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第七章:レーゾン・デートル/06

 授業中の八城学院、その静寂を打ち破ったのは、唐突に鳴り響いた一発の銃声だった。

 それを皮切りに、学院のあちこちで銃声の多重奏が始まる。弾ける銃声に窓ガラスが割れる音、生徒たちの悲鳴が重なり合い、早朝の静けさは掻き消えて。今の学院を支配しているのはそんな、あまりに残酷な喧騒だけだった。

 しかし、未だ警察が駆け付ける気配はない。用意周到なリシアンサス・インターナショナル社の私兵部隊は、周辺の電話線を切断し、電波妨害を仕掛けるなどして時間稼ぎを行っていたのだ。

 故に、この突然の襲撃にはまだ誰も気づいておらず。八城学院はものの数分程度というあまりの早さで、その全域を支配されていた。

「人質は向こうの体育館に集めろ。一か所に集めておいた方が面倒がなくて良いだろ?」

 そんな制圧後の学院新校舎・南館内、三階フロアの廊下にて。ミリアは私兵たちに連れられて行く生徒たちの群れを見送りつつ、手すきの兵たちにそれぞれ指示を下しては役目を与えていた。

 指示を下すミリアから少し離れた場所には、幾つかの遺体が転がっている。血溜まりの中に沈んでいるのは……ジャージ姿の体育教師が一人、男子生徒が二人だ。

 三人とも、このフロアに私兵部隊が攻め入った際、勇敢にも立ち向かっていったのだ。その結果として……こうして、殺されてしまっているのだが。

「……こういうのは、アタシの趣味じゃないんだけどな」

 ミリアはそんな三つ分の遺体をチラリと見つつ、嫌だ嫌だと言わんばかりに大きく肩を揺らす。

 ――――これでも、極力殺すなと兵たちには厳命したのだ。

 事実、ミリアの率いた私兵部隊は生徒も教師もあまり殺していない。携えたライフルも黒ずくめの重装備も、基本は脅しの道具としてしか使っていないのだ。

 だが……中にはこうして立ち向かってくる勇敢な心の持ち主も居る。

 兵たちだって命懸けだ。振り払う火の粉を払うな、とまではミリアも言えない。

 であるからこそ、こうして学院内の所々には幾つかの遺体が転がっている。これでも必要最小限の殺傷数に収めてはいるが……それでも、ミリアの心は穏やかではなかった。

「報告します」

 そうしてミリアが眉をひそめていると、兵の一人が彼女の元に駆け寄ってくる。

「なんだ?」

「例のターゲットの少年と、その護衛なのですが……」

「見つかったのか?」

「いえ、何処にも見当たらないようです。体育館に集めた人質を一人一人確認しましたが……少年と護衛の姿は、何処にもありません」

 ――――久城憐と、レイラ・フェアフィールドの姿が見当たらない。

 ある意味で容易に予想できたことだ。まさかあの彼女が……レイラ・フェアフィールドが、この程度の襲撃を察知できないはずがないのだ。ミリアとて彼女のとんでもない知覚能力はよく知っている。これは当初から予想していたことだ。

 であるが故に、ミリアはその報告にも大して驚かず。傍らに立つ兵に「探せ」とだけ短く命じる。

「さて……これから始まるのは隠れんぼか、それとも鬼ごっこか。楽しもうぜ……なぁ、姉さんよ?」

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