第七章:レーゾン・デートル/09
憐を助け起こした後、レイラはグロックの弾倉を交換。ホールド・オープンしていたスライドを元に戻したグロックを一度腰のホルスターに戻すと、彼女は倒れた三体の遺体の元にしゃがみ込んだ。
そして、おもむろに遺体の持ち物を漁る。目的は当然――武器の調達だ。拳銃一挺とナイフ一本では、当然ながらこの状況下からの脱出は不可能と判断したのだ。
「またブルパップ……とはいえ、文句を言っていられないわね」
結果、レイラは自動ライフルを一挺手に入れることが出来たが……セントラルタワーの時と同様、またのブルパップ式のライフルだった。
タボールX95、イスラエル製のブルパップ式自動ライフルだ。
使用弾薬はポピュラーなNATO規格の五・五六×四五ミリ弾。上部のアタッチメント取り付け用アクセサリーレールには、接近戦用の553ホロサイト照準器が取り付けられている。
実を言うと、レイラはこのテのブルパップ式ライフルは――銃床の真下に機関部がある都合上、あまり好みの形式ではないのだが。しかしこんな状況下だ、選り好みをしている場合ではない。武器が手に入っただけ僥倖と思うべきだろう。
それに校舎内という閉所での至近距離戦闘ならば、コンパクトなブルパップ式は便利だったりする。
レイラはそんなタボールを手に入れると、ついでに予備弾倉も幾つか拝借しておく。これはスーツジャケットの左ポケットに纏めて突っ込んでおいた。
「憐、確か理科室は四階だったわよね?」
そうして武器を手に入れたレイラは立ち上がると、傍らに立っていた憐に唐突な質問を投げかける。
憐はそれに「はい」と頷いた後、「でも、理科室ですか……?」と不思議そうに首を傾げた。
「百聞は一見に如かず、付いていらっしゃい」
戸惑う憐を連れて、レイラはタボール片手に四階の廊下を疾走する。
そうして、ものの数十秒で理科室に到着した。
廊下の突き当たりにある引き戸から中に入り、ガラッと後ろ手にドアを閉めれば、ひとまずの安全地帯を手に入れる。
とはいえ――安全地帯の確保が目的だったワケではない。この理科室にはあくまで用があってやって来たのだ。
「……さて、ここからはどこまでアドリブが効くか、よね」
独り言を呟きながら、レイラは理科室内のあちこちにある薬棚や……奥の理科準備室にある棚まで、全部を片っ端からタボールの銃床で殴っては無理矢理に叩き割っていく。
そうして手際よく集めたのは、数種類の試験用の薬品が入った瓶たち。加えて準備室内にあったパイプ椅子を分解し、その脚だけを集めては、懐から取り出したナイフのブレード……その根元部分にあるノコギリのような波刃で強引に小刻みに切り分ける。
「えっと……レイラは何を作っているんですか?」
集めた薬品の瓶を開け、蓋をしたパイプ椅子の脚に注いで混ぜ合わせれば、また蓋をしてを繰り返すレイラ。
そんな彼女の謎の行動を不思議に思い、憐が何気なく問うてみると――――。
「即席のパイプ爆弾よ」
レイラの答えといえば、そんな物騒極まりないものだった。
「パイプ爆弾……って」
「残念ながら此処にある程度の材料で作ったものだと、こけおどし程度の威力しか出ないわ。本当なら倉庫なりに行って、園芸用の肥料なんかを入手できればベストだったのだけれど……流石にそこまで時間は割けない。脅し程度でも、時間を稼ぐには十分よ」
「……凄いですね、こんなのまで作れるなんて」
「手先が器用だとはよく言われるわ。……それ以前に、私はこういう訓練も受けているから」
言いながら、レイラは手早く作業を終え。即席のパイプ爆弾を計三本製作すると、それを懐に入れ、傍らに立てかけてあったタボールの銃把を再び取る。
――――敵の気配は、近い。
既に私兵部隊が学院を制圧した後で響いた銃声だ、さっきの交戦で異常事態が起きたと判断し……こちらに別の部隊が大挙して押し寄せてきている気配を、レイラは既に感じ取っている。
そんな大勢を相手にしながら、自分も憐もこの学院から脱出せねばならないのだ。無事に脱出できる確率を少しでも上げるために、少しでも多くの武器を手に入れるために……そのために彼女はこの理科室に来て、即席ながらパイプ爆弾を作ってみせたのだ。
彼女自身が言った通り、あり合わせの道具では本当にこけおどし程度の低威力な爆弾しか作れなかったが。それでも……脱出するには十分だ。
「憐、私から絶対に離れないで」
「……分かってます」
「良い子ね。……よし、行くわよ」
そうして武器を手に、レイラは憐を連れて理科室から出ていく。




