第七章:レーゾン・デートル/08
そうして行動を開始した二人は、それぞれグロック26を手に慎重に廊下を歩いていた。
不自然なまでに静かな廊下の中、極力足音を殺しつつ歩く二人。だが校舎の中ほどにある階段の手前に差し掛かった辺りで、二人は遂に敵と遭遇していた。
「っ!!」
曲がり角での、不意の遭遇戦だ。
敵の数は三人、いずれも以前セントラルタワーで見たのと同じ重装備の私兵部隊だ。
危うくぶつかりそうになりながら、不意に出会った二人と三人は――即座に戦闘を開始した。
「憐っ!!」
レイラは叫びながら咄嗟に憐を突き飛ばし、そのままグロックを発砲。先頭の一人の胸目掛けて続けざまに九ミリパラベラム拳銃弾を叩き込み、吹っ飛ばして怯ませる。
今回もやはり連中は防弾プレートキャリアを羽織っているから、弾は貫通せずに致命傷には至らなかったが……それでも、僅かな間ながら敵を行動不能には出来る。幾ら防弾装備といえども、貫通しなくても着弾の衝撃は伝わるのだから。
「ッ……!!」
そうして一人を怯ませた後、レイラは即座に二人目へと飛び掛かった。
ライフルを構えようとした二人目の兵士に軽いタックルを仕掛け、レイラは撃たせる間もなく懐に飛び込む。
そうすれば兵士の右手を払いつつ、レイラは携えたグロックを兵士の首元に押し付け……三連射。至近距離からの銃撃でバイタルゾーンを破壊し、すぐさま即死させる。
するとレイラはそのまま三人目にも肉薄。やはり構えようとしていたライフルを、今度は左腕で払うことで構えを妨害しつつ……今度はバッと構えたグロックで顔面目掛けて連射。丁度グロックが弾を切らしてスライドをホールド・オープンさせた頃、顔面を撃たれた三人目の男はバタンと仰向けに倒れていた。
「レイラっ!」
「ッ――――!!」
その時、憐が叫ぶ。
さっき吹っ飛ばした一人目の兵士が起き上がろうとしているのだ。レイラは既にその気配に気づいていて、憐に言われるまでもなく左手をスカートの左ポケットに走らせていた。
そこから愛用のマイクロテック・ソーコムエリートの折り畳みナイフを抜刀。バチンと刃を起こし、そのまま下手投げでナイフを投げつけようと振り返ったのだが――――。
「レイラは、やらせない……!!」
しかし彼女の左手が閃くよりも早く、憐の構えたグロックが火を噴いていた。
さっき突き飛ばされた憐は床に仰向けで転がった格好のまま、両手でグロックを構えていて。そんな彼が撃ち放った九ミリパラベラム弾は、思いのほか正確な狙いで兵士の頭を捉え――撃ち抜いていた。
起き上がろうとしていた兵士が、殴られたようにバンッと再び倒れる。
そんな光景を唖然とした顔で眺めつつ、レイラはひとまずナイフを仕舞い。憐の元に駆け寄って、彼に手を差し伸べながら「……無茶するわね」と、戸惑った顔で呟く。
「一度撃ってしまった以上、一人も二人も変わりません。レイラを守れるのなら……僕は、構わない」
差し出されたレイラの手を握り返しながら、憐は彼女にそう言い返す。真っ直ぐな眼で彼女のゴールドの瞳を見つめながら、確かな芯の強さを秘めた声音で。
そんな彼を見て、レイラは思わずフッと微笑む。手を握り返してきた憐を引き起こしながら、レイラは何気なくこう呟いていた。
「やっぱり、貴方は恭弥の子ね」




