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第七章:レーゾン・デートル/07

 そうして、急襲を仕掛けてきたリシアンサス・インターナショナルの私兵部隊が学院全域を支配下に置いた頃。肝心の憐と、そしてレイラはというと――――。

「あ、あの……」

「静かに。多少狭いのは我慢しなさい」

「あ、いや、そういうことじゃなくて……うぅ」

 学院新校舎・北館四階フロア。その廊下の片隅にある掃除用具入れのロッカーの中で――二人は、じっと息をひそめていた。

 ロッカーなんて狭い空間に二人で入っているのだ。幾ら憐が比較的小柄な方だといっても、これだけの狭さではどうしても密着してしまう。

 特に、レイラと憐の身長差が身長差だ。一七七センチと一六四センチの二人、その身長差は十四センチ。ともなれば、憐の顔は自然と彼女の胸に押し付けられる形になってしまっていて……であるが故の、顔を真っ赤にした憐のこのドギマギとした反応であった。

(うわ、やっぱりおっきい……じゃなくて!)

 狭い空間の中、密着したままレイラの胸に全力で顔を埋める形を強いられ。その大きく形も良い双丘の感触を存分に味わいつつ……しかし理性だけは失うまいと、憐が必死に自分自身との戦いを繰り広げる。

(……やっぱり、こうなってしまうのね)

 しかしそんな憐とは裏腹に、当のレイラ本人といえば一切気にした様子はなく。あくまで冷静なまま、外部の状況を静かに見極めていた。

「…………とりあえず、収まったみたいね」

 そうしてロッカーに二人で隠れること、どれぐらいが経っただろうか。ひとまず騒ぎが収まったと見ると、レイラは憐とともに隠れていたロッカーから外に出る。

 ロッカーから出た後、レイラは周囲を注意深く警戒しつつ……スーツの懐から自前のスマートフォンを取り出し、鏑木に電話を掛けた。

 レイラのスマートフォンには、特別製の電子防護システムが組み込まれている。

 いわゆるECCMという奴で、故に私兵部隊が電波妨害を仕掛けている状況下でも、こうして何事もなく電話が出来ているのだ。

 こういう事態も想定しての仕掛けだったが……まさか本当に役に立つとは、レイラも思っていなかった。

『おうレイラ、どした?』

「最悪の事態が発生したわ、緊急事態よ。学院が襲撃を受けた」

『………………マジかよ』

 鏑木は最初の受け答えこそ呑気な調子だったが、しかしレイラに学院襲撃のことを聞かされた途端、電話の向こうで顔を青くしたのが分かった。

 レイラは絶句する彼に「事実よ」と短く告げ、

「予想は出来ていたことだけれど、ここまで早く動いてくるとはね……警察の方ではこの件、掴んでないの?」

『掴んでたら、俺がこんな反応すると思うか?』

「そうでしょうね。……単刀直入に訊くわ、動ける?」

『動くしかねえだろ、こうなっちまった以上は。……智里に連絡してから、俺も現地に向かう』

「貴方が直接?」

 鏑木の唐突な言葉に驚いたレイラが訊き返すと、鏑木は『おうよ』とニヤリとして肯定する。

『脱出するにしたって、手数は多いに越したこたぁねえだろ? どのみち、最終的にゃ俺たち警察でどうにかしなきゃならねえんだ。先行して俺が援護に行くぜ』

「……助かるわ。でも気を付けて」

『そりゃあこっちの台詞だぜ。連中はかなりの手練れだ……気を付けろよ、レイラ』

 神妙な語気で言う鏑木に「……ありがとう」と微かに笑みながら言った後、レイラは電話を切り。スマートフォンを懐に収めると、今度はスカートの右腰に手を伸ばした。

 スカートの内側、インサイド式のホルスターで巧妙に隠したグロック26の小型拳銃をサッと抜く。

 一度弾倉を抜いて残弾数を確認し、差し直した後でスライドを鋭く引き、初弾装填。

 そうした後でレイラは憐の方に振り向くと、「貴方も抜きなさい」と彼に言う。

「はっ、はい。分かりました。……早速になってしまいましたね」

 憐は頷きながら、自分も隠し持っていたグロック26を抜き、レイラと同じようにスライドを引く。

「貴方は必ず私が守り抜く。でも……イザという時は、それで自分の身を守りなさい」

「……わ、分かりました」

「行きましょう、今は学院を脱出するのが先決よ」

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