)が深く関わっている事件でもある。

 表向きには凄惨なテロ事件として処理されていて、警察の特殊部隊SAT(サット)が鎮圧したことになっているが。その実態はというと……ある巨大国際犯罪シンジケートが、一人の少女だけを狙って実行した襲撃なのだ。

 つまり、他の死傷者たちはついでに殺されたということ。

 またこの事件に際して、少女の護衛役として雇われていたあるスイーパーが学園内で激戦を繰り広げ、少女自体はそのスイーパーが無事に救出。その後更なる激戦を経て、襲撃を実行した国際犯罪シンジケート……『スタビリティ』という名の組織は崩壊している。

 本来なら表沙汰にはなっていない事件の真相だが、その事件に深く関わった公安刑事・桐原智里と親戚関係にある鏑木や、彼と深い関係にあるレイラに……それにレナードも、真相を心得ている。

 というか、その少女の護衛に当たったスイーパー――――ハリー・ムラサメという彼とも、鏑木もレイラもレナードも親交があるのだ。

 故に、この場に居ないレイラを含めた三人は、今日の事件と酷似した数年前の事件について心得ていた、というワケだ。

「不幸中の幸いは、あの時ほど大量の犠牲者が出たワケじゃねえってことだが、しかし……」

 そんな過去の事件を思い返しながら、鏑木は呟き。そうしながら、足元に転がるリシアンサス・インターナショナルの私兵の死体……ついさっき鏑木自身がショットガンで仕留めた奴の死体に、そっと視線を落としてみる。

 鏑木は転がる死体をチョイっと軽く足で小突きながら、溜息交じりに……参ったようにボヤいていた。

「これ、上になんて報告すりゃいいのかねえ」





(第八章『宿命の姉妹』了)

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